焼き芋とドラン来訪
「皮がない焼き芋も美味しいですね~」
アルミホイルを剥きながら焼き芋を口にするアイリーン。
「あのサイズの芋をまるのまま焼き芋にしようと思ったら一時間でも火が入らないだろうし、入ったとしてもまわりから焦げそうだからな。仕方なしにカットして皮を剥いてホイルで包んだが、これはこれで食べやすいし焦げている部分も香ばしくて美味いな」
「これなら何本でも食べられるのだ!」
「キュウキュウ~」
「甘くて美味しいな!」
「ん……最高……」
キャロットと白亜は尻尾を振りながらおかわりを口に入れフランとクランも表情を溶かしながら一心不乱に口に入れる。
「おっ、聖女ちゃんも起きましたね~痛いところはありますか~」
焼き芋を食べ終えたアイリーンが身を起こした聖女タトーラに気が付き、焼き芋を手に取り向かい声を掛ける。
「はい、痛みはありませんが……気を失っていたのですね……」
「キュロットさんのアッパーが見事に顎に決まっていましたからね~それよりも反省は後にして温かいうちに食べて下さい」
適度に冷めたアルミホイルに包まれた焼き芋を渡し、手にした聖女タトーラは皆が夢中で食べている様子にアルミホイルを剥き湯気を上げる皮のない焼き芋を見つめる。
「昨日のスイートポテトに使ったお芋ですね」
「そうですよ~あまりの美味しさに頬っぺたが落ちないように気を付けて下さいね~」
アイリーンの言葉に互いに視線を合わせて微笑みを浮かべ焼き芋を口に入れ目を見開く。
「驚きましたか?」
無言で数度頷き咀嚼を繰り返し、大きな口で齧りつきシットリとした食感と甘さを堪能する。
「クロさまの料理が美味しいのは理解していた心算ですが、これは凄いです……甘芋と呼ばれるだけあって甘いと思い口にしましたが、予想の遥か上を行く甘さとシットリとした食感が心地良いです……この世にこれ程のお芋がある事に驚きです……」
その言葉にドヤ顔を浮かべるアイリーン。
「このお芋は特別に美味しいですからね~前に紹介したアルーさんが管理して地中で作ってくれていますよ~」
「アルーさんとはアルラウネと呼ばれ、蔓芋から不思議生物に進化した存在ですね~キラービーや妖精たちと仲が良くて、クロ先輩とも仲が良いですよ~」
焼き芋を夢中で食べる聖女タトーラにドヤ顔で説明し、クロ先輩と仲が良いと耳に入れ咽そうになるが飲み込み口を開く。
「クロさまと仲が良いのですか?」
焼き芋を両手に持ち不安げに問う聖女タトーラの姿にニヤリと口角を上げる。
「クロ先輩から怪しい薬を貰うとヤバイ感じに喜びますね~」
「液体肥料だからな。怪しい薬とかいうなよ」
すぐさま訂正するクロはペットボトルのお茶を聖女タトーラの前に置き、アイリーンは素早い訂正に不満があるのか口を尖らせる。
「おかわりもありますから良かったら食べて下さいね」
「はい、ありがとうございます。私が知る甘芋よりも数倍甘くシットリとした味に驚くばかりです」
「夕食には甘芋を使った別の料理も作りますから楽しみにして下さいね」
「まあ、それは楽しみで」
笑みを浮かべ喜んだ聖女タトーラが突然フリーズし目を閉じ、その姿にクロは思う。
また、女神ベステルさまからの神託を受けたな。会話中や食べている途中ではなく空気を呼んだタイミングで神託しろよ……
「クロ先輩、これって……」
「神託だろうな。焼き芋はまだあるし、先に送るか」
アイテムボックスから段ボールを取り出しアイリーンと七味たちが協力して織り上げたシーツを乗せ、そこに木皿に乗せた焼き芋を数本置くと瞬時に消え失せる。
「クロさま、神託が降りました! 焼き芋と夕食の料理を奉納せよと……」
「焼き芋は奉納しましたので大丈夫ですよ」
その言葉受けホッと胸を撫で下ろす聖女タトーラ。
「おや、アレはドランだぜ~」
遠くからこちらに向かいやって来るドラゴンが目に入り焼き芋で指差すエルフェリーン。聖女タトーラはその姿に口をパクパクさせ驚き、目の前にいるクロが口を開く。
「ドランさんが魔化している姿なので大丈夫ですよ」
「明日は稲刈りですね~」
「いっぱい刈って美味しいごはんにするのだ!」
「キュウキュウ~」
ゆっくりと旋回し降りてくるドラゴンに聖女タトーラは大丈夫といわれたがクロの後ろへと隠れ、着地し魔化を解いたドランがドラゴニュートの老人の姿になり丁寧に頭を下げ優しい表情へ変わり、エルフェリーンやグワラが手を振りながら再会を喜ぶ。
「あの方はドランさんです。キャロットの祖父で元竜王国の王さまだった人です」
「竜王国の王さまですか……」
「爺さまも焼き芋を食べるのだ~」
「キュウキュウ~」
焼き芋を持って走り出すキャロットと白亜。その姿に恐怖していた聖女タトーラはすっかり青くなっていた表情を変え微笑み、クロもドランの下へと足を進める。
「白亜さまにキャロットも元気そうで良かった。明日は稲刈りをするので手伝いを頼みに来たのだが、見慣れぬ者がおるの」
「聖女なのだ! 焼き芋なのだ!」
「キュウキュウ~」
アルミホイルに包まれた焼き芋と一緒に紹介するキャロット。ドランは孫から焼き芋を「そうか、そうか」と喜びながら受け取り、やって来たクロとエルフェリーンにグワラと再会を喜ぶ。
「ドラーーーン、よく来たね~」
「ドランさま、お久しゅうございます」
「稲刈りですね」
「エルフェリーンさまもお元気そうで、グワラもあ奴らの変わりようを早く見せたいぞ。クロよ、明日は宜しく頼む」
皆と挨拶を交わすドランの姿に聖女タトーラは気の良いお爺ちゃんなのだなと思いながら足を進める。
「御初に御目にかかります。聖女タトーラと申します」
「うむ、そのように気を張らんでもよい。ワシはただのドラゴニュートの爺だからのう。それよりも聖女がいるのはクロ殿に関係が?」
丁寧に頭を下げ自己紹介をする聖女タトーラからクロへと視線を向け、視線を向けられたクロは後頭部を掻きながら気まずそうな表情を浮かべる。
「はい、女神ベステルさまのご友人であるクロさまの盾になるべく追従させていただいております。クロさまの天使であるヴァルさまからも認めていただきました」
「ほぅ、それは素直に驚いたのう。あの天使に認められるとは……うむ、ワシは元エルフェリーンさまの冒険仲間。『草原の若葉』に迎えられたのなら我も力になろう。力が欲しい時は頼るといい」
「頼るといいって、今日はドランが僕らに頼みに来たんじゃないか」
エルフェリーンからのツッコミにガハハと豪快に笑うドラン。キャロットや白亜も同じように笑い声を上げ、ドランに認められた聖女タトーラも口元に手を当て小さく笑い声を上げる。
「ドランも来たし、今夜は飲み会だね!」
「おお、それは嬉しいですな。クロ殿の料理や酒は力が湧き活力が漲るからのう」
「昨日も一昨日も飲み会だった気がしますが……はぁ……」
盛り上がるエルフェリーンとドラン。飲み会と耳にしロザリアやキュロットにキュアーゼがテンションを上げ、クロは明日の稲刈りにお酒が残らないよう神に祈るのであった。
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