カレーと寿命と罰
「本当に美味しいわぁ。クロちゃんは相変わらず料理が上手ねぇ」
皺のある顔を更に皺を寄せ微笑むスレイン。エルフェリーンやサワディルも味噌ラーメンとビールを飲みご機嫌な表情で追加した焼き餃子を口に入れる。
「はふはふ、これ好きかな~大好きかな~」
「餃子は美味しいね~パリパリしながらも肉汁がジュワァ~で野菜がシャキシャキだよ」
「巷で流行っている醤油に近いけど少し酸っぱく香りが良いわ。果実を入れてあるのかしら?」
「柚子という果物を使い作ったタレです。アイリーンなんかは酢コショウが好きみたいですけど、自分はやっぱり柚子ポン酢が好きですね。師匠やビスチェも柚子ポン酢が好きなので」
「我々までご馳走になり申し訳ない」
「精霊王さまの蔦が手に入ったと聞き驚いたが、クロ殿が作っる料理にも驚かされる」
「錬金術が料理から生まれたという話が、あるがあながち本当なのかもしれないわね」
錬金工房にやって来ていた薬師ギルドの者たちにも餃子とビールを振舞うクロ。その味にご満悦な表情を浮かべていた薬師ギルドの幹部連中からの誉め言葉にアイテムボックスから追加で揚げ餃子や水餃子なども勧め、一人の薬師ギルド職員が口を開く。
「収穫祭にはまた屋台をお出しするのですか? 」
「去年の小魚のから揚げも絶品でしたな」
「骨煎餅はワインにも良く合って美味かったな……」
去年の収穫祭では困っていた一家を小魚のから揚げと骨煎餅で救った事を思い出し、あの怒涛の揚げ物ラッシュは大変だったなと思いながらも、今年は七味たちがいるから参加するにしても手が足りるなと思案する。
「そろそろドランからも米の収穫の手伝いもあるぜ~それに冬に備えての準備だってあるからね~聖女ちゃんが新しく仲間に加わるけどあの子は何か特技があるのかな?」
秋はやる事が多く雪に閉ざされる地域にするクロたちは秋のうちから食料を保存し、塩や小麦を買い込み、果樹園の添え木やキラービーの巣などの確認も必要である。それが本来の秋の過ごし方なのだが、転移魔法が使えるエルフェリーンとアイテムボックスに時間停止というチート持ちのクロからしたらいつでも買い物に出かけることができ食料の保存もできる完全チート体制。
それに加え創造魔法という超絶チートがあるクロからしたら楽しめる時にみんなで楽しみたいという気持ちの方が強く、収穫祭には何かしらの形で関わりたいと頭の片隅にありどうしたものかと思案する。
「屋台を出すなら味噌ラーメンがいいかな~また食べたいし、餃子もあると嬉しいかな~」
「流石に味噌ラーメンを出すのは大変ですね。スープを作るのと麺を茹でるので場所を取りますし、それに加えて餃子も作るとなれば屋台が二つないと不可能ですよ。焼きそばならできなくもないですが大行列を作られると前みたいにまわりの屋台に迷惑が掛かりますから……」
「ハイハイ! ならカレーがいい! 前に食べた時も思ったけどアレは美味しいかな~どんな料理よりも香り高くて美味しいかな~」
「カレーですか……カレー粉はダンジョン産の物が出回っていますな。大変高価で口にした事のない市民も多いでしょう」
「私も噂には聞いたけど香りが素晴らしくて部屋に飾る貴族もいるとか……」
「あら、カレーはあの茶色いスープね。クロがここに来た時に振舞ってくれたのを思い出すわ」
薬師ギルドの者たちも会話に加わり屋台のアドバイスをし、スレインはカレーの味を思い出しながらクロへ微笑みを浮かべる。
「それならまだ在庫がありますので鍋で置いて行きますね。傷みやすいので朝は火をちゃんと入れて、食べきれない時は蓋をして地下の冷凍室で保管して下さい」
そう口にしながらカレーを入れた鍋を取り出すクロ。出現した鍋からはカレーの香りが立ち込めつばを飲み込む音が重なる。
「あらあら、折角ですし、まだ食べられるようなら試食しましょうか」
「是非!」の声が重なり薬師ギルドの者たちが歓喜し、クロは器を用意してカレーを盛りナンを用意する。味噌ラーメンや餃子を食べていた事もあり少なめに用意し、食べ方を説明するとスレインは嬉しそうに口に運びクロが来た当時を思い浮かべ、薬師ギルドの者たちは勢いよく食べ始める。
「ライスもいいけど薄いパンで食べても美味しいわね」
「これも美味しいかな~鳥肉? が解れるぐらい軟らかくて、すごく濃厚な味がするかな~ううう、弟弟子がいれば毎日こんな料理が食べられるのに~」
「うんうん、クロがいればそうかもしれないね~でも、クロは僕のだぜ~誰であってもクロは渡さないぜ~」
エルフェリーンの宣言に悔しそうな表情を浮かべるサワディルだったが、ナンを付けカレーを口に入れすぐに解ける。
「ふふ、私であっても師匠を嫉妬してしまいますね。クロ、美味しいカレーをありがとうね」
「いえ、スレイン師匠にも多くの事を学ばせて頂きました……自分にできる事があれば何でも言って下さい」
「頼もしい弟子を持てて私は嬉しいわ。屋台の料理は期待しているからまた美味しい料理を食べさせてね」
「みんなで相談して決めようと思います。屋台に出す料理ならアイリーンたちも手伝ってくれるでしょうし、七味たちやシャロンも手伝ってくれるな」
「シャロンちゃん可愛かったね~あれで男だというから驚いたかな~」
「アレは女神ベステルさまの悪戯というか悪ふざけというか……」
和やかな夕食を終え、薬師ギルドの者たちと別れ城へと向かうクロとエルフェリーンにビスチェ。
街頭はあるがそれでも月のない夜は暗くビスチェとエルフェリーンが光球の魔術を使い夜道を照らす。
「スレインが元気で良かったね~人族にしては長生きだけど食欲があるからまだまだ寿命は長そうだね~」
「人族にしては長生きよね。もしかしたらエルフかも」
「………………寿命ですか、あまり考えた事がなかったです」
俯きながら足を進めるクロの腰に抱き付くエルフェリーン。
「僕は多くの仲間たちとの別れを経験してきたからね~でも、まだまだ元気そうだったぜ~クロがそんな暗い顔をしたらスレインだって気にしちゃうぜ~元気なスレインの為にも美味しい屋台料理を考えてくれよ~」
「そうよ! クロの特技は料理だけなの! みんなの為にも美味しい屋台料理を考えなさい! それこそスレインが美味しくてびっくりしちゃう料理をね!」
ビシッと指差すビスチェに顔を上げたクロは「そうだな」と口にして思案しながら足を進める。後ろから腰に抱き付くエルフェリーンも笑顔を浮かべ、ビスチェも前を向き歩き城まで続く夜道を進む。
「で、メニューを考えて遅くなったと?」
大きくBL魂と書かれたお手製のナイトキャップを被ったアイリーンを前にしたクロは正座させられ、一緒にいたエルフェリーンとビスチェは城の大浴場へと向かい、ひとり説教を受けるクロ。
「ほら、お世話になったスレイン師匠が喜ぶ屋台のメニューを考えてな。日が落ちてもやっている屋台も多くあるから下見に行って、」
「ズルイです! クロ先輩は屋台の料理を食べてきたのですね!」
「揚げ物の屋台と串焼きが多かったな。スープ系も人気で醤油を使ったスープなんかもあったぞ。豚汁的なのもあったな」
「自慢ですか? それは自慢ですね! 私たちも誘うべきだと思わないのかが信じられません! これは江戸時代の拷問でも受けるべきだと私は思います! シャロンくんカモン!」
アイリーンに呼ばれ渋々といった表情で現れたシャロンは既に男性物のパジャマに着替えているのだが、アイリーンが糸を飛ばし顔を引き攣らせるシャロン。
「さささ、シャロンくんは思いっきりどうぞ! クロ先輩は反省しながら罰を受けて下さいね! 腐腐腐」
「えっと、僕が恥ずかしいのは……」
「そこはシャロンくんの勇気とBL力の見せどころです! 思いっきりやっちゃいましょう!」
鼻息荒く罰を与えると叫ぶアイリーンにクロは正座している床に女神の小部屋の入口を出現させその場から姿が消え、気が付いたアイリーンは悔しさに拳を固め、シャロンはホッと胸を撫で下ろす。
「シャロンくんを使った石抱の刑は良い案だと思ったのですが、逃げるとは……」
「ぼ、僕は嫌ですよ……クロ先輩の太ももの上に座るとか……嫌われたくないです……」
そう言葉を残して立ち去るシャロン。アイリーンは頬を染め走り去るシャロンに「ご馳走様です」と口にして頭を丁寧に下げるのであった。
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