スイートポテト
アルラウネのアルーから収穫した甘芋を持ったエルフェリーンたちが帰宅し、ラグビーボールサイズの芋を五十本も分けてもらえたと満面の笑みを浮かべる。
「どうよ!」
ドヤ顔を披露するビスチェにクロは「アルーにお礼に行かないとな」と口にしてアイテムボックスに収納し、三本ほど半分に切って大きな鍋に入れ蒸す。
「うふふ、とても大きな芋でしたねぇ」
「蒸かしただけでも美味しそうですね~」
「前は焼き芋も食べたけどシットリしていて美味しかったぜ~アルーのお芋は蜜もたっぷりで最高だぜ~」
味を知るエルフェリーンからの言葉にキュアーゼとグワラに聖女タトーラは目を輝かせる。異世界と言えどやはり女性は甘いお芋が好きなのだろう。
「天ぷらに大学芋に干芋も食べたいですね~美味しい干芋はキャラメルのような味わいですよね~」
「去年作った干芋もまだあるが、今食べると感動が半減するからな。今は我慢しような」
目をキラキラさせているアイリーンを説得すべく声を掛け、他にも目を輝かせる女性たちを牽制する。
「蒸し上がるまで暫く掛かりますから、ここでずっと待たずに何か別の事ででもしませんか?」
キッチンカウンターにずらりと並び、キッチンの中でも鍋を見つめる乙女たちに気まずさを覚えたクロが提案するが動こうとせず、クロは頭を回転させる。
「そういえば聖女さまはレーシングカートに乗ったことないですよね?」
「レーシングカートですか?」
首を傾げる聖女タトーラにルビーとエルフェリーンにキュアーゼが笑顔を向ける。
「レーシングカートは自分で運転する小さな車だぜ~乗り方を教えるから一緒に遊ぼうか」
「聖女さまの身長なら問題なく乗れます! きっと楽しめると思います!」
「ふふ、ライバルが登場するかもしれないわね」
特にレーシングカートが好きな三名に背中を押され外へと足を向け、聖女タトーラはチラチラとクロに助けを求めたが笑顔で手を振られ屋敷の外へと連行される。
「蒸し上がるまでまだ時間もあるからさ、これでもやって時間を潰したらどうだ?」
そう言いながらアイテムボックスから取り出すトランプ。
「トランプなのだ!」
「キュウキュウ~」
「あら、トランプは禁止令がでていたわよ?」
「ああ、そうだな。お金を賭けるのは禁止だからな。ついでに言うが夕食のおかずやオヤツを賭けるのも禁止だからな。そこは守ってやるならトランプで遊んでもいいぞ」
冬の間に草原の若葉ではトランプが流行り、夕食のおかずやオヤツを賭けたブラックジャックやババ抜きをするビスチェやロザリアにルビーやアイリーンの姿にクロが珍しく怒りトランプ禁止令が出されたのである。
中でもカードゲームに以上に強いロザリアは負け知らずで夕食に出されたラーメンがチャーシューメンへと変貌するほどの勝ちを見せ、最弱であるルビーが隠し持っていたウイスキーを涙ながらに渡している所を目撃したクロは、ここままでは家にスラムが誕生するのではないかと危惧したほどである。
「う、うむ、我は絶対に賭けないのじゃ」
「あら、トランプをするのなら賭けないと面白くないわ」
ロザリアは反省しているのかクロに賛成し、キュロットは妖艶な笑みを浮かべながら何かしらを賭けたいと口に出す。
「でしたら今後は白ワインを魔力創造するのをやめます。世界樹の女神さまから白い実を付ける葡萄を頂いたのですから問題ないですよね?」
「そ、それとこれとは違うわ! それにまだ実を付けるほど成長していないの! 白ワインが飲めなくなるとか考えるだけでも恐ろしいわ!」
自身を抱き締め震えるキュロットにアルコール中毒じゃないか脳裏にちらつくクロ。だが、ビスチェやフランにクランも泣きそうな顔をしている。
「ん……絶対賭けない……」
「私も賭けないわ! 母さんだけ飲ませなければいいのよ!」
「師匠のいう事は絶対だからな!」
クランにビスチェにフランがクロ側に付き顔を歪ませるキュロット。自身が長を勤める里の娘たち二人に加え、実の娘もクロ側に付いたことが気に入らなかったのだろう。が、その表情もすぐに改善する。
「実は赤ワインや白ワインの他にもワインがあって、ロゼと呼ばれる赤ワインと白ワインの中間にあたるワインがあるんですよね~」
「あら、それなら飲みたいわ」
「うむ、我も飲んでみたいのじゃ」
「もちろん用意しますが……」
勝利を確信したクロは魔力創造で記憶にあるロゼワインを創造すると皆の視線が釘付けになり素早く手を出すビスチェ。
「赤でも白でもなくピンク色したワイン……どんな味がするか気になるわね!」
「賭け事をしないと約束して頂けるのなら提供しますが、どうしますか?」
視線はビスチェの持つワインに注がれているが皆で頷き、女性たちはリビングへ向かい仲良くトランプを始める。
「ふぅ……何だか疲れたな……」
ひとり呟くクロにシャロンは優しい笑みを浮かべながら口を開く。
「クロさんは本当に面白いですね。皆さんの気を使いながらもこの家を安定させるべく常に努力なさっています」
「まあな。ギスギスした家よりも住みやすい方が良いだろ」
「そうですね。少し甘い香りがしてきましたね」
「ああ、蒸かしただけでも美味しいがスイートポテトにすれば、もっと美味しいからな」
「楽しみです……」
芋が蒸しあがるまで小雪を撫でるシャロンと話をして過ごし、竹串を刺し柔らかさを確認するとボウルに移して皮を剥く。素早く潰して少量のバターに砂糖と生クリームを加えよく練り、冷めてきたところへ卵黄を入れよく混ぜ、捏ねながら弱火に掛け余分な水分と卵黄臭さが飛ばし冷ます。
「後は整形して卵黄を塗ってオーブンで焼き上げれば完成だな」
「手伝いますね」
キッチンカウンターからキッチンへ移動するシャロンは手を洗いクロの説明を受けながらスプーンを使いやや細い玉子型に成形する。リビングからは賑やかな声が流れBGM代わりに作業を進め、最後に卵黄を塗ってオーブンに入れ表面を焦がす。
五分ほどオーブンに入れて焼き開けて確認するとやや焦げた色が付き満足気にクロがオーブンから取り出し、次を入れ焼き始めると甘い香りに誘われ天井から降りてくる七味たち。
「第一弾が完成したが味見をするか?」
「ギギギギギ」
ギギギと大合唱する七味たちがキッチンに降りシャロンにも皿に乗せた焼きたてを配り試食する。
「熱っ!? はふはふ、前にも食べましたが美味しいです。甘過ぎないところも良いですね」
(しっとりした食感と適度な甘みが美味い)
一美からの念話も加わり焼きたてを口にしていたクロも満足の出来だったのか、人数分を用意して皿に乗せリビングへと運ぶ。
「焼きたてを持ってきたが……勝者と敗者がここまで分かりやすいのも珍しいな……」
神経衰弱をしていたのか手持ちの多いビスチェとメリリが笑顔を浮かべ、フランとクランは二枚ずつ、白亜とキャロットにキュロットは一枚もペアを合わせることができず何とも言えない表情を浮かべていたが、テーブルにスイートポテトが置かれると目を見開きフォークを手にする。
「熱いから注意して食べて下さいね」
そう言葉を残してキッチンへ戻るクロ。後ろから聞こえる歓声にその足取りは軽くなり、次が焼けたか確認していると煙突から香る匂いに誘われたのか妖精たちを連れたエルフェリーンたちが戻り、縦揺れを繰り返しテンションが上がったままの聖女タトーラの姿にレーシングカートが気に入ったのだろうと思いながらスイートポテトを振舞うのであった。
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