気まずい話をぶち壊す甘味
「ふぁっ!? 口に入れた瞬間にほろほろと崩れましたよ!」
「一緒に煮込んだ根菜にも味が染み込んでて美味しいね~」
「ん……これは新たな名物料理になる可能性がある……」
「うまっ!? このスープは味噌を使っていますよね!」
「美味しいけど見た事のない肉ね……何の肉なのかしら?」
キュロットとフランとクランが加わり、新たに『草原の若葉』に加わった聖女タトーラと自己紹介を終えると、屋台料理の試作品であるモツ煮込みがクロから振舞われ誰もが表情を溶かす。
「辛いのが大丈夫な人はラー油と七味を掛けて下さい。味に変化が出ますよ」
クロの助言にアイリーンやグワラにキュアーゼは七味やラー油を入れ、フランも七味の瓶を手に取り少量を入れ口にする。
「それほど辛くないけどかけた方が香りいいな……七味って、あの七味たちと関係があるのか?」
たっぷりと七味を入れるアイリーンへ話し掛けるとにんまりと微笑み七味に蓋をして口を開く。
「七味たちの名の由来がこの七味ですからね~七味は七種類の香辛料や薬味が入っている複合スパイスです。中身は忘れましたが七匹いるので丁度いいと思い七匹合わせて七味と名付けました」
「唐辛子に陳皮に青のりとケシの実に麻の実。山椒と胡麻とかだな。地方や売っている店によっても中身は変わるな」
キュロットの前に冷えた白ワインを置くクロが補足説明をするとキラキラした瞳を向けるフランとクラン。
「やっぱり師匠に聞くべきだった」
「ん……師匠は凄い……」
「その通りですね。クロさまは料理の神に等しい御力と知識をお持ちです」
聖女タトーラも尊敬の眼差しを向け、隣で頷くウランとクラン。
「気が利くのは素晴らしいわね。冷えた白ワインを持ってくる事とか娘にも見習ってほしいわ」
白ワインを開封しながらビスチェに視線を向けるキュロット。ビスチェはその言葉が耳に入っているのか、それとも聞こえないふりをしているのか、モツ煮込みを口に入れ白ワインで流し込む。
「はぁ、それよりも聖女がこの場にいることに驚きなのだけど……」
ハフハフと熱い息を漏らしモツ煮込みを口にする聖女タトーラへ視線を移すキュロット。先ほど簡単な自己紹介をたがいにしたのだがその理由までは聞いておらず、クロが簡単に説明するとジト目を向けて口を開く。
「それって聖王国からクロを監視して、あわよくばクロとの子を授かり聖王国で引き取りたいという事じゃない?」
キュロットの言葉にワイワイとモツ煮込みを食べていた乙女たち沈黙し視線が集まり、聖女タトーラは頬を赤く染め、クロはなんとも居づらい雰囲気にキッチンへ逃げように足を進める。
「ん……クロの子は私も欲しい……」
クランの爆弾発言に乙女たちには衝撃だったのか目を見開く。
「でも……クロは人族……」
肩を落とし小さく呟いたフランの言葉にひとり微笑む普通人族である聖女タトーラ。
この世界においてハーフは存在しない。例外はあるが普通人族と子供が作れるのは普通人族だけであり、エルフならエルフ、ゴブリンならゴブリンと同種族だけである。ただ、極端に男が少ないサキュバスに限り異種族と子を産むことができる。
「そうだね~クロの幸せを考えるとタトーラと一種になるのが幸せなのかもしれないね~」
ハイボールを口にしながら呟くエルフェリーン。その横では「うむ」とだけ相槌を打ち残った白ワインを飲み干すロザリア。ビスチェは口を尖らせながらモツ煮込みのコンニャクを箸で突き、シャロンは箸を置き、アイリーンは椅子に寄り添う小雪の頭を優しく撫で、キャロットは大きな欠伸をし、それにつられる白亜。
「子孫が残せるのが全てではないと思うわよ。冒険者時代にはそういう付き合いをしている者たちは多かったわ」
その言葉にパッと顔を上げるルビーとビスチェ。
「だから安心なさい。ビスチェは第二夫人としてクロを射止め、白ワインを手に入れなさい」
キュロットの爆弾発言に顔を耳まで赤く染めタイミング悪く口にしていた白ワインを毒霧のごとく吹き出し、それを食らったキャロットは目を開け驚き、白亜も顔を白ワインで濡らす。
「キュウキュウ……」
情けない声を上げる白亜にリビングの緊張感などが緩み、真っ赤な顔でキャロットたちへ謝罪するビスチェ。
「お風呂に行くのだ」
「キュウキュウ……」
眠そうな目を擦る白亜を抱きその場を離れるキャロット。その後姿を見送るグワラ。
「浄化魔法を掛けますね~」
アイリーンが浄化魔法を掛け光に包まれるリビング。
「そうだね~僕の姉妹にも人族と生涯を共にしたのもいたね~今頃はどこで何をしているか……」
浄化の光が治まると懐かしむように呟き、ハイボールのグラスの中で舞い上がる気泡を見つめるエルフェリーン。
「うむ、寿命が長い種族からすれば先立たれるのは悲しいのじゃが、思い出は残せるのじゃ……」
「思い出……」
ロザリアの言葉に相槌を打つように小さく呟くビスチェ。そこへ甘い香りが鼻腔に抜け顔を上げる乙女たち。
「フランとクランが来たら出そうと思ってたんだが、皆さんでどうですか?」
リビングのテーブルには大きな湯を張った土鍋が湯気を上げ、その中には器に入れられたチョコが溶け、大皿にはカットされた果樹園で採れた果実にクロが魔力創造で作り出したイチゴやマシュマロがどっさりと積まれ目を輝かせる乙女たち。
「チョコレートフォンデュですね!」
アイリーンが喜びの声を上げ二股のフォークを手に取り、下手を取ったイチゴに刺してチョコに付け口へと運ぶ。
「異世界でこれが食べられるとは思いませんでしたよ~生前の夢が叶いましたよ~」
片手を頬に当て喜ぶアイリーンに乙女たちが一斉にチョコレートフォンデュへ群がり、クロはこれで話題が変わっただろうとキッチンヘ戻り催促される前に次を用意する。
短時間で多くの果実をカットできたのは七味たちの協力があり、皮の剥く作業とカットする役割を流れ作業で行い、クロは湯煎しながらチョコを溶かしていたのである。
「甘い匂いなのだ!」
「キュウキュウ~」
風呂上がりのキャロットが叫び白亜も尻尾を揺らしながら叫ぶと匂いの発生源へ突撃しチョコレートフォンデュを口にする。それと入れ替わるようにシャロンがお風呂へ向かい、クロは新たなホワイトチョコレートフォンデュをリビングへ運ぶ。
「今度は白いのが来たわ!」
「ん……あれも美味しいはず……」
「うふふ、先日からダイエットはこの日の為だったのかもしれません!」
「ホワイトチョコレートフォンデュもあるだと……クロ先輩は女性の敵になる心算なのですね……あむあむ、最高です!」
ビスチェが歓喜し、クランが簡単な予想をし、メリリが数日続けたダイエットを無駄にし、アイリーンが驚愕しながら表情を溶かす。その光景にこれで先ほどまでの話が有耶無耶になるはずと心の中で確信しキッチンへと戻るクロ。
キッチンでは七味たちがチョコレートフォンデュを楽しみ味が気に入ったのか、お尻を振り糸に吊るした果実をチョコに入れ口へ運ぶ。
「今日は助かったよ。いや、最近はいつも料理の手伝いをしてくれてるな」
「ギギギギギ」
夢中でチョコレートフォンデュを口にしていた七味たちは声を揃えて片手を上げ、三美の上げた手には糸とイチゴがぶら下がり揺れ四美の額にくっ付き体を縦に揺らせて笑い合うのであった。
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