聖女たちVSヴァル
「ゲームのラスボス戦みたいですね」
六枚の翼を広げ自身の身長より長いランスを構えるヴァル。対して聖女レイチェルは赤く発光する聖剣を構え、聖女タトーラも強固なグローブで固めた拳を握り締める。
「あのグローブはドラゴンの鱗や革が使われてそうです! 魔石も埋め込まれているのでどんなエンチャントが施されているか気になります!」
目を輝かせ聖女タトーラが装備するグローブを見つめるルビー。
(あれはブルードラゴンの革と鱗で作られたグローブ。柔軟な革は耐久性が高く炎の耐性がある優れものです。手の甲と指先には青い鱗で覆い、魔力を込めれば氷のシールドを発生させます)
ダンジョン神からの念話を受けテンションを上げるルビー。他の者たちにもその念話は流れ顔を引き攣らせる大司教。
「あのグローブも聖剣と同等という意味で聖拳というカテゴリーに入れていたのですが……」
「あははは、教会が考えそうなことだね~聖と付ければ善良な物という認識になるからね~」
「うむ、我が使う影魔法は闇魔法と同等に扱われた歴史もあるのじゃ。似ているが違いがあるのじゃが、魔術に詳しくなければそのイメージで悪い物と認識されるのじゃ」
「精霊魔法も奇跡だの言われるけど、魔力を渡してお願いしているだけだわ。自分たちに都合がいい解釈で民衆を騙す教会の考えはやっぱり好きになれないわね」
エルフェリーンとロザリアにビスチェからの辛辣なコメントに引きつらせていた顔が更に引き攣る大司教。聖騎士たちの中にもその事実を知っているのか顔を引き攣らせる者も多い。
「で、ですが、そうした事も必要です。民衆を騙しているのではなく神聖な物として捉え導くことで民たちの心の安定を……はじまるようですね」
聖女タトーラが拳を顔の前で構えボクシングスタイルで一気に駆け抜け一直線にヴァルへと向かい。それを追うように走る聖女レイチェル。ヴァルはそんな二人を迎え打つべくランスを地面と水平に構え踵を浮かせると一気に加速する。
「はああああああああっ!」
聖女タトーラが拳に魔力を通し青く輝き、向かって来るヴァルのランスに合わせてスピードと体重を乗せた拳を打ち込むがあっさりと吹き飛ばされ、聖女レイチェルも同様に吹き飛ばされ宙を舞う二人。
「話になりませんね……」
小さく呟くヴァルが地面に倒れる二人へ視線を向け呟く。
「まだです! こんなの何発喰らってもへっちゃらです!」
むくりと起き上がり拳を構える聖女タトーラ。聖女レイチェルも聖剣を手に取ると立ち上がり自身に回復魔法を掛けつつ走り構える聖女タトーラの横に立ち口を開く。
「ねえ、どう考えても二人で共闘しないと倒せる気がしないわ」
「うん、それはわかってる!」
そう口にして走り出す聖女タトーラ。
「でも、天使さまを認めさせるには一発ぶん殴る!」
「えっ!?」
急に走り出す聖女タトーラに驚きと呆れが混じり大きくため息を吐く聖女レイチェル。
そういえばライナーさんとヨシムナさんが言ってたっけ……「暴走聖女だって……」
「気合は認めますが、気合だけでは埋まらない自身の実力という現実を見るべきですね」
ランスを構え先ほどと同じような突進型の突きを放つヴァル。対して聖女タトーラは先ほどとは違い拳を開き矢のような側で迫るランスを受け止めようと気合を入れる。
「来いやぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
聖女とは思えないような気合のある叫びに驚くクロやビスチェ。対して聖騎士たちは揃って頭に手を当て大きなため息を吐く。
「気持ちが良いぐらいの真っ向勝負で挑むね~」
「うむ、あれではオーガと言われた方がしっくりくるのじゃ」
「あの子はまったく……はぁ……」
大きなため息を吐きながらも自身の拳をきつく握りしめる大司教。
ヴァルのランスを魔力で強化したグローブで受ける聖女タトーラ。その身はランスを掴み絶対に放さないという強い意志を持った瞳を印象付けるも聖女タトーラごと直進するヴァルの突き。
「気合だけは合格ですね」
ランスが横に振り払われ吹き飛ぶ聖女タトーラ。それをフォローしようと聖女レイチェルが体を張って受けダメージを減少させる。
「痛つつ、大丈夫かしら?」
「うん! 大丈夫! ハイヒール!」
ランスからの一撃を受け、更にはそれを掴み続けた両手には痛みが走り顔を歪めながらも、元気に返事をした聖女タトーラは回復魔法を口にして癒して拳の状態を確かめる。
「次は絶対に止めるからレイちゃんは一撃入れる係ね!」
「レイちゃん……はぁ……それは構わないけど本当に止められるの?」
「絶対止める! 死んでも止める! クロさまの盾になる!」
真直ぐに聖女レイチェルの瞳を見つめる聖女タトーラ。
「なら立ちなさい! 私は盾役になれないけど同じ聖女として力を貸すぐらいはできる心算よ!」
立ち上がり聖剣アノヨロシを構え魔力を通し、聖女タトーラはニッカリと笑顔を向けつつ立ち上がり気合を入れる。
「互いに信頼し立ち上がる姿は尊いものです。ですが、先ほどよりも威力を上げた一撃を受け止める事ができるか疑問です……」
ランスを構えたヴァルの六枚の翼が羽ばたくこともなくゆっくりと宙へ浮き上がり、顔を引き攣らせる聖女レイチェル。
「しゃっ!! 来い!」
聖女タトーラは前向きであった……
「ちょっと、一度様子を見るべきよ!」
聖女レイチェルがその身で後ろから体当たりをして二人は大地に伏せ、その上を豪風が吹き抜ける。
「レイちゃん重いよ!」
「重くない! それよりも空から羽ばたいた事でスピードが圧倒的に上がっているし、回転も加わっていたわ。見なさいよ」
二人が倒れている後方では大地が不自然に削れ、衝撃で舞った草が渦を巻き遅れてきた風に吹き上げられる。
「アレを素手で受け止めるとか……不可能よ……掴んだ瞬間に弾き飛ばされるわ……」
「そこは気合でカバーする! 任せて!」
「いやいやいや、私の話を聞いてる!? さっきだって吹き飛ばされたのにスピードと回転が加わって」
「大丈夫! 絶対に止めるから! そうだ! レイちゃんが背中を押しててよ! そうすれば私は吹き飛ばない!」
「それって、二人で吹き飛ばされるか、ランスで貫かれるかの二択だと思うのだけれど……」
「大丈夫! 私はレイちゃんを信じるから!」
再び真直ぐな視線を向ける聖女タトーラに大きなため息を吐く聖女レイチェル。
ライナーさんとヨシムナさんが苦労したと言っていたけど……はぁ……聖女としても一撃ぐらい入れたいわね……
「わかった。でも、無理はしないでよ」
「それは無理! 無理しないと止められないもん!」
「…………………………でしょうね……はぁ……」
「うん!」
「やるからには止めるわよ!」
大きなため息を吐きながらも曇りのない瞳を向けてくる聖女タトーラに、聖女レイチェルは聖剣アノヨロシを大地に突き刺す。
「ヴァルさまは私たちに目がけ突きで突撃してくるわ。アノヨロシを足場にすれば多少はましになるはずよ……聖剣アノヨロシを足場に……はぁ……」
「うん! 絶対に止めて見せる!」
互いに背中合わせになり大地に突き刺した聖剣アノヨロシを足場に踏ん張る姿勢を作る聖女レイチェル。聖女タトーラは息を整えながらグローブを装備した両手に魔力を集中させ高く上るヴァルへ視線を向ける。
「覚悟は宜しいですね?」
「はい! 絶対に止めます!」
「私も準備できた! 絶対に止めるわよ!」
強い意志を込めながら身体強化を使う聖女レイチェル。
「行きます!」
六枚の翼が羽ばたき一気に地面すれすれに高速で向いスピードを上げランスを構えるヴァル。ランスだけではなくその身も回転し投擲された槍のように直進する姿に聖騎士たちは拳を握り締め、大司教も歯を食いしばり娘の戦いを見守るのであった。
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