表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
573/669

アイリーンVSメリリ



 やば、メリリさんの本気なんですけどっ!? 聖騎士がこんなにも多くいるのに魔化して下半身を蛇に変えるとか正気ですか! 

 ラミアの特性上、魔化すると素早さはもちろんですが、人間形態のときよりも前後左右の可動域が広くなって身長も大きくできる完全チート能力。尻尾の一撃だって鞭と鈍器を合わせたような威力……

手にしている二本のダガーだって白薔薇の庭園で受けると確実に刃こぼれするのにぃぃぃぃぃ!!!


 冷たい汗が額から流れるのを感じつつ心の中でツッコミを入れるアイリーン。


「うふふ、本気で行きますので、ご覚悟を!」


 メリリの目がギラリを光り両手のダガーが赤い閃光に包まれ、構えを取った瞬間にアイリーンは糸を飛ばし間合いを広げるべく後方に飛び去る。が、それを理解していたのかメリリも長い下半身をバネのように使い一気に間合いを詰める。


「破っ!」


 瞬きほどの一瞬で間合いを詰めながら振るわれたダガーからは赤い斬撃が輝き、『双月』のもう一つの由来になった三日月のような赤い光が飛びアイリーンの目の前を通り過ぎる。


「くっ!!」


 身を翻し一撃目を避け、それを追うようにその身を襲う二発目の飛ぶ斬撃を白薔薇の庭園を使い横に薙ぎ斬りつける。


「ほぅ、飛斬を使うか……」


 剣聖キサラがぽつりと漏らした言葉にネバネバ中のレーベスが口をあんぐりと開け、聖女レイチェルも糸を切る作業の手が止まりその瞳を大きく開き驚きの表情で固まる。


「メリリは本気だぜ~」


「うむ、飛ぶ斬撃自体はそれほど難しくはないのじゃが、その威力と射程は込めた魔力と腕力に比例するのじゃ。メリリの本気なら、この会場の半分ほどは射程内なのじゃ」


「それって中央から攻撃すれば会場全てが射程内と……」


 ロザリアの説明にライナーが驚愕し、レーベスと聖女レイチェルも口をあんぐりと開けたまま固まり続け、剣聖キサラも顔を引き攣らせる。


「じゃが、アレは魔力消費が高いのじゃ」


「そうだね~込める魔力はもちろんだけど腕力だって相当だぜ~僕なら近づいてから斬る方が楽だと思うけど、アイリーンは素早いし空中に逃げるから退路を攻めるには有効なのかな~」


 二人の分析にライナーは自分よりも遥かに格上な戦闘をしている事に驚き、まだあどけなさの残る少女の愛理アイリーンが恐れられる『双月』とどれだけ戦えるのかを見つめ手を握り締める。


「きゃっ!?」


 二発目の飛翔する斬撃を白薔薇の庭園で切り払うも追って来たメリリのリーチのある尻尾での一撃を食らい弾き飛ばされ、会場のギリギリで糸を飛ばし場外を避けつつ空中に留まり痛みのある左腕に回復魔法を掛ける。


「エクスヒール」


 糸を空間に二重に固定させ尻尾打撃の威力を落としたのにこの威力とか、普通に喰らったら腕が飛んでっちゃいますよ! こうなったら……でも、ライナーさんに嫌われちゃうかも……下半身が蜘蛛だしなぁ……ってっ!?


「うふふ、私を前に上の空とか、ダメですよぉ」


 アイリーンに向け二本のダガーを振り赤い三日月の連撃が襲い慌てて糸を足場に空を駆け避け、メリリも逃がす心算はないらしく行動予測し先に飛ばしながらもその身をくねらせ追う姿勢を見せる。


「うわっ!? これって逃げる以外の選択肢しかないですよ~」


 叫びを上げながら逃げるアイリーンだったが心配そうに見守るライナーの姿が視界に入ると、その身を翻して白薔薇の庭園を鞘に収める。


 嫌われるよりも心配される方が……自分としては嫌ですねぇ……それに前にも言われたっけ、姿が違っても愛理は愛理……だって……


「私も本気で参ります!」


 一瞬にして魔化し蜘蛛の下半身をさらけ出すアイリーンにメリリはニヤリと口角を上げる。


「うふふ、やっと本気になってくれましたねぇ」


「はい、逃げ回るのは違うと思ったので……ご覚悟をっ!」


 一瞬とはいえ魔化し終わるまで待ったメリリに、アイリーンは自身が持つトップスピードで走り地面に降りると互いに向かい合う。


「白薔薇の庭園は抜かないのですか?」


「前にも話しましたが日本刀の美学は速度です。その速度を生かす最大の方法は抜刀する瞬間……まだまだ未熟な剣技ですが、受けてくれますよね?」


「うふふ、私としては追っかけっこも好きですが、ピリピリと肌がひりつく接近戦も大好きです。お相手致します」


 ダガーを構えたメリリが大蛇の下半身でその身長を伸ばし黒と白のダガーを構え、メリリは蜘蛛の下半身を低くし白薔薇の庭園に手を掛け鯉口を切る。


 ジリジリと間合いを互いに詰める姿に決着が近い事を知ったギャラリーは固唾を飲んで見守り、女神ベステルも目の前の緊迫した光景に微笑みを浮かべ冷えた缶ビールの封を開け心地の良い開封音に振り向くエルフェリーンと愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキール。


「ここはまったりとウイスキーを飲みながら見守るべきだと思うぜ~」


「いえいえ、シュワシュワしたスクリュードライバーでぇ喉に刺激を味わいながら見るべきですぅ」


「そうじゃないだろ。静かに見守れ! アイリーンが格上に挑む瞬間を見逃すな!」


 叡智の女神ウィキールが言おうとした事をクロが代弁し、ウィキールはそっと梅酒サワーの缶に伸ばした手を戻す。


「あら、ダンジョン神と精霊王との話は終わったのかしら?」


「決着まで待ってもらいました」


「そう、それよりもアイリーンが圧倒的に振りだわ。どっちも剣に魔力を込めているけどメリリの方が剣としての性能が上で魔力の精度も高いわ。それに加えて二刀あるダガーで抜刀を受けたら白薔薇の庭園は確実に折れ、斬られるわね」


「あら、抜刀の速度ならアイリーンに分があると思いますわ! ダガーが振り下ろされた時にはアイリーンが一閃を入れメリリが胴と蛇に別れた後ですわ!」


「姿勢をよく見なさい。メリリの下半身は長い大蛇なのよ。避ける気になればお腹を引っ込めるようにその身だけをくの字に後退させ、上からダガーの牙が襲う。圧倒的にメリリが有利なのよ。まあ、アイリーンも気が付いているでしょうけど……」


 女神ベステルの分析に武具の女神フランベルジュが眉間に皺を寄せているとアイリーンから動き一気に間合いを詰め、それに応えるようにダガーに魔力を集中させ赤い瞳を輝かせるメリリ。


 低い姿勢から一気に駆け抜け白く輝いた白薔薇の庭園の横薙ぎ。それに合わせるよう上から赤く輝く二本のダガーが襲う。


 うふふ、アイリーンさまはまだまだですね~私は白薔薇の庭園の一撃を二刀で迎え討たなくてもその一撃はこの身に届きません。右手の一撃で白薔薇の庭園の抜刀さえしのげば、もう一刀を振り下ろし私の勝ちです!


 メリリの思惑通りに右手で振り下ろしたダガーの一撃は白薔薇の庭園を迎え打ち、金属同士がぶつかる甲高い音が響く。ここで予想外にもアイリーンの一閃はメリリが振り下ろしたダガーを根元からバッサリと切り捨て目を見開くメリリ。

 だが、もう一刀を振り下ろせばメリリの勝ちが確定であり、その腕を振り下ろす。


「えっ」


 小さく漏れた言葉はメリリから発せられ振り下ろしたダガーはアイリーンの額に当たる寸前で停止し、アイリーンは白薔薇の庭園をゆっくりと上に向けメリリの喉へとピタリと止める。


「これって私の勝ちですよね?」


 アイリーンの言葉に「参りました」と口にするメリリであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ