集まる冒険者たち
一階層まで戻ると何やら毛色の違う冒険者が集まり複数のパーティーがギルド職員だと思われる男の説明を受けていた。
「優先すべきは人命だ! それも貴族令嬢となれば、ん? おお、エルフェリーンさま!」
『草原の若葉』たちが手を振ると大声でエルフェリーンを丁寧な一礼をするロマンスグレーの初老の男。特に体格がよい訳ではないが瞳には意志の強さのようなものを感じる。まわりの冒険者も三組に固まり、中には昨晩酒を共にした『豊穣のスプーン』の姿も見て取れた。
「ギルドマスターのニコールじゃないか。何かあったのかい? 僕はダンジョンの新しい可能性を発見したよ! これは国に報告して新しい産業が生まれるかもしれないね!」
ドヤ顔を決めるエルフェリーンにギルドマスターのリコールは口を開く。
「大変なのです! 以前より問題になっていた貴族のダンジョン探索で問題が発生し、その救助へ向かう事になりまして、冒険者を集めて説明をした所なのですが……」
「貴族の遊び?」
「はい、簡単な採取と弱い魔物の討伐をして茶会などでその魔石を自慢したり武勇を語ったりと……自身で討伐した魔石を加工したものを身に付ける事が流行っている様で……ダンジョンは貴族の遊び場ではないのに、まったく遺憾だ!」
エルフェリーンへの説明から貴族への怒りへと変わるギルドマスターの言葉にエルフェリーンは何度か頭を縦に振る。
「クロクロ、昨日ぶりなのじゃ。ヒカリゴケの採取は終わったのかの?」
ロザリアがクロたちの元に手を振りながら向かい、ラルフも頬笑みながらクロやビスチェと挨拶を交わす。
「貴族の遊びで救助に向かう事になってな、クロたちも参加せんか? 貴族がらみの案件は報酬だけはいいのじゃ。それに何かきな臭いのじゃ」
腕組みをしながら口にするロザリアとその横で眉間にしわを寄せるラルフ。
「騎士に冒険者を雇ってダンジョン探索に向かったらしいが盗賊のような風体の男たちに襲われて冒険者が逃げ帰って来てな、騎士は斬り伏せられ貴族令嬢たちは捕まったとか……これは我らが追っている人身売買の可能性があるのだよ……」
「確か七階のジャングルエリアで襲われたと言っておったのじゃが……」
二人の言葉に絶句するビスチェとクロ。
「七階って……これはもう生きている可能性が限りなく薄いと思うのだけど……」
「ああ、七階は夜以上にヤバイ場所だな……」
ビスチェとクロが難しい顔になり首を傾げるアイリーンとルビー。
「七階層はまだ上層ですよね? 二人が危険視するほどなのですか?」
「俺は夜の岩場の方が安全だと思うぞ」
「私も同感ね。どっちも危険な事には変わらないけど植物型の魔物は罠を張るし、昆虫型の魔物は固くて早くて攻撃能力も高いわ。罠を張る魔物も多くいるから……」
≪罠なら私も張る!≫
ドヤ顔をしながら宙に文字を描くアイリーンをさらりと無視してクロが口を開く。
「でもさ、貴族令嬢を捕まえて奴隷として売るにしても、どうやってダンジョンの外に運び出すんだ? ダンジョンの外には警備もいるしポーターの子供たちだっているから目撃証言が取れるだろ」
「それについては調査中だな。もしかしたら転移の罠を使い別のダンジョンへ飛ばしているのかもしれんな」
クロの疑問に答えたのはギルドマスターのニコールであり、その横にはエルフェリーンが天魔の杖を握り締めていた。
「みんな、僕たちも参加するよ! これは冒険者に対する冒涜だ! ダンジョンという僕らの戦場を踏みにじり悪さをする奴を僕は許せないよ!」
「そりゃそうだわな。俺たち冒険者のテリトリーで勝手をさせるのは気分が悪い! この筋肉で粛清してやろうじゃないか!」
「僕もそう思います! ダンジョンは冒険者にとっての聖地です! 盗賊などの好き勝手にさせたくないです!」
「ということじゃな。我らは人身売買と違法麻薬を調査しておるからのう、爺さまの恨みを買った闇ギルドは絶滅させるのじゃ」
参加を表明した冒険者は『草原の若葉』と『ザ・パワー』と『銀月の縦笛』と『豊穣のスプーン』の四組が簡単に自己紹介をする。
ゴリゴリのマッチョ四名からなる『ザ・パワー』はその名の通りで、上半身裸で常に胸がピクピクと動かしやる気を漲らせている。
『銀月の縦笛』はリーダーのイケメン剣士に、大盾の大女と弓使いに、白いフードを深く被った魔導士を連れバランスのとれたチーム構成になっている。ただ、リーダー以外は女性で構成されハーレム感がバリバリに出ており、アイリーンがそわそわと自己紹介を見守る。
『豊穣のスプーン』は昨晩一緒に酒を酌み交わした少女と初老の男の二人であり、他の冒険者たちからも一目置かれているのか「豊穣が居れば大丈夫」だの「あれが盗賊キラーのスプーン」などと声が漏れ聞き耳を立てるクロ。
『草原の若葉』が自己紹介するとエルフェリーンとビスチェの人気はギルドや街であった通りで、「伝説のエルフコンビ」や「特効薬の話などが上がり」ドヤ顔をクロへと向けるビスチェと、胸を張り何度か頷くエルフェリーン。自身たちへの評価に納得しているのだろう。
「それでは潜入の得意な『豊穣のスプーン』に先行してもらい、エルフェリーンさまたちは回復が得意でしょうから捕らわれた貴族や騎士たちの解放と回復を、」
「ちょっと待って下さい! 僕らは解放と回復役で呼ばれたのですが」
「そうです! 私の回復では不服なのですか?」
『銀月の縦笛』のイケメンリーダーから待ったが掛かり、白いフードの女性も前に一歩出て抗議の声を上げる。
「不服なのなら申し訳ないが、エルフェリーンさまとビスチェさまが加わったのなら、より成功確率の上がる方を優先させるのは当たり前のことだ。それに今日はクロもいる事だしな、解放した者たちの護衛にはもってこいだろ」
ギルドマスターからニヤリと笑いあからさまにクロを睨みつけるイケメンリーダー。白いフードの魔導士も一緒に目線を強め、苦笑いを浮かべるクロ。
「クロがいれば問題ないわね! クロに護衛を任せるわ!」
「うんうん、クロが活躍できる場があるのは良いことだね! 僕もクロが護衛役に大賛成だよ!」
「確かのクロのシールドなら護衛に向いているな。お風呂にもなるシールドは便利で使い勝手が良いのだろう?」
ビスチェにエルフェリーンとラルフが擁護の声を上げ更に苦笑いが加速するクロ。
「若さがあって頼もしいがターベスト王国の王都冒険者ギルドマスターは確かな男だ。君たちが若手の中で抜きんでているのは知っているが、歴戦の冒険者の意見も耳を傾かせて欲しい」
上半身裸で胸をピクピクさせながらイケメンリーダーと白いフードの魔導士に向かいあい話す『ザ・パワー』のリーダーに数歩後ず去るのは仕方のない事だろう。
「それでは、これより捕らわれた者たちの救出に向かう! すべて斬り伏せて構わないが、ひとりぐらいは事情聴取できるように残して貰えると助かる!」
ギルドマスターの張り揚げた声にクロは眉を顰め、クロに対してライバル心を抱いたイケメンリーダーは敵視した瞳を向け、その関係を違った意味での危機感に取り鼻息を荒くするビスチェとアイリーン。
私も空気を読んでついて行った方がいいのかな……
若干忘れ去られているルビーはリュックから顔を出す白亜の頭を優しく撫でながら解放作戦へ参加するのだった。
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