表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
568/669

クロという存在



「貴方達も早く座りなさい。立っていられると私が寛げないわ」


 女神ベステルが聖騎士たちに声を掛けると急ぎ席に着き、聖女二人と教皇に大司教も席に着く。


「このような席に鎧姿は無粋だな」


「そうですねぇ~何か適当な服に変えちゃいましょうか」


 聖騎士たちの重装備に眉間にしわを寄せる叡智の女神ウィキールと茶化す愛の女神フウリンに聖騎士たちはガチャガチャと鎧を鳴らし、女神ベステルが手を払う仕草をする。すると、重装備が一瞬にしてドレスやタキシードに変わりニヤリと微笑み、強制的に着替えさせられた聖騎士たちは自身の変化とまわりの変化に目を丸くしてフリーズする。


「これで少しは寛げるわね。その服は地上に変えると元に戻るから安心なさい」


「あ、あの、僕もドレス姿に変わったのですが……」


 聖騎士たち以外にも強制的にドレスアップされたシャロンが抗議の声を上げ、フリフリ多目で胸がモリモリになったドレス姿にアイリーンがうんうんと納得したのか首を縦に振り、愛の女神フウリンも満足げな笑みを浮かべる。


「うふふ、とてもお似合いです」


「タキシード姿も似合うけどシャロンはドレス姿も似合うから安心なさい」


「うむ、我らの姿が霞むが……仕方ないのじゃ……」


 メリリが微笑み、キュアーゼが妖艶な笑みを浮かべ、ロザリアも納得し、メルフェルンは一言「尊い……」とだけ言葉を残し満足気な表情でシャロンのドレス姿を見つめ続ける。


「なあ、俺らも天界に来て良かったのか?」


「さあ……場違いなのは理解しているが、クロが使徒であるという決定的な証拠になるな……」


 ヨシムナとライナーがこそこそと話しながら四人の女神を前にフリーズから回復し、他の聖騎士たちも現状を把握しながらも落ち着かない心を静めようと努力していると目の前に料理が運ばれてくる。


「クジラのベーコンを使った和え物です。容器の縁に付いているマスタードを付けると風味が変わりますのでお試し下さい」


 天使が小鉢を運びガラスのグラスが届けられ、テーブルにはウイスキーのボトルやワインに缶ビールが運び込まれる。


「飲み物は好きなものを選ぶと良いわ。この料理ならワインかビールが合うと思うわよ」


 驚きの中やんわりと開始される食事会にエルフェリーンはウイスキーを手に取ると指先に魔力を集めピンポン玉ほどの氷を作りグラスに入れ注ぎ、草原の若葉たちは各々好きな酒をグラスに入れ、アリルとハミルには愛の女神フウリンがオレンジジュースを注ぎ入れ渡す。


「昨日も少し貰ったけどウイスキーの香りは素晴らしいかな~白ワインも美味しかったけど炭酸で割ったハイボールは最高かな~」


 天界に初めて来たサワディルだったがその空気にすぐに慣れたのか、エルフェリーンの横でハイボールを作り口にする。


「レイチェルにタトーラはあまりお酒を飲まないが果実水にするか?」


「いえ、私も白ワインを頂きます」


「わ、私も同じのを……白ワイン?」


「白ワインはこの黄金に輝くワインです。私が以前にもここで飲ませていただきましたが芳純な香りと甘みは赤ワインよりも美味しいですよ」


 聖女レイチェルが白ワインの封を開けグラスに注ぎ入れ聖女タトーラへと渡し、自身のグラスにも注ぎ入れる。


「ありがとうございます……」


 先ほどどちらがクロの手を取るか競い合っていた二人だが圧倒的な上司である神という存在を前に聖女レイチェルが大人対応で場の空気を乱すまいと動き、聖女タトーラもまだ驚きの中で思考が鈍っているがレイチェルからの助け舟に乗り素直に感謝して喉を潤す。


「お酒はワインしか知りませんでしたが……喉が焼けるようですね……」


「氷を入れたり水で薄めたりしても飲む事もできますよ。炭酸水と呼ばれるシュワシュワとした水を入れても美味しくいただけます」


 大司教と教皇も聖女たちほどではないが場の空気を乱すことはなくウイスキーの飲み方を教え、和やかに食事会が進み始める。


「うまっ! クジラなんとか美味いぞ!」


「クジラベーコンだろ。甘みのある脂身にシャキシャキした野菜が確かに美味いな。あい、アイリーンの奴はいつもこんなに美味しい料理を食べているのかよ……」


 初めて食べるクジラベーコンの和え物を口にしたヨシムナ。ライナーもその味にアイリーンが毎日美味しい料理を食べているという事に安心感を覚えつつ視線を向けるとニヤニヤとした視線と合い、どちらも笑いを堪える。


「クロが料理できるとか知らなかった……俺と一緒の食事を不味そうに食べていたのはこれが原因だったか……言ってくれたら良かったのに……」


「それはお前が美味しい料理を食いたかっただけだろう」


「そりゃな……それにしても神さま方も美味そうに食べるよな……」


「あら、神だろうが人だろうが味覚は同じですわ。クロの料理はこの世界にはなかった新たな革新を起こした素晴らしい物ですわ。そう、この白薔薇の庭園のようにっ!」


 アイリーンから預かっていた白薔薇の庭園を引き抜きバラが舞い散るエフェクトに包まれる武具の女神フランベルジュ。本人の美しさもあり聖騎士の男たちは見惚れるが、三女神は冷めた視線を向け、エルフェリーンやビスチェにアイリーンも慣れたもので視線を向ける事もなく料理を口にして酒で流し込む。


「そうそう、教会連中に言っておくけど、クロは使徒じゃないわ。そこはよく覚えておきなさい。クロは私の友人であって使徒ではないわ」


 大司祭や聖女に聖騎士たちに向け放たれた言葉に再度フリーズする。


「クロ先輩は友達という枠なのですね~」


「そうね。それが一番しっくりくるわ」


 満足気な表情を浮かべる女神ベステル。


「そうかなぁ? クロは前に自分は神さまたちにたかられていると言っていたけど」 


「あら、クロはそんな事をいっているの……へぇ~~~私なりに色々と褒美を与え精霊王との契約も結んであげたのに……」


 エルフェリーンの言葉は事実でありクロからしたら料理とお酒を集られているという感覚で奉納している。そして、女神ベステルからしたら魔力が増える指輪やダークナイトをホーリーナイトに変え、更に進化させヴァルキリーへと進化させた事や、精霊王と縁を結ばせ他の精霊から守るための力を与えたのも事実である。


「せ、精霊王さまと契約までしているのかよ……クロはおとぎ話の勇者かよ……」


「勇者……勇者に巻き込まれた男が本物の勇者になるとはね……」


 ヨシムナとライナーが呆れながら口にしたのはこの世界で広く知られる物語で、勇者が精霊王と契約し邪神に立ち向かうというありふれた物だがその話のファンは多い。精霊信仰のあるこの世界では精霊王の名は伝説とされながらも知名度が高く、同時に勇者も召喚され戦いの旗頭としての知名度があり、両方が登場する物語の人気は自然と高くなるのだろう。


「クロさま……使徒さまでないとしても女神さまの友人で、精霊王さまと契約しておられる……これは使徒さま以上の存在です……」


 聖女タトーラの呟きに眉をピクリと反応させる女神ベステル。思惑的には使徒という役職ではクロが目立ちそれを嫌うと理解していたので少しでも目立たない様に誘導する心算が真逆になり、傍でお酒を飲む二柱へ視線を飛ばすが、愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールは視線をあからさまに避けてスクリュードライバーと梅酒を口にする。


「クジラを使ったカルパッチョです」


 天使が現れ新たな料理が登場すると咳払いをして「あら、美味しそうね」と話題を変える女神ベステルなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ