料理の味と忙しい厨房
「適度に炙られたクジラ肉が美味しいわね」
「酸味でサッパリと食べられますぅ」
「これは梅酒よりも日本酒の方が合うな」
三女神が料理を口にすると教皇や大司教もカルパッチョを口にして表情を溶かし、聖騎士たちも遅れて口に入れる。
「うんうん、量が少ないから食べられるね~」
「うむ、クロなりに気を使った量なのじゃろう」
三女神や聖騎士たちの料理は普通に盛られ、エルフェリーンやアリル王女たちには小鉢で料理が提供されている。朝食を食べまだ二時間ほど経過し空腹感がないだろうとクロが量を少なく提供したのだ。
それでもアリル王女はお腹いっぱいフレンチトーストを食べたこともありカルパッチョに手を付けず隣に座り「量が少ないのだ……」とがっかりしていたキャロットの傍へと小鉢を押しつけると笑みを浮かべて口へ運び、アリル王女も笑み青浮かべる。
「この料理はマヨを付けて食べても美味しそうですね」
口元を拭いながら感想を口にするハミル王女はまだ食欲があるのかウキウキしながら次の料理を待ち、暇なアリル王女は席を立つと小雪がお座りしているアイリーンのテーブルに向け足を進め、小雪が向かって来るアリルに気が付くと尻尾を揺らし足を進める。
「わぷっ、小雪は大きくてとても可愛いです」
小雪の首に抱き付き向日葵のような笑顔を浮かべるアリル王女に、サワディルも微笑みを浮かべアイリーンも自然と笑みを浮かべる。
「アリルちゃんも可愛いかな~」
「アリルちゃんの笑顔はみんなを癒してくれますね~」
二人の会話に聖騎士たちも視線を向け優しい笑みを浮かべ、中には同じぐらいの子供がいるのか涙を浮かべる男の姿もある。
「こちらの料理は外側の紙を破り、特製のソースをかけお召し上がり下さい」
湯気を上げる白い和紙に包まれた新たな料理が登場し、女神ベステルは天使が説明するようにナイフを使い和紙を破るとバターと海鮮の香りが広がり、添えられているソースを掛けると柚子と醤油の香りが広がる。
「香りがとてもいいわね。エビに牡蠣にホタテと白身魚。下にはスライスされた玉ねぎが敷いてあるわ」
「甘みのある玉ねぎとぉ弾力のあるエビの食感が最高ですぅ」
「コクのあるバターと牡蠣の旨味に醤油が美味い。先ほどサッパリとした料理だったからか濃厚な旨味を感じるな」
三女神の口に合ったのか酒と共に料理を満足気に食べて感を言い合い、その姿に聖女タトーラは改めてこの料理を作っているクロの凄さを目と口で体験する。
「本当に素晴らしい料理です。封を開けた時のインパクトに放たれる香り、味はもちろんですが食感が違う具材をまとめるソースもとても美味しいです。五感全てを使い味わっているようです……」
「開ける時のドキドキした感じが楽しいですね」
聖女レイチェルも自然と笑みを浮かべ包焼きの感想を口にして聖女タトーラと視線を合わせ互いに微笑みを浮かべる。使徒ではないと確定したが、それ以上に敬うべき存在となったクロの料理を口に入れられる幸せを噛み締めているのか残さず口に入れる聖女たち。
教皇や大司教も自然と頬が緩み微笑みを浮かべながらワインを口にする。
「どの料理も初めて食べますがこれほどとは驚きです。クロさまが女神さまに料理を献上していると聞きましたが……素晴らしいです……」
「ふふふ、他にも揚げ物といったザクザクした食感の料理なども食べたことがありますが、あれもとても美味しかったです。クロさまの料理は美味しいのはもちろんですが、食べる者を考え料理されているので心が温かくなりますね」
大司教と教皇が感想を口にして互いに頷き合う。クロには手を出すなと言っていた教皇に対して積極的に関わろうとしていた大司教。その二人が微笑み頷き合う姿に板挟みにあっていた聖騎士たちは胸を撫で下ろしながら料理を平らげ酒を口にする。
「小雪はとっても可愛いです。ナデナデは好きですか?」
「わふっ」
「小雪は背中と首を撫でると喜びますよ~ほらほら、ここですよ~」
アイリーンも席を立ち小雪の首を撫で気持ち良さそうに目を細める小雪。アリル王女も真似をして背中を撫で尻尾の動きに合わせて首を左右に動かす。
「小雪も可愛いですがアリルちゃんも可愛いですね~ほらほら良い子ですね~」
「あはははは、アイリーンお姉ちゃんくすぐったいです」
アリルの首を優しく撫でくすぐったさに笑うアリル。そこへ小雪が突撃しキャッキャする二人と一匹。
そんな平和な空間とは違い、調理室では大忙しに手を動かすクロと料理の女神ソルティーラの姿があった。
「唐揚げは人気があるので多めに作りましょう。一口サイズにカットしたらフォークで刺して下味が入りやすいようにして下さい」
次に出すサラダ用のレタスや水菜をカットするクロ。指示を受けクジラ肉をカットする料理の女神ソルティーラ。
「主さま、七味たちに協力してもらってはどうでしょうか?」
忙しく動き回るクロに姿を現すヴァル。
「やっぱりお願いした方がいいか……」
ヴァルの助言を素直に聞き入れ女神の小部屋の入口を発生させ中に顔を入れるクロ。中では七味たちが話し合っているのか「ギギギギ」と声を上げ、クロが声を掛けるとぞろぞろと姿を現す。
「悪いが手伝ってくれ。一美から四美まではから揚げ用の肉にフォークで穴を開けてくれ。五美と六美は野菜のカット、七美はデザートのメロンのカットを頼む」
「ギギギギギ」
七味たちの鳴声が木霊し急いで作業に取り掛かろうとした所でヴァルが浄化魔法を掛け輝く七味たち。
「手洗いはこれで省けると」
「ああ、助かる。ヴァルもピーラーを使ってリンゴの皮を剥いてくれ」
「はっ! お任せ下さい」
作業を分担し効率を高め、急いで料理を仕上げるクロ。ヴァルも皮を剥きながら水切りしていた野菜に浄化魔法を掛けその水気を取り去りあっという間に完成するシーザーサラダ。クジラベーコンをカリカリに焼き風味と食感をプラスしたサラダを器に分け天使たちに頼み運ばれる。
「味もしみ込んでいると思うので、そろそろ揚げましょうか」
「はい、油も用意できています」
「ニ美と三美に四美はから揚げを頼む。五味はレモンを絞ってくれ。六美は大根おろしを頼む。一美はと七美はこのシーズニングスパイスを皿入れてくれ」
クロの指示に「ギギギギ」と応え動き出す七味たち。大鍋で温めた油にクジラ肉のカラアゲを入れ揚げ、レモンを絞り、大根おろしを用意する。シーズニングスパイスと呼ばれるミックススパイスには塩やハーブなどがブレンドされから揚げに付ければ味変になるだろう。他にもレモン汁とポン酢おろしを用意し提供する。
「クロさま、こちらのステーキはまだ焼かないのですか?」
「もう少しだけ待ってもらえますか。クジラのから揚げで時間は稼げると思うので、マイタケの酵素でできるだけ漬けて限界まで肉が柔らかくなった方が美味しいと思うので」
「前にも同じ方法で驚くほど柔らかくなりましたものね。とても楽しみです」
「クジラ肉に使うのは初めてですが大丈夫だと思いますよ。付け合わせには一緒に付けていたマイタケと茹でたアスパラにトマトをオーブンで焼いて添えましょうか」
七味たちのお陰で余裕ができた事もありメインのクジラステーキの付け合わせを増やすことを提案するクロ。料理の女神ソルティーラも頷き厨房をフル稼働で料理を完成させるのであった。
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