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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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マッチョとやきとり


 

「大根にニンジンに長ネギと、今年も豊作だな」


「こっちでも日本産の野菜が育つのですね~というか、種を魔力創造できるという事は生物を生み出しているという事では?」


「そこは深く考えないでくれ……」


「そうですね~人間を魔力創造とかやばそうですし……」


「創造神さまと同等の力を持つクロさま……素晴らしいです……」


 ビスチェの菜園で収穫作業を進めるクロたちは魔力創造で生み出した種を植え育った野菜に浄化魔法を掛けて土を落とすアイリーン。聖女タトーラはキラキラした瞳を向け二人の話を耳にし、創造神と同じ力を持つクロへ手を合わせ拝む。


「前に歩き出すキャベツを見たが、そういうのは居なそうだな」


「これなんて走り出しそうですよ」


 浄化魔法を掛けたニンジンを手に取り見せるアイリーン。二股に別れたニンジンは日本なら規格外として店に並ぶことはないが、家庭菜園でなら普通に食される。


「そうだな。こっちの大根も……」


「足の他に腕もありますね……」


「こっちは強そうなのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットが手にしているニンジンは両腕に力を籠めマッチョがポージングをしているように見え、白亜も嬉しそうに鳴き声を上げる。


「レストサイドチェストニンジンと名付けましょう」


「アイリーンは変な知識ばっかり詳しいよな……」


 クロの言葉に首を傾げるアイリーン。


「そうですかね~一般常識だと思いますよ~ほら、こっちのはマスキュラーニンジンで、フロントダブルバイセップスニンジンです」


「………………」


 アイリーンの知識が偏っている事だけは確認でき大量の野菜をアイテムボックスに収納するクロ。


「お腹が空いたのだ!」


「キュウキュウ~」


「肉が食べたいのだ!」


「キュウキュウ~」


 マッチョニンジンに飽きたキャロットと白亜は野菜を収納するクロの下へと走り願望を口にする。


「これだけ新鮮な野菜を収穫したのに肉なのか?」


「肉がいいのだ! 肉も畑で育てばいいのだ!」


「キュウキュウ~」


「なかなかに無茶な事を言いますね~ああ、でも大豆とかは畑のお肉とかいいますよね~」


「そうだな。大豆は植物性たんぱく質が豊富だからそう呼ばれるな。他にも血中のコレステロールを下げて肥満の予防や、大豆に含まれるイソフラボンという成分が肌を綺麗になるとかも聞いたことがあるな」


「クロ先輩……あ、あの、後ろ……」


 ガクガクと震えるアイリーンが指差し、クロは指差す方へ振り向く。そこには満面の笑みを浮かべるメリリの姿があり、無言の圧力で今夜は大豆料理をと訴えていた。


「だ、大豆料理ですね」


「うふふ、私はまだまだ若いですが肌が綺麗になるのは素晴らしいと思います。年齢とは関係なく、肌が綺麗になるのは素晴らしいと思います。違いますか?」


 グイグイくるメリリ。クロは数歩後ろに下がりながらも大豆について調べた際に見たデメリットを口にする。


「そ、そう思います……ああ、でも、大豆の取り過ぎは腹痛や便秘になったりホルモンバランスを崩したりとかあったな。どんなものも食べ過ぎないことが大切ですね」


「食べ過ぎ……ですか……そうですね……そうかもしれません……」


 グイグイ来ていたメリリがゆっくりと停止し、クロは野菜の収納を再開し、聖女タトーラはメリリから襲われそうになりながらも口だけで撃退した姿に目を輝かせる。


「タトーラさんもこっちの生活に慣れてきましたが、相変わらずクロ先輩に手を合わせていますね~もうクロ先輩は神にでもなったらいいのに」


「神になるとかいうなよ……」


「でも、収穫祭で屋台を出したら神を前にしたように人々が並ぶと思いますよ~」


「クロさまの料理が食べられると知れば人々が並ぶのは仕方のないこと……神々すらも虜にする料理が食べられるのですから……」


「肉料理なら並ぶのだ! 早く食べたいのだ!」


「キュウキュウ~」


 聖女タトーラはうっとりとクロを見つめながら口を開き、キャロットと白亜は早く肉が食べたいとアイテムボックスへの収納が早く終わるようクロを急かす。


「肉料理もいいですが、屋台料理はどうします? 焼きそば? お好み焼き?」


「肉なのだ!」


「キュウキュウ!」


「それについてはもう決めているからな。夕食に試作品を出すから意見をいってくれな」


 大量の野菜をアイテムボックスに収納したクロは皆と屋敷へ戻り、キャロットと白亜が肉と騒いでいたこともあってかオヤツを用意する。


「アイテムボックスに眠っていたギーウィを串に刺して塩を振って、炭火で焼けば焼き鳥の完成。七味を添えてと……ん? ああ、悪い七味たちを呼んだ訳じゃないんだ」


 クロの独り言に天井から糸を垂らして現れた一美と三美に手を振り七味の瓶を見せる。


(やきとり美味しい)


「ギギギギ」


 一美の念話と三美の声に焼き鳥の量産を決め、串に刺す作業を再開する。

 ちなみにギーウィは南国のハイエルフであるエルファーレが養鳥しているペンギンに似た鳥で、脂身が甘く肉も柔らかく焼き鳥にすると適度に脂が落ちエルフェリーンやキャロットの好物である。


 竈に網をセットし皮面から焼き始めると香ばしい匂いが立ち込めキッチンカウンターには鼻をスンスンするキャロットと白亜が座り、収穫作業を手伝っていたアイリーンやビスチェにルビーが腰を下ろす。他にもリビングにいたシャロンとキュアーゼにメルフェルンが香りに釣られ腰を下ろし、リビングの隅ではスクワットを繰り返すメリリ。


「江戸時代は豆腐とかも串焼きにしたとか料理本に書いてあったな。メリリさんの事もあるし水を切っておくか」


 魔力創造で木綿豆腐を創造すると聖女タトーラが目を輝かせ祈りの姿勢をキッチンの隅で取り、それを真似する七味たち。その横では小雪が尻尾を振りへっへしながら焼き鳥の香りにテンションを上げている。


「う~ん、匂いに誘われてきたけどみんな集まっているね~」


「鳥を焼いているのでしょうか?」


 エルフェリーンと共にグワラが階段から降りリビングに座るとアイテムボックスから取り出したウイスキーのボトルをテーブルに置き、ルビーやビスチェにキュアーゼもそちらへと移動する。


「やっぱりそうなったか……これだとオヤツと飲み会で夕食も兼ねそうだな……」


 焼き鳥の串を裏返しながら片手間で市販の浅漬けを魔力創造し、それに気が付いたアイリーンがキッチンへ入り慣れた手つきでパッケージを開け白菜の浅漬けを皿に移す。


「エルフェリーンさまたちにですね~」


「お酒は何かしら食べてからじゃないと胃に悪いからな」


「クロ先輩は相変わらずですね~私はポテチが食べたいです~」


 そう言葉を残して浅漬けを届けに向かうアイリーン。クロはアイテムボックスから数種類のポテチを取り出し焼き鳥に集中し、ポテチが目に入った白亜とキャロットは忍び足でキッチンへと侵入しクロへと近づき、ポテチに手を掛けたところで七味たちが一斉に「ギギギ」と泣き出し振り向くクロ。


「開けるのを手伝うのだ」


「キュウキュウ」


 その言葉に吹き出しそうになるのを堪え、焼き上がった焼き鳥を皿に乗せる。


「ポテチも良いが、まずはこっちを食べないか?」


 皮がこんがりと焼き上がったギーウィの焼き鳥に目を輝かせるキャロットと白亜。


「美味しそうなのだ!」


「キュウキュウ!」


 皿を受け取りキッチンカウンターへ移動するキャロット。尻尾を振りながら追う白亜。クロはそれを見送りながら帰って来たアイリーンにポテチを渡し、新たな焼き鳥に取り掛かるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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