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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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戦いの考察と聖女の暴走



 二人が魔化を解きゆっくりと歩きながら戻りライナーに抱き締められるアイリーン。


「凄かった! 凄かったよ!」


「ちょっ!? ライナーさん、苦しいです。苦しいですって……」


 ライナーの抱擁に困り顔のアイリーンだったが、それでも内心では嬉しいのか微笑みを浮かべる。転生前は聖女として活躍したが今のような接近戦で戦う事はせず、その戦いぶりに感動したライナー。アイリーンも今の戦いぶりに認められたという実感があるのかライナーを強く抱き締め返す。


「うふふ、私も誰かに抱き締められたいのですが……」


 両手を広げハグ待ちをしながらクロへと視線を向けるが、そのクロはダンジョン神と精霊王へと向ける。


「それにしても上手く罠に嵌めたわね」


 腕を組み女神ベステルが感心した様子でアイリーンに向け口を開く。


「ほぼほぼ運でした~たまたまその場でメリリさんが受けてくれたから上手くいっただけで、糸の残りに気が付いたのは納刀し構えてからですからね~」


「その糸を使って私が拘束されたのですね……もっと目を凝らして地面を確認すべきでした……」


 先ほどの戦いのラストでアイリーンの一閃を黒いダガーで受け、白いダガーを振り下ろした一撃が寸前で停止したのはレーベスとの戦いで張り巡らせていた糸の残りを使い、一瞬にしてその糸でメリリの体を覆ったのである。結果として振り下ろそうとした腕が下まで下りずに停止し、アイリーンの勝利となったのだ。


「ちょっと卑怯かと思いましたが、これしかないと……」


「うふふ、卑怯ではありませんし、私のダガーを真っ二つに斬ったのはお見事です。あの~ルビーさま、私が不甲斐なく申し上げにくいのですが……」


 ウイスキーを飲みながら観戦していたルビーに根元から切断されたダガーを持ち寄るメリリ。


「任せて下さい! 何ならもっと強化しましょう! エンチャントの技術も少しですが上がっていますし、あの戦いを見て私も勉強になりました!」


「確かに見事な決闘だったな。ラミアならではの身体能力にも驚いたが、そっちの娘の移動速度は驚愕したぞ」


 剣聖キサラから言葉にアイリーンは抱き締めていた手で後頭部を掻き照れ、メリリはルビーに折れたダガーを渡す。


「でも、アイリーンの勝因には、もっと致命的なものがあったわ」


 その言葉に全員の視線が集まり、仁王立ちから指をビシッとメリリに向けるビスチェ。


「ち、致命的ですか?」


 何を言われるのだろうと警戒するメリリにビスチェはズバッと言い放つ。


「最近のメリリはまた太っているわ。特にお腹周りと二の腕に脂肪が付いたから剣を振るう速度が落ちたのよ。少し前なら結果が逆になったかもしれないわね」


「………………いやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ、そんなにジロジロと見ないで下さいいぃぃぃぃぃぃぃ」


 両手を胸の下でクロスさせ二の腕とお腹を隠しながら走り出すメリリ。その光景をポカンと見つめる一同。アイリーンを抱き締めていたライナーも薄っすら涙していたが逃げるメリリに呆気に取られ、クロはダンジョン神と話をしていたが、そうだよなぁと口には出さずにダイエットメニューを思案する。


「確かに一理ありますね……メリリさんの剣速がいつもよりも遅く感じましたが、あれは私が集中しているからではなく、腕が太くなったからでしたか……」


「朝はフレンチトーストいっぱい食べてました!」


「さっきはから揚げをモリモリ食べていたのじゃ……」


「お酒は飲んでいませんでしたがジュースをがぶ飲みしていましたね……」


 アリル王女とロザリアにシャロンからの証言もあり決闘前に既に体重を増やしていたメリリ。


「そりゃ太るわね……私だって注意しているもの……」


 呟くキュアーゼは目を細めてクロの背を見つめ、背筋にゾクリと冷たい何かを感じ取ったクロはダンジョン神にコンニャク料理の宝箱を提案するのであった。





「それでまだ話は終わらないのかしら?」


「えっと、もう少しだけいいですか? 精霊王さまにもお願いがあって」


「契約者のクロからの願いならある程度は融通しますわ」


「では―――」


「だそうよ。誰か戦いたい人はいるかし、」


「はい、はい、はい!」


 女神ベステルの言葉を遮り手を上げる聖女タトーラ。その姿に顔を青くする教皇と大司教。聖騎士たちも自身たちが信仰する女神ベステルの言葉を遮った事に鎧をガチャガチャと震わせる。


「あら、タトーラが戦いたいの?」


「はい! クロさまに追従する実力があると示させて下さい!」


 この時、聖女タトーラの頭にはクロに認めてもらい聖王国からの指示であるクロに追従するとう事しか頭になく、女神ベステルから名前で呼ばれたという事実に気が付いてはいない。が、その母である大司教タストは女神ベステルが娘の名を口にした事に驚き自然と溢れる涙。


「うう、タトーラが女神さまに覚えて頂ける存在にまでなっているとは……一生懸命に頑張る姿を見て頂けていたのですね……たまに暴走し、抜けている事もある娘が……ううう……」


 たまにではなくほぼ毎日暴走を繰り返しているぞ。と思いながらも声には出さずに口を紡ぐヨシムナとライナー。


「であれば、私が追相手するというのが筋ですね」


 クロの近くから出現し、ゆっくりと足を進めるヴァル。


「クロさまの守護者である私よりも明らかに弱い存在である貴女が必要だとは思えません。クロさまが嫌がっておりましたので、どれ程の実力があるか確認させてもらおう」


 クロさまが嫌がってという単語に顔を歪め今にも泣きそうな顔になる聖女タトーラ。


「でもぉ、ヴァルちゃんはワルキューレでぇ、実力の差が開き過ぎですぅ。もう一人の聖女レイチェルも参加してぇ二対一で戦うのはどうですかぁ?」


 急に話を振られ「自分もですか!?」と驚きの声を上げる聖女レイチェル。


「それでも実力の差は大きいわね。まあ、クロを守ることができるかという確認はできるかもしれないわね」


「女神ベステルさまからの許可が貰えるのですね!」


 両手を合わせて目を輝かせる聖女タトーラに悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる女神ベステル。


「ふふふ、そこは本人に許可を取るのが筋ってものじゃないかしら? 私が認めてもクロの許可がなければエルフェリーンも納得しないと思うわよ。それに随行するには家に住む許可や生活費も必要でしょう」


 何やらおかしな話題に変わったと振り向くクロ。そこには口角を上げ視線を向ける女神ベステルが目に入り顔を引き攣らせる。


「ヴァルだけで十分なのですけど……」


「主さま、自分もそう思うのですが盾は多い方が便利な時もあります。ですが、使える盾でなければ所持する意味もありません。その見極めをさせて下さい」


「使える盾って……」


 クロが呆れて口に出す。


「ん? クロは攻撃よりもシールド魔法が得意だぜ~それなのに盾役が欲しい?」


「クロ先輩はそろそろ女性に刺される気がしますね~」


「愛があるのは良いことですぅ~」


「いつの間にか弟弟子がスケコマシに成長しているのかな~これは姉弟子として注意した方がいいのかな~」


 会話の流れに顔を引き攣らせるクロ。味方が欲しいと男性であるシャロンに視線を向けるがドレス姿という事もあり何とも言えない表情へ変わり、自分だけでも先に地上へ逃げようかと思案するクロなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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