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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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模擬戦と焼き芋



 モツ煮込みの仕込みを終えたクロたちは午後の日差しを浴びながら模擬戦をし、並行して落ち葉で焚火をしている。時折、棒を使い火加減を見ながら落ち葉を追加しアルミホイルに包まれた甘芋の様子を窺うクロ。


「うふふ、焼けるのが楽しみですねぇ」


「そうですね~シットリ系の焼き芋は最高ですよね~」


 なんとも平和な会話をしながらも木剣を使い打ち合うメリリとアイリーン。その奥では聖女タトーラとキュロットがインファイトで殴り合う。


「手加減しているのだから根性見せなさい! そう! 気合を入れれば顎に一撃受けようともダウンしないわ!」


「はい、私はまだまだ戦えます!」


 顎に一撃を受けダメージが足にきているのかプルプルと震えるが、瞳には闘志を宿し拳を構える聖女タトーラ。『剛腕』の二つ名を持つキュロットはテクニックもパワーも数段上であり、インファイトで打ち合う姿に顔を歪めていたフランとクランだったがいつしか聖女タトーラの姿に声援を送っていた。


「聖女頑張れ~村長は左のガードが甘いからそこを全力で打って!」


「フェイント無駄……一撃必殺……息の根止めろ……」


 フランとクランの応援に耳に入れ二人へ睨みを利かせるキュロット。その隙を逃すまいと震える足で大地を蹴り一気に前に出る聖女タトーラ。


「破っ!」


 フランの声援通りに左のボディーを狙って拳を振り抜くが、右足を軸に半回転するように下がりボディーブローを躱しカウンターで顎に優しく拳を当てダウンさせる。


「接近戦ではやはりキュロットの方が何枚も上手なのじゃ」


「筋は悪くないと思うけどスピードも威力もスタミナもまだまだ伸びしろがあるね~おっ! また立ち上がったぜ~」


「回復魔法を使ったわ。倒れても回復魔法を使い何度でも立ち上がる姿勢は褒めてあげたいわね」


「ゾンビよりもタフなのだ!」


 ロザリアにエルフェリーンとビスチェが聖女タトーラの健闘を褒めキャロットは何度も立ち上がる姿にテンションを上げる。

 ちなみにキャロットの傍にいつもいる白亜だが、模擬戦が始まると焚火をするクロの下へと走り背中にくっ付いている。殴り合う姿に恐怖を覚えたのだろう。


「もう少しで焼けるからな~」


「キュウキュウ~」


 地面にしゃがみ木の棒で火力を調節しながら焚火を操るクロの後ろで尻尾を揺らす白亜。グワラも焼き芋が待ち遠しいのか時折尻尾をゆらりと揺らす。


「やっぱり正攻法ではメリリさんに勝てる気がいませんね~」


「うふふ、私はこれでも『双月』と呼ばれる冒険者でしたからねぇ。双剣を使い数十年単位で実践を潜り抜けております」


 アイリーンが持つ木剣が明後日の方向へ弾き飛ばされ両手を上げて降参し、メリリは笑顔で応え修練を終わらせる。キュロットも聖女タトーラの意識をアッパーカットで刈り取り優しく抱き上げ終わらせアイリーンに声を掛ける。


「こっちに回復魔法をお願いね」


 優しくお姫様抱っこで持ち上げたままアイリーンに向かい歩き、アイリーンも駆け寄り回復魔法を掛けそのまま近くにあるベンチに聖女タトーラを寝かせると、まだ動き足らないのかその場でシャドーボクシング的な動きを始める。風を切る音とブレるように消える拳は相当な速さでありながらも打ち続け、アイリーンは薄っすらと普段は閉じている六つの目を開く。


 凄いですね……メリリさんの連撃よりも早いかもしれません……素手だから早いのかもしれませんが、八つの目で見ないと躱すどころか一方的に打たれ続けるかも……ハッ!? もしかしたらメリリさんはあの時手加減していた……

 『悪鬼と剛腕』に『双剣』は冒険者ギルドで名を轟かせた冒険者と聞きますが、私はまだまだかもしれません……


 次第にスピードを上げて行くキュロットのシャドーボクシング。はじめは上半身だけ使っていたがステップが入り下半身も使うようになるとその動きは武術というよりも舞のように美しく見惚れるアイリーン。他にもビスチェやフランにクランもその動きを凝視し、メリリは悔しそうに口を開く。


「『剛腕』と称されながらも素早い動きと打撃で相手を封じ、相手の足を止めたところへ剛腕と呼ばれる一撃必殺の拳を打ち込む……一対一での勝負なら敵はいないと歌われた姿は今も健在ですね……」


 メリリの漏らした言葉に、それなら当時一緒にパーティーメンバーを組んでいた『悪鬼』と呼ばれたナナイはどれ程の強さなのだろうと疑問に思うアイリーン。


「あ、あの、悪鬼ナナイさんはどのぐらい強かったのです?」


「うふふ、アレはアレで厄介ですねぇ。魔化した姿は並の武器では傷すらつけることはできません。巨体でありながらも素早く移動し金棒を振るう姿は正しく『悪鬼』と思わせる凄味がありましたねぇ」


「『悪鬼』『剛腕』『双月』では誰が一番強かったとかあるのですか?」


 アイリーンの更なる疑問の言葉にメリリは顔を歪めながらも口を開く。


「私はあの二人相手に戦った事がありますが今こうして生きています。移動スピードだけなら私が一番ですねぇ。逃げた訳ではありませんよ」


 歪めた顔を強引に微笑みに変えるメリリ。以前天界で対峙した際にはアイリーンの方が早かったと自負しており、移動スピードだけなら私の方が上なのかもと小さな自信を得るが、変幻自在のステップとギリギリ視認できる拳の速さに中途半端な斬撃では当てることはないだろうと実感する。


「ふぅ……良い汗をかいたわ。あら? アイリーンも私と勝負したいのかしら?」


 その言葉に一瞬戸惑うも首を横に振るアイリーン。


「あら残念。それならフランとクランにしましょうね~」


 視線をフランとクランへと向け言い放ち、その瞬間に左右に分かれ逃げ出す二人。


「追っ掛けっこじゃなくて模擬戦がしたいのだけど……まあ、いいわ。するからには全力でやらないと面白くないものね! ビスチェ見手伝いなさい!」


「えっ、嫌よ。私は焼き芋を食べるもの」


 あっさりと拒否したビスチェは火が消えかけている焚火に向かい顔を歪めるキュロット。だが、キュロットもビスチェの後を追いクロが棒を使いアルミホイルに包まれた芋に串を刺し中の温度を確認する。


「これは大丈夫だな。こっちも焼き上がっている。こらこら、まだ熱いから少し冷めてからだぞ」


 背中から離れ焼き芋に向かおうとしたところを捕らえ抱き上げ傍にいたグワラに渡し、他にも火が入っているかを確かめているとビスチェとキュロットが確認済みのホイルを解き焼けた芋の香りが広がる。


「良い感じに蜜も出ているわ!」


「スイートポテトも美味しかったけど、やっぱり甘芋は焼くのが一番よ!」


 親子揃って熱々の焼き芋を口に入れハフハフと熱い息を漏らし表情を蕩けさせると、メリリや逃げていたフランとクランなどの乙女たちが集まる。


「熱いので注意して食べて下さいね。白亜のは皿に移しますのでグワラさんお願いしますね」


「はい、では熱さに気を付けていただきましょう」


「キュウキュウ~」


 皿に移した甘芋をナイフとフォークで器用に皮を剥くとしっとりとした中身が現れ、フォークを使い口へ運ぶ白亜。一口食べると尻尾の速度が上がり地面スレスレで左右に揺れ、味の感想を聞くまでもないだろう。


「これってスイートポテトよりも美味しいですよ!」


 焼き芋を口にしたアイリーンの言葉にガックリと肩を落とすクロ。弱火に長時間触れるよう気にしながら焼き上げた事により甘みが増したこともあるが、苦労して作ったスイートポテトよりも美味しいと言われ肩を落とすのは仕方のない事だろう。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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