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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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クロVS剣聖キサラ 2



 ガックリと肩を落としながらも今度は屈伸や上体反らしなどをして体を解し、愛刀である魔剣タイプのロングナイフを手に取るクロ。対して剣聖キサラはゆっくりと歩みを進め、先ほどと真逆だなと思いながら口角を上げる。


「剣聖と歌われながらも情けない……これでは俺が挑戦者という気分だな……」


 背にしていた聖剣を素早く抜き去りクロを見据え、クロは剣聖が会場へ入った瞬間には十五枚のシールドを素早く展開させる。


 先ほどとは違い余裕がないのか? それとも真剣に戦う気概があるのか? どちらにしても先のような失態は避けねばな……


「参る!」


 バスターソード並みの大きさのある聖剣を構え素早い走りで間合いを詰め、飛来してくるシールドに対して横一線に振り抜きシールドを破壊する剣聖キサラ。思っていたよりも手応えのなさにレーベスから聞いたシールドでの捕縛が脳裏に過り、視界を広く持ち足を止める。


「やはりというか、シールドの扱いが上手いな。娘はこの飛来するシールドに手も足も出なかったと聞いたが……確かに厄介かもしれん」


「厄介といいながらも、一振りで五枚以上破壊されると攻めるのが馬鹿らしくなるな……」


「馬鹿らしくか……確かに戦いとは強さ比べという子供じみたもので馬鹿らしいものであるな……だが、楽しい時間であるのも事実! 不意を突かれ破れた自分に今は腹が立っているよ!」


 聖剣に魔力が通り赤く輝きその場で大きく腕を上げ一気に振り下ろす。すると大地がそれに反応し岩の波が生まれ濁流のようにクロを襲い慌ててシールドを前に左に走り回避する。濁流は追ってくる事はなくクロがいた場所を通り過ぎ残っていたシールドを易々と貫き四散していた。


「何あれ怖い……」


「こいつは土属性の聖剣である。名は付けていないがエルフェリーンさまに鍛えてもらい何倍もの威力を放つようになったよ」


 聖剣を肩に担ぎ話す剣聖キサラ。クロはシールドを再度出現させどう攻めたものかと思いながらも、目の前の人物が兄弟子なのかと理解する。


「ダンジョン産の魔剣を持ち当時は怖いもの知らずでな。死の森や厄災の森と呼ばれたあの場所を越え、エルフェリーンさまに挑んだがボロボロにされたよ。まだ幼く見えたビスチェ嬢にも精霊魔法でボコボコにされたが……懐かしい……今の弟子であるクロ殿がどの程度強いか知りたかったが、剣士ではなく策士だったのだな」


「策士は言い過ぎですよ……俺は自分の弱さを理解していますから、真っ向勝負じゃ勝てない相手……そんな奴ばっかりだから頭を使うしか手がないんですよ!」


 叫ぶように自分の弱さを口にするクロ。


「弱さを肯定するか……だが、それも強さだろう……あのような手が思いつくのは自身の実力を確りと理解し慢心せず、勝つことに集中した結果だろうからな。エルフェリーンさまがクロ殿の事を楽しそうに話されていたのが少しだけ理解できた気がするな」


「理解できたのなら、もう戦わなくても……」


「そこは男として俺の剣を受けてくれ。強さを示すことは男として大切な事だろう」


 肩で担いでいた聖剣を下ろし構える剣聖に、ただのバトルジャンキーだと理解したクロは展開したシールドを四方から飛ばし、加えて円錐状に変形させたシールドを二本展開し回転させ放つ。


「クロ先輩の新技ですかね? ドリルのようなシールドとか、もうシールドじゃないですよ」


「シールドは魔力で面を作り防御する方法だからね~あれだと攻撃するシールドだからシールドではないかもしれないね~」


「相変わらずシールドの使い方が器用よね。回転が加わっているから並の斬撃なら反らすこともできるわ」


「うむ、先ほどヴァル殿が見せたランスでの一撃を参考にしておるのじゃろう」


 ロザリアの解説に六枚ある羽を広げ嬉しさをアピールするヴァル。その横では聖女タトーラが「アレも受けてみたいです」と呟き、隣で見ていた聖女レイチェルは顔を引き攣らせる。


「ほう、シールドを使いランスを再現するとはな」


 感心しながらも聖剣を振り向かって来るシールドを切り払い、高速回転する円錐状のシールドに向け先ほどの岩の濁流を放ち迎え撃つ。


「やばっ!?」


 慌ててシールを階段状に設置して登り回避し、ドリルシールドは明後日の方向へと飛ばされ、剣聖キサラは土煙に呑まれそうになるが視線の先にクロを捕らえ飛び上がり追撃に映る。


「シールドを使い空に逃げるとは考えたな!」


 叫び飛び上がった剣聖キサラに向けシールドを飛ばすが、勢いそのままに斬り伏せられ四散するシールドたち。


「覇ぁぁぁぁあっぁあ!!!」


 気合の籠った叫びにクロはニヤリと口角を上げて口を開く。


「精霊よ!」


 叫ぶように発した言葉に反応して数十本の蔦が地面から一気に伸び目の前まで迫った剣聖キサラを飲み込む。


「なっ!? 精霊だと!」


 驚きの声を上げながら無数の蔦が剣聖キサラを襲い蔦らしく手足に巻き付きその身を覆い、藻掻くように聖剣を振り回し蔦を切るが下から発生する蔦の数に手が足りなくなり次第に覆われ、全身が隠れるほどに巻き付かれ空中で静止する。


「はぁ……上手くいったな……」


 シールドを足場にしながら近づき顔だと思われる部分に手を伸ばすと蔦は動き剣聖キサラの顔が露わになり、そこへロングナイフを向けるクロ。


「勝ちでいいですか?」


「ああ、完璧にしてやられたよ……日に二度も負けるとはな……」


 敗北を受け入れながらもその眼光は鋭く三回戦とか言い出しそうな雰囲気に、クロは手を翳して蔦に包めたまま場外へと移動させる。


「クロが勝ったぞ……」


「ああ、クロ殿が勝ったな……」


「いや~まさか精霊魔法を使って勝つとか……クロ先輩は何でもありですね~」


 多くの蔦が巨大なひとつの木になりクロに誘導され移動する姿に呆気に取られる一同。


「アレは精霊王との契約による力かな? 棘はないけどあれだけの蔦に襲われたら対応が難しいぜ~」


「場所も空中では対応に限りがあるのじゃ。逃げるにしても空が飛べる実力でもなければ難しいのじゃ」


「地上にいたとしても地面から無数に生えてくるわ。逃げるので手いっぱいになるわね! クロにしては良くやったわ!」


 戦いの分析をしながら言葉を交わすエルフェリーンやロザリア。ビスチェはドヤ顔を浮かべながらこちらへ向かって来るクロを褒め、力を貸した精霊王はいつもよりも多くの花を咲かせている。


「クロさん凄かったです!」


 巨大な植物の蔦を連れて現れたクロに抱き付くシャロン。聖騎士たちからは嫉妬の視線を向けられるが、中身が男だと知っているクロとしては頭の上に着地して鳴き声を上げる白亜の重さにバランスが乱れ、両手で掴みこの一年で成長したなと微笑む。


「ああ、精霊王さまと契約したからな。さっき打ち合わせしたのが上手くいったよ」


「それで話し込んでいたのね。精霊魔法といえばそれに当てはまるかもしれないけど、精霊王が味方するとなると卑怯だと思うのだけど、どうかしら?」


 女神ベステルの言葉に顔を歪めるクロ。


「もう再戦とかしませんからね。自分は料理担当ですから、戦闘とかは得意な人がやればいいのです! それこそうちにはゴロゴロと達人がいるじゃないですか。それなのにどうして俺が戦わさせられるのかが理解できん!」


 そう言いながら剣聖キサラをゆっくりと下ろし蔦を解除する。解除された剣聖キサラは「改めて言うが俺の負けだ」と口にして手を差し出し、クロはその手を受け力いっぱい握られ絶叫するのであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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