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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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教会へ天界へ



 メイドたちがキャッキャしながらフレンチトーストを食べ終えた一行は軽く食休みを取り馬車に乗り込む。行先は教会であり心底向かいたくないクロは馬車からの景色を見ながら現実逃避をして過ごし、到着するなりエルフェリーンが笑い出す。


「クロへの出迎えが王さま以上だね~」


「赤い絨毯が引いてありますよ……」


「聖騎士たちも正装です! 見て下さい! 聖剣があんなにも……」


 教会の入口には重装備の聖騎士たちがずらりと並び剣を胸元で携え、その奥には多くのシスターと司祭が膝を付いて頭を下げ、教皇と大司祭に聖女二人が頭を下げている。


「なんだろう……もう帰りたいです……」


 クロの漏らした言葉にエルフェリーンとビスチェが笑い、ついてきたハミルとアリルも肩を揺らす。


「私は早く行ってライナーさんとお話がしたいですけどね~ヨシムナさんと合わなくてもいいのですか?」


 ニヤニヤしながら話すアイリーンに顔を歪めるクロだったが、馬車のドアが開くとクロが一番に降りタイミングを合わせたように鳴る教会の鐘。


「ほらほら、僕には馬車の段差が危ないからね~手を貸しておくれよ」


 エルフェリーンの言葉に手を差し出しゆっくりと馬車を降り、次に降りようと顔を出したビスチェも当たり前のように手を差し出しクロが手を貸し同じように降りる。それをハミルやアリルとも繰り返し、自分は使徒というよりも執事なのでは? と小さな疑問が生まれる中、アイリーンの手を取りリードを握り小雪と一緒に降り立つ。


「これって放置したらずっと頭を下げ続けるのですか?」


 アイリーンにも小さな疑問が浮き上がり口にするとエルフェリーンとビスチェが笑い出し、ロザリアやグワラも肩を揺らす。


「うむ、それはあるやもしれんのじゃ」


「あははは、そんな意地悪する人はいないと思うけどね。ほらほら、クロを待っているのだから早く行ってあげるといいよ~」


 エルフェリーンに促され嫌々足を進めるクロ。赤い絨毯の上を歩き聖騎士たちの間を進み、膝を付き頭を下げる教皇や聖女たちを無視して歩き続けたらどうなるだろう? という疑問も脳裏に浮かんだが足を止める。


「あ、あの、先に寄付と飴を渡したいのですが……」


 いつもの出迎えとは違うがクロ的にはいつもと同じようにしたいという気持ちも込めそう口に出す。すると、顔見知りのシスターが立ち上がりクロに一礼し、手にしていた布の袋を受け取り深々と頭を下げる。


「いつもありがとうございます」


 顔を上げたシスターもいつもと違う雰囲気に呑まれているのか引き攣った笑みに膝を震わせ元の場所へと戻り、教皇と大司教が顔を上げる。


「クロさま、エルフェリーンさま方、ようこそ教会へ。寄付も有り難く使わせていただきます」


「使徒さま、どうか厚かましくも聞いていただきたい願いがありまして……」


 それなら聞きたくないと思いながらもクロは口を開く。


「聖騎士の皆さんやシスターさんたちが疲れるでしょうから先に解散にして、自分たちはお祈りを済ませますのでその後でいいですか?」


 クロなりに気を使いそう口にすると聖女二人が立ち上がり口を開く。


「でしたら私がご案内致します」


「二階の礼拝室へ向かいましょう」


 聖女二人からの申し出に嫌な予感を覚えつつも足を進めようとするクロ。すると聖女タトーラがクロの手を取ろうとし、聖女レイチェルも同じように空いている手を取ろうと動く。


「レイチェルさま、私がご案内致しますのでお控え下さい」


「いいえ、クロさまは私がご案内致しますのでタトーラは控えなさい」


 クロが小雪のリードを持っている事もあり空いている手をめぐり視線をぶつける聖女二人。それをニヤニヤしながら見ていたアイリーンはクロへ片手を出し「リードを預かりましょうか?」と口にし、聖女二人が一斉に振り返り顔を引き攣らせるクロ。


「別に聖女たちに案内されなくても僕たちは場所も知っているからね~ほら、クロ」


 エルフェリーンからの助け舟という名の小さな嫉妬に手を差し出し、その手を優しく握り足を進め、後をぴったりと付ける聖女二人に大きなため息を心の中で漏らすクロ。


「クロは聖女さまたちにも人気なのですね」


 先を進むクロを見つめ姉のハミルに話し掛けるアリル。


「メイドたちからの人気もありますが、教会からの支持が前よりも増しています。恐らくはマヨが関わっている可能性が高いかもしれません……」


「うむ、マヨもすくなからず関わっているかもしれんが、クロは死者のダンジョンを単独突破した英雄として聖王国は祀り上げたいのじゃろう。あわよくば聖女と婚約でもさせ教会の勢力に取り込もうと考えておるのじゃな」


「聖女さまがお嫁さんですか?」


「うむ、神々も認める料理を作るクロという存在に聖王国の連中も嗅ぎつけたのじゃろう」


「フレンチトーストは甘くて美味しかったです」


「うむうむ、我もそう思うのじゃ。蜂蜜も美味いがメイプルシロップなる甘味も香りが素晴らしかったのじゃ」


「私はマヨも合うと思います」


 足を進めながらアリルとハミルにロザリアの話を耳に入れるクロは、聖女と婚約云々という話で握られた手の力が増したことに気が付きながらも、結婚とかまだ考えられないよと思いながら足を進める。


「こ、これが天界へと通じる転移魔法陣ですか……」


 先を進むクロが二階にある貴族用の礼拝室へと入りいつもの様に輝きを放つ魔法陣に足を踏み入れその姿を消し、それに続き聖女二人も足を踏み入れアリルとハミルにロザリアや、小雪を連れたアイリーンにキャロットが白亜を抱きながら姿を消す。

 その後を聖騎士たちが続々と進み大司教は目を丸くしながらも優しく背中を教皇に押されながら進み足を踏み入れ、一瞬にして目の前の光景が変わったことにポカンと口を開け驚く。


「ここが天界……です……か……」


 溢れるほどの神気を感じながら震える声で呟く大司教。はじめて天界へやって来た聖騎士たちも同じように呆け、聖女二人は後光が差す女神ベステルに膝を付き手を合わせ、アリルとハミルは愛の女神フウリンに挨拶をして抱き締められ、サワディルはビスチェの腰に抱き付きながら声を漏らす。


「い、勢いで来ちゃったけど、神さまがいるかな。いるかな。どどど、どうしようかな」


「どうしようって、サワディルは神さま相手に何かしたいの?」


「何もしないよ!? 何もしないし、何もできないかな!?」


「はぁ、サワディルはクロに抱き付けばいいのよ。私は暑苦しいのが嫌なのよ……」


 嫌といいながらもされるがままで、ビスチェの腰に抱きつくサワディルをそれなりに気遣っているのだろう。


「ああ、どうします? 自分も勢いで来ましたが、昼食にはまだ早いですし、この後は薬草採取の依頼もありますから飲酒はダメですよ」


 その言葉に三女神と手を握るエルフェリーンの視線が一斉にクロへ向き、遅れてやってきた料理の武具の女神フランベルジュはアイリーンの下へと向かい白薔薇の庭園を受け取り確認する。


「何を言うかと思えば……はぁ……クロは分かってないわね……」


 呆れたように口を開く女神ベステル。その横で頭を縦に振る愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキール。


「僕も今の発言はダメだと思うぜ~薬草採取はするとしても、お酒を飲んで仲を深めるのも大切な事だぜ~」


「まったくだわ。帰る前に私が状態異常を解除してあげるから好きなだけ飲むと良いわ。おつまみはフレンチトーストとクジラ肉を使った料理を所望するわ」


 女神ベステルとエルフェリーンの言葉にこの二人は親子だったと思いながらも、遅れてやってきた料理の女神ソルティーラと共に調理室へと姿を消すクロなのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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