錬金工房で夕食を
「あら、クロちゃんも来たのね~嬉しいわぁ~」
両手を合わせ微笑みを浮かべる優しい老婦がエルフェリーンを迎えに来たクロを出迎え、クロは姿勢を正して頭を下げる。
「スレイン師匠、お久しぶりです。お元気そうで良かったです」
「あらあら、ふふふふ、ビスチェちゃんと同じことを言うのね~私だってまだまだ現役の錬金術師なのよ。そうそう、あの蔦は凄い効果よ。薬草の効果を高めるのはもちろんだけど、魔力を回復させる力もあるわ~この歳になって新しい素材を見るのは久しぶりだから嬉しくって、若返った気持ちになるわ~」
スレインは普通人族で七十才になる長寿であるにも拘らず現役の錬金術師である。クロが尊敬するもう一人の錬金術師でありエルフェリーンの次に頭の上がらない人物といえよう。
「クロ遅い! 早く来なさい! 精霊王さまの蔦の非常識さがわかるわよ!」
奥からビスチェの叫びが聞こえ頭を下げて工房へ入る。薬品の香りが立ち込めるなかへ入ると薬師ギルドの男たちが数名おり、新たに誕生したポーションや精霊王の蔦のぶつ切りを持ち話し合っている。その中を通り過ぎ工房へと足を踏み入れビスチェの下へと向かう。
「今までのポーションに成分を抽出した精霊王の蔦を入れると効果が中級レベルに上がったぜ~魔力水で薄めて使えば一本で五十本分にはなるね~他にも精霊王の蔦を抽出したものに色々と薬品を混ぜると、どれも効果が上がることが確かめられたぜ~この蔦は効果を高める作用があるぜ~」
「こっちの葉も凄いかな~世界樹の葉に近い効果があるとエルフェリーンさまが調べてくれたかな~」
精霊王の蔦から生える葉をフリフリとしながら伝えるサワディル。世界樹の葉は人を生き返らせる効果はないが回復薬の素材としては一級品で、エルフェリーンが目指すエリクサー制作の素材であり、その劣化版の効果が期待できるとテンションを上げるサワディルとビスチェ。
「精霊王の蔦なんて初めて見るから薬師ギルドの連中も呼んであげたけど帰らなくてねぇ。今晩は寝ないで研究でもするのかねぇ」
スレインが微笑みながら話し、それも迷惑になるだろうと受付で話し合う薬師ギルドへ顔を向けるクロ。だが、ビスチェに頬を持たれグイと強制的に顔を戻されピンク色した花へ視線を向けさせる。
「この花は危険だわ。蜜自体がエリクサーと同等の回復力があるの。でも、中毒性があって精霊を見ることができるそうよ。人体実験はしていないからどの程度の中毒性かわからないけど、師匠の鑑定結果だから絶対に食べないように! 絶対よ!」
この場にアイリーンがいたらニヤリと笑い口に入れる可能性もあったかもしれない。絶対という言葉は転生者に重複してはならないのである。
「ああ、気を付ける……って、エリクサーと同じ効果は凄いですね……」
「その花の蜜がだぜ~エリクサーと同等の効果を出す為にはポーションに使っている小瓶ほど蜜を集めないとだからね~花を何輪必要か想像もつかないね~」
精霊王の蔦に咲く花の大きさは親指の爪程度であり、それをフ○イト一発的な小瓶の量を集めるのに必要な蜜がどれほどになるかクロも想像できず、無言で頷こうとするがビスチェに頬を持たれた状態では頷けず変顔になるクロ。
「あらあら、ふふふ、ビスチェとクロは相変わらず仲良しさんねぇ」
「僕の弟子の中でも二人は仲良しだぜ~キュロットも公認の仲だからね~」
その言葉に慌てて手を離すビスチェ。クロは解放され危険な精霊王の花を見つめる。
「私とは仲良くしてくれないのはどうしてなのかな~姉弟子は悲しいかな~」
精霊王の葉を持ち距離を詰めるサワディルに顔を引き攣らせるクロは数歩下がりながら言い訳を考え、話を逸らそうとアイテムボックスを立ち上げる。
「あの、夕食は取りましたか? まだでしたらすぐに用意しますが……」
クロの言葉に反応するようにお腹を鳴らすサワディルとビスチェ。エルフェリーンとスレインが肩を揺らし、クロはチャンスだとアイテムボックスから食材を取り出す。
「先ほど王宮で味噌ラーメンを皆に作ってきましたので、師匠たちにも食べていただけたらと用意してあります。もちろんスレイン師匠と姉弟子にも、」
「やった~嬉しいかな~クロの料理は大好きかな~」
両手を上げ飛び付くサワディル。対してクロは近くにあった木製の椅子を手に取り変わり身の術がごとく身を入れ替える。
「可愛い弟弟子め~このこの~あれ? クロったらいつの間に鍛えて胸板がこんなに硬くなったかな~って! 椅子~~~」
ノリツッコミを放置し、空いているテーブルにドンブリを用意し味噌を入れ、用意していた出汁を注ぎテキパキと味噌ラーメンを用意し、すでに茹でてある麺を入れ、茹で塩コショウに少量の鶏ガラで味を付けたモヤシとキャベツにチャーシューを添え、最後にたっぷりのコーンとバター乗せて七味をテーブルに置き完成する。
「ふふふ、あらあら、美味しそうな見た目と香りね」
「味噌ラーメンね! この黄色い粒が美味しいのよ」
「うんうん、美味しそうだね~この七味は入れ過ぎると辛くて食べられなくなるから気を付けるんだよ」
「クロの料理は美味しいから楽しみかな~」
ノリツッコミをなかった事にしてしれっと椅子を置き席に着くサワディル。エルフェリーンやビスチェにスレインはクロにお礼を言って食べ始める。
「私も上手に箸が使えるように練習したのよ」
「私はフォークかな~あの二本の棒を自在に扱うのは無理かな~あむあむ……美味っ!?」
フォークとレンゲを使い器用に麺を食べるサワディルは自然と笑みを浮かべ味噌ラーメンのスープとコーンを口に入れる。
「スープが美味しいわ~コクがあるのかしら、麺も太くて食べ甲斐があるわねぇ。それにこの薄いお肉が柔らかくて美味しいわ」
「このお肉を細く切ってネギと和えたおつまみも美味しいぜ~コーンバターもおつまみになるね~話していたら飲みたくなってくるね~」
クロに視線を向けて笑みを浮かべるエルフェリーン。クロは味噌ラーメンならビールだと思いアイテムボックスから冷えたビールを取り出しグラスに注ぎ入れる。
「スレイン師匠もいかがですか? 苦みのある炭酸が美味しいですし、味噌ラーメンと合いますよ」
「それなら頂こうかしら。この七味といったかしら、入れもいい?」
「師匠がいうように入れ過ぎには注意して下さい。ビールを置きますね」
七味を軽く振り入れたスレインは香りを確かめスープを口に入れ、キンキンに冷えたビールを口にする。
「七味は辛さというよりも香りかしら? ビールは凄く美味しいわ~個人的に買い取りたいぐらいよ~」
「でしたら箱で置いて帰りますね。ゴミは集めて下されば今度来た時に回収しますので」
「あらあら、気を使わせちゃったかしら」
「スレイン師匠には良くしていただきましたし気にしないで下さい。冷やして飲むと美味しいので魔道具も用意しておけばよかったですね」
「それなら明日にでもルビーと用意するぜ~僕は可愛い弟子が大好きだからね~」
「ハイハイ! 私も可愛い弟子かな~ ビールも飲んでみたいかな~」
そう言いながら七味の蓋を開け振り入れるサワディル。が、手が滑り七味の容器ごと味噌ラーメンに落とし泣きそうな顔を浮かべ、クロは箸を使い七味を助け出すのであった。
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