戦闘後の収穫
「クロさまの手を離しなさいっ!」
剣聖キサラに力いっぱい握られ絶叫するクロ。それを見た聖女タトーラの体がブレたと思った瞬間には剣聖キサラの顔面を聖女タトーラの踵が捉え、浴びせ蹴りという中々マニアックな蹴り技を披露し、赤くなった手を摩るクロ。摩りながらも浴びせ蹴りって、と心の中で繰り返す。
「クロさま、大丈夫ですか?」
「ひっ!?」
「ひ? あ、あの、手に痛みがあるようでしたら回復魔法をお掛けしますが……」
浴びせ蹴りを顔面に受けた剣聖キサラが鼻血を出している現状でクロを優先する聖女タトーラはもじもじとしながら上目遣いですり寄り、クロは手の痛みを感じてはいるが両鼻から鼻血を流している剣聖キサラの方を優先して欲しいと思い口にする。
「決闘に敗れ復讐するような輩は血の気が多いので少しは減らした方がいいのです! それよりもクロさまの大切な手の方が重要です! ささ、お手を」
グイグイと距離を詰めてくる聖女タトーラに右手を差し出しハイヒールの光に包まれ赤みが引き痛みも治まるとお礼を口にするクロ。
「ありがとうございます。それよりも剣聖さまにも回復魔法をお願いします」
「クロさまは本当にお優しいです!」
そう口に出し剣聖キサラに振り返った聖女タトーラは回復魔法を使い、鼻血が止まり押さえていた手を離して頭を下げる。
「すまない、大人気なかったな……」
「いえ、卑怯な手を使ったのも事実ですし……」
剣聖キサラからの謝罪を受け取るクロ。だが、聖女タトーラの怒りは収まっていないのか口を開く。
「まったくです! 剣聖ともあろう者が取る態度ではありません! クロさまと手合わせでき感謝するべきところで力任せに握り潰すなど……この件は聖王国に伝え厳罰に処すべきです! 大司教さま、報告をお願い致します!」
鼻息荒く母である大司教に伝えるとクロへと向き直り微笑みを浮かべる姿にクロは思う。
この人は怒らせてはいけないと……
「使徒ではなく女神さまの友人であるクロさまへの無礼は剣聖と言えど問題ですね。この事は聖王国に伝えましょう」
眉間に皺を寄せて剣聖を見据え話す大司教。剣聖キサラは後頭部を掻きながら反省の色はなく、大司教からの言葉を受けながらも先ほどメリリと戦っていたアイリーンへと視線を向ける。
「次やるとしたら美しい剣を振るっていた君かな」
そう呟き鳥肌を立てるアイリーン。大司教は大きなため息を吐き、聖騎士たちも同じように「またはじまった」と口にするものもおり、強者だと認識した者へ挑むのが癖になっているのだろう。
「私の弟弟子が剣聖に勝っちゃったかな~クロってば、いつの間に精霊さまと契約したかな~」
姉弟子のサワディルが人差し指でクロの頬をグリグリ通し、抱いていた白亜をサワディルに押し付けて口を開く。
「ちょっと前に女神さまから勧められてですね」
「ふ~ん、そうなんだ~それはそれとして、あのクネクネ動いていた蔦は採取してもいいのかな? きっと錬金素材として使えると思うかな~」
「僕も気になっていたよ! 採取してもいいよね? 採取するよ!」
蔓が絡まり十メートルほどの巨木へ姿を変えた蔦へ向かい走り出すエルフェリーンとサワディル。手には採取用の鋭いナイフが握られ、クロはフワフワ浮いている精霊王へと視線を向ける。
「別に構わないわ。使えるのなら使って利用すればいいすわ。それよりも、今は作戦通りにいったことが嬉しいですわね」
「お力を貸していただきありがとうございます。型に嵌ると精霊術は本当に使い勝手がいいですね」
「そうですわね。攻撃を発動させる時間や範囲をあらかじめ決めておけば先ほどのような罠に嵌める事も可能ですわ。これは他の精霊術者も見習うべきことかもしれませんね」
目がないが視線をビスチェへと向ける精霊王。ビスチェはその事に気が付いておらず寄り添う小雪の背を撫でている。
「ああ、ひとつ聞きたいのだが、先ほどの戦いで蔦に呑まれた際に聖剣の力を使おうとしたのだが、使えなかったのだ。それについてはどうなのだろうか?」
剣聖キサラは濡らした布で鼻血を抜きながらクロに向け口にし、精霊王は体の向きを戻す。
「それは簡単なことですわ。私の契約者が怪我をせぬよう土の魔力を感じ無効にしました。属性攻撃なら全て無効化できますもの。おほほほほほほほ」
高笑いを決める精霊王。クリスタルボディーも仰け反り花が咲き乱れる。
「それはありがとうございます。自分もどうして聖剣の力を使わないのかと思っていましたが精霊王さまが制してくれていたのですね」
「そういうことですわ。私と契約して正解だったでしょう」
顔のないドヤ顔を浮かべる精霊王にクロは感謝し素直に頭を下げ、その話を聞きながらアイリーンは思う。
属性攻撃無効とか、私よりも絶対チートキャラですよ。
「ク~ロ~手伝ってくれ~」
「キャッ!? 切り倒すのなら行ってほしいかな!」
決闘に使った会場にそびえる蔦の木を切り倒すエルフェリーン。その木が倒れた衝撃で吹き飛ばされるサワディル。その光景にクロは急ぎ足を進め、他の者たちも向かい皆で件の蔦を回収する。
「一本はそれほど太くないけど絡み合って強度を保っているわ。それにこの子たちが気に入るほど魔力を有しているわね」
キラキラと蔦の断面に集まるビスチェの契約精霊。クロとエルフェリーンにはその姿が確りと見え、断面を嘴で突く姿が確認できる。
「えっと、精霊王の蔦、魔力を多く含む蔦は回復薬の素材になる。乾燥させると魔力が抜けるので生のまま使う方が良い。濃縮すれば万能薬の素材になり食用にもなるか……凄い素材だね……世界樹の葉には劣るかもしれないけど使い道は多そうだよ……」
エルフェリーンが鑑定しポーションの素材になる事を伝えると目を輝かせるサワディル。
「濃縮しなければ下級ポーションとしても使えるかな~薬草採取に行く手間が省け……う~ん、ポーションに混ぜたらマナポーションも作れるかも~」
「もしかしたら下級ポーションに混ぜたら魔力回復の効果が出るかもしれないね~」
「食用も可能なら天ぷらやおひたしにしてもいいかもな。でも少し筋っぽそうだな」
エルフェリーンの説明を聞き食材として見るクロへ皆の視線が集まる。
「クロ先輩はブレないですね~」
「これを食べようと考えるのがクロなのじゃな……」
「食べても効果があるかもしれないけど、料理をするという発想が残念かな……」
アイリーンたちに呆れた視線を向けられたクロは三十センチほどにカットされた精霊王の蔦をアイテムボックスに回収しながら思う。天ぷらなら大抵のものが美味しく食べられると……
小一時間ほど皆で回収作業を続け片付けを終え、女神たちと別れ教会へ戻ると大司教から頭を下げられるクロ。
「聖女タトーラを宜しくお願い致します……落ち着きのない子ですがクロさまの手助けになると信じておりますので可愛がってあげて下さい……」
「あ、あの、断る事って……いえ、はい、何でもないです……」
クロが断ろうとすると泣きそうな表情を浮かべ祈るように手を合わせる聖女タトーラ。大司教も下げていた頭を上げあの戦いは何だったのかという表情を浮かべ、ヴァルが姿を現しクロの前で片膝を付き、渋々了承するクロ。
「クロ先輩のハーレム化が止まりませんね~」
アイリーンの言葉に顔を引き攣らせるクロなのであった。
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