もつ煮と来客
「野菜の下茹ではこれでいいな。次は予め浄化魔法を掛け茹でておいたモツと一緒に味噌味で煮込む」
焼き鳥とポテチに浅漬けで盛り上がる酒飲みたちと、お菓子を食べジュースで盛り上がる組に別れ日が落ちるまでゆっくりとした時間を過ごす『草原の若葉』たち。
七味たちが得意のから揚げや炒め物などのおつまみなどを提供している事もあり、手が空いたクロは屋台料理の試作に取り掛かっている。
「醤油と味噌は教会にも奉納されスープや焼き串で食べたことがあります」
「調味料が増えれば味付けも自然と増えて料理の幅が広がるよな」
「私も塩おにぎりだけじゃなく、醤油を塗った焼きおにぎりやお味噌汁などレパートリーが増えましたからね~」
「へぇー焼きおにぎりやお味噌汁も自作していたのか」
「いえ、母がですが、何か?」
クロと聖女タトーラの会話に混じり適当な例を出すアイリーン。会話を広げようとアイリーンの言葉を拾うが只の見栄だったようで、クロは目の前の料理に集中する。
「後は灰汁を取りながら煮込みます。モツ系はもっと臭みが出たりショウガを多く入れ臭みを取ったりしますが、浄化魔法のお陰か二度ほど茹でたら臭みがなくてアイリーンに感謝ですね」
「アイリーンさまの浄化魔法は本当に素晴らしです。私も少しは使えますがエリアを指定して家を丸々浄化するのを目の前にしては自分の不甲斐なさを思い知らされました」
「得意不得意はあるから気にしないで下さいね~私は浄化魔法と回復魔法には自信がありますから。対ヴァル戦で見せてもらった気合の入ったランス掴みとは私には無理ですし、クロ先輩を神と崇めるのも私には無理です」
聖女二人がかりで上空から迫るヴァルのランスでの突きを止めた事を話題に出して聖女タトーラを褒め、ついでにクロは神ではなく人だと伝えるアイリーン。クロとしても創造魔法は珍しいだけで使い勝手が良い食材を生み出す魔法という認識からか自分を誇ることはなく、その度に聖女タトーラが手を合わせるのは遠慮したいのである。
「ですが、クロさまの創造魔法に料理は神々さえも虜にする素晴らしい力。創造魔法はその名の通りに創造神さまの御力の一端だと私は思います!」
「そうかもしれませんがクロ先輩は料理が上手な主夫だと思えばどちらも気が楽だと思いますよ~」
アイリーンの言葉にクロが頷き、対して聖女タトーラは頬を赤く染めながら小さく頷く。
「創造神さまってのは女神ベステルさまの事だよな?」
「はい、この世界を作り維持する為に精霊を作ったとされています。すべての母であり日が昇り沈むのも管理されているとか。それは生と死を司ると……」
聖王国では日の出を生、夕日を死と捉え、すべての現象は女神ベステルが管理しているとされている。ちなみに夜は神々の力である太陽が現れない時間とされ、悪しき霊や病魔が蔓延りそれを打ち砕くための聖騎士とされている。
「それは少し違うぜ~」
焼き鳥の串で聖女タトーラを刺しながら口を開くエルフェリーン。
「母さんは世界を作ったのではなく任されたらしいよ。前にいってたからね~精霊を作った話は本当だと思うけど、日が昇る事はこの星の現象であって母さんは関わってないと思うな~」
惑星の自転の話になり地球でも昔は天動説や地動説などの対立で多くの血が流れた歴史もあり、それを思い出したクロは話題を変えるためフライパンを用意して竈に掛ける。
「そもそもこの星は球体なのですか? 上から見ると丸く見えますがファンタジーな世界ですから大きな亀が大陸を支えていたりとか……」
「亀が世界を支えているという事はないぜ~この星が丸いのは多くのマナを押さえるための蓋だぜ~ん? 良い匂いがしてきたね~」
フライパンには油を入れニンニクと生姜を炒め一口サイズのホルモンが躍り、一気に香ばしい匂いが広がる。そこへ玉ねぎとキャベツが加わり炒め、味噌と砂糖にみりんと少量の醤油を酒で合わせて溶き入れて味付けをする。
「ホルモンの味噌炒めですね~香りがヤバイです!」
「うんうん、お腹を刺激する香りだね~」
「クロさまの料理は香りまでもが美味しいので素晴らしいです!」
「皿を二枚頼む」
クロの言葉に素早く動く聖女タトーラ。適当な皿をキッチンテーブルに置くと半分を盛り、もう半分にはラー油を掛けて煽り皿に盛る。
「こっちは辛くないから白亜たちの方へ、もう片方は少しだけ辛くしたのでリビングの方に頼む」
アイリーンがリビングへ向かい聖女タトーラはキッチンカウンターで涎を垂らすキャロットと白亜の下へと運び、クロは水で戻したひじきを油で軽く炒め始める。
「うむ、これも美味しそうなのじゃ」
「そうだね~ん? 誰か来たみたいだね~」
「遠くにランプの光が見えるわ」
ホルモンの味噌焼きを前に来訪者に気が付きエルフェリーンが視線を窓へ向け、ビスチェが立ち上がり窓へ向かい薄っすらと小さく光るランプに気が付き外へと向かいそれを追い掛けるメリリ。
「我も付いて行った方が良かったかの?」
「それは大丈夫だよ~来たのはキュロットだからね~それにフランとクランも来たみたいだね」
「メルフェルンが行くべきだと思うけど、寝てしまったわね」
「それよりもクロの料理を食べようか」
「うむ、見た目は普通じゃが、味噌の焦げる香りが食欲をそそるのじゃ」
呆れた表情でテーブルに突っ伏すメルフェルンを見つめるキュアーゼ。突っ伏す原因はキュアーゼが勧めたブランデーであり、自身が仕える第二皇女からのお酌に断れず飲み続けた結果である。
「キュウキュウ~」
「白亜さまが気に入ったのだ! 私も気に入ったのだ!」
「プルンとした食感とシャキシャキの野菜が美味しいですね」
「これはご飯が欲しくなりますね~うまうま」
ノンアルコール組はホルモンの味噌炒めを口にし表情を溶かし、それを羨ましそうに見つめ小雪に声を掛けるクロ。
「小雪はこっちを食べような」
「わふっ」
キッチンの入口へと走る小雪へチューブ型のオヤツと小雪専用の皿には茹でたササミを解したものが盛られペロペロしながら尻尾を振る。
「小雪はこれが大好きだな」
「犬用や猫用のCMを思い出しますね~」
「一心不乱に舐める姿はインパクトがあったよな。おっ、フランとクランたちだな」
「キュロットさんもいますね~大きなカタツムリも来ていますかね~」
モツを口に入れ口を動かしながら立ち上がるアイリーン。窓の外ではビスチェとキュロットが話し合っているのか向かい合い口を動かす姿が部屋の漏れた明かりから見え、手が空いたクロは外へと足を向ける。
「師匠! 収穫の御裾分けにきました」
「ん……私たちの集落で採れた野菜と茸に酒もある」
玄関で双子エルフから師匠と呼ばれ照れるクロは大きな籠を受け取り乾燥させたキノコや日持ちするカボチャや瓜に似た野菜を受け取り中へ案内しようとするが、外でエキサイトする親子の姿にフランへ視線を向ける。が、フランはホルモンの味噌焼きの香りにフラフラと足を進め、クランは既にエルフェリーンに挨拶を終えており口を大きく開きあ~ん待ちである。
「師匠! これ凄い!」
いつもは半分ほどしか開いていない目が全開に開かれ叫ぶクラン。少し辛めに味付けしたホルモンの味噌焼きが余程口に合ったのだろう。
「シャキシャキとムニムニに味噌の香ばしさが美味い! 今度はこれを覚えて帰りたい!」
フランもエルフェリーンから一口貰い玄関へ叫び。クロは庭で口論をする親子も気になるが、きっとお腹を空かせているだろうエルフたちの為にキッチンへと戻るのであった。
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