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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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アイリーンVSレーベス



 百メートル四方の草原を作り終えたダンジョン神と精霊王はクロの下へと移動し、女神ベステルはアイリーンとレーベスに向け手を払う仕草をする。するとレーベスの服装がいつもの聖騎士の鎧へと変化しアルコールも抜けたのかほんのり赤かった頬が正常に戻り、アイリーンも腰の白薔薇の庭園に手を掛けながら足を進める。


「ルールは何でもありで、互いにエリアへ入ったら戦闘開始にしましょうか」


 女神ベステルの言葉に頷き足を進めるレーベス。アイリーンは先に進み歩みを止め白薔薇の庭園を抜き素振りを数回繰り返しその度にバラの花びらが舞い、美しさに足を止めるレーベス。


「剣もだけど、花びらが舞うのは美しいな……」


「この日本刀は武具の女神フランベルジュさまから頂いた神器ですからね~美しさを追及した結果この形になったと聞いています。この刀に恥じない剣士を目標にしています」


 そう口にしながら白薔薇の庭園を鞘に収めるアイリーン。二人は既にエリアへと入り適度な距離を取って おり、どちらかが動けば否応なしに切り合いが始まる。


「折角だから私の愛剣も紹介するな。これは親父がくれた魔剣で剣聖になるまで使っていたものだ。名前とかはないが魔力を通すと切れ味が増す優れたダンジョン産の魔剣だ」


 最後は早口でまくし立てるように言い放ち走り出すレーベス。が、次の瞬間、足を取られ転がりアイリーンの前で糸に絡め捕られじたばたと叫びを上げる。


「おいこらっ! 罠とか卑怯だぞ! その剣に恥じない剣士になるとか言ったのは嘘かよ!」


「いえ、それは本当ですが、こうも上手く引っ掛かるとは思ってなくて……ちょっとガッカリです……」


 アイリーンはエリアに入り二人で向き合った瞬間から魔力で生成された糸を足から飛ばし、くるぶしほどの草丈の間を進めて罠を張っていたのである。糸は転ばせるためのものと粘着力がある網上のものを素早く仕込み、走り出すと同時に足を引っかけて網で捕縛されたのだ。


「あのバカ娘が……これではクロと戦った時と同じではないか……」


 以前クロと決闘した際も打ち合うことなく捕縛された事を知る剣聖キサラは大きなため息を吐き、同僚である聖女レイチェルや聖騎士長サライも同じようにため息を吐くのであった。


「アイリーンも中々にえげつない戦い方をするわね」


「魔力感知がぁ疎かになっている証拠ですぅ」


「私としては白薔薇の庭園で斬り伏せて頂きたかったですわ! 折角の晴れ舞台ですのに……」


 女神ベステルと愛の女神フウリンに武具の女神フランベルジュが落胆しているとメリリが数歩前に出て口を開く。


「でしたら、私が参加しても宜しいでしょうか?」


 メリリからの言葉に口角を上げた女神ベステルは手を払う仕草をする。すると聖女レイチェルの前に糸でグルグル巻きのレーベスが現れる。


「敗者は片付けたから行くと良いわ。お酒は飲んでないわよね?」


「うふふ、口を濡らした程度です」


 そう口にして身を翻したメリリは素早く隠し持っている二本のダガーを手にしてアイリーンの下へ向かう。


「ん? レーベスさんが消えてメリリさんが現れましたが……やる気満々ですね~」


「うふふ、先ほどの戦いでは物足りないかと思い志願させて頂きました。構いませんよね?」


 微笑みを浮かべたメリリがギラリと瞳を輝かせ二本のダガーを構え、アイリーンは「お、お手柔らかにお願いします」と口にしてゆっくりと数歩ほど後退る。が、メリリは一瞬にして間合いを詰めトップスピードの連撃がアイリーンを襲う。


「ちょっ!?」


 驚きの声を上げながらもダガーを避けながら糸を広く放出して何とか間合いを取ろうするアイリーン。メリリを素早く左に大きく避けながらも開いた間合いを埋めるべく大地を蹴り間合いを再度詰める。


「アイリーンの攻略法があるとすればゼロ距離で罠を作らせないことじゃな」


「そうだね~アイリーンは器用に糸を使って罠を作るし、糸を忍ばせるのも上手いからね~糸に集中できないようにしながら追い詰めるのが一番だね~あとは炎を使って糸を燃やすぐらいかな~」


「アイリーンは連撃の捌き方がまだ苦手よね」


 アイリーンが使う白薔薇の庭園は日本刀と似た造りで純粋な耐久度はそれほど高くない。折れず曲がらずと言われる日本刀であっても、メリリが使うダガーは分厚く圧縮された魔物の牙と金属を使った合金で耐久性を圧倒する。リーチと切れ味という点では白薔薇の庭園に分があるが、側面の強度という点では圧倒的に分が悪く下手したら数撃払うだけで折れかねない。


「黒と白の剣というのも珍しいな」


 顎に手を当て口にする剣聖キサラ。その横ではミノムシのようなレーベスの糸を斬るために苦戦する聖女レイチェルの姿がある。


「黒い方が大ムカデの牙を使ったダガーだぜ~牙にミスリルの粉を入れ混ぜ込みながら熱して叩き、それを繰り返して強度と魔力が浸透しやすくした一品だぜ~毒を付与した思えはないけど素材の力なのか刃には麻痺性の魔力が浮き上がったよ」


「白い方はアイアンアントソルジャーの牙を使い同じような合金にしてから鍛え上げたダガーです。牙の素材から私が魔力を通して作った自信作です! 側面にはルーンも刻み入れ耐久力を極限まで引き上げました!」


 制作者である二人の言葉に相変わらず危険な武器を作っているなと思う剣聖キサラ。彼が持つ聖剣や聖女レイチェルが持つ聖剣も大昔にエルフェリーンが打ったものであり、このダガーがもし教会の手に渡ればすぐにでも聖剣として認定され聖騎士が持つことになるだろう。


「うふふ、やっと抜きましたねっ!」


 白と黒の閃光が二本走るが白薔薇の庭園の横薙ぎ一閃で迎え撃つアイリーン。魔力を帯びた二本のダガーは赤い光に覆われ魔力を込めた斬撃に気合を入れて切り払う。


「メリリさんが怖すぎますっ! とぅっ!!」


 切り払いながら白薔薇の庭園のエフェクトを発動させ、一瞬体が反応し硬直するメリリ。大きくジャンプして糸を飛ばし空へと逃げるアイリーン。


「こ、怖いは酷いです……」


 バラが舞い散るエフェクトを白いダガーの一撃で蹴散らすメリリは泣き真似をしながら視線を宙に浮くアイリーンへ向ける。


「もうメリリさんには三度も白薔薇の庭園を曲げられたんですからね! 折れそうな思いを何度もしてるこちらからしたらメリリさんは凶悪な対戦者です! 怖いに決まっています!」


 過去にも数度メリリと真剣を使った模擬戦を体験したアイリーン。鞘に収まれば自動修復される白薔薇の庭園を曲げられ鞘に収めることができずエルフェリーンに修繕を依頼した事がある。くの字に曲がった白薔薇の庭園に小一時間ほど涙が止まらなかったほどである。


「そういわれましても……あまり皆さまを待たせるのも悪いので、ここからは本気で参りますね」


 泣き真似をやめ微笑むメリリは一瞬に魔化し、下半身を蛇に変え驚く聖騎士や大司教たち。


「ら、ラミアだと!?」


「亜人の中でも自分たちの村から出ることはないラミアが!?」


「ま、まさか、『双月』……」


 悪名高き『双月』の名が聖騎士の一人から漏れ、まわりの聖騎士たちは息を呑む。


「猫耳があったから違うと思いたいが……」


 変装に使う猫耳カチューシャを指摘するが下半身を大蛇に変えたメリリの姿はどう見てもラミアであり、二本のダガーに加え両目が赤く輝く姿に『双月』を知る者たちは身を震わせるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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