メイド戦争 フレンチトースト編
翌朝はクロが事前に用意してきたフレンチトーストとサラダにスープで朝食を済ませご機嫌のハミルとアリル王女。王妃たちもフレンチトーストの味に満足したのかサーキットの屋台料理に加えたいと懇願したほどである。
「それでクロは何で教会へ行くのかな? 気になるかな~」
「教会へは王都へ来る度に寄付へ行っていますね。今回は色々あって聖王国から聖女を随行させたいと言われて……」
顔が曇るクロに空気を読まないサワディルからの疑問が飛ぶ。
「聖女さまが? 何かやらかしたの?」
首を左右に振りながら更に追撃を掛けるサワディル。
「えっと、死者のダンジョンを不可抗力で突破したのが原因でしょうか?」
「はあっ!? クロが冒険者だったのは知っていたけど、流行り病の特効薬に効く苔採取ぐらいだと思っていたかな~」
「クロは死者のダンジョンを単独突破した英雄よ! どこぞのハグ魔よりも優秀なのは確かね!」
ドヤ顔を決めながら話すビスチェの頬に生クリームが付いているが、そこは触れないでおこうと思うクロ。
「他にも神さまと仲が良くて料理を振舞ったりしています」
「今日食べた料理も美味しかったかな~私と一緒に暮らした時は一度も料理をしてくれなかったのは何故かな~お姉ちゃんは少し悲しいかな~」
「あの頃はそれよりも覚えることが多かったからな。薬草の知識を詰め込むのに精一杯だったし、料理はスレイン師匠と姉弟子が……スレインさまのスープはまた食べたいな……」
「スレインのスープは僕も食べたいぜ~二日酔いに食べるとアッサリとしながらも美味しいんだ。骨付きの鳥が入ってほろほろと崩れて美味しいぜ~」
食後のお茶の飲みながらクロがこれから教会へ向かう理由と、脱線しながら錬金工房草原の若葉支店の話をしながらまったりとした時間を過ごす一行。国王とダリル王子は食べ終えるとエルフェリーンに断りを入れ退出し、クロは余ったフレンチトーストをアイテムボックスから取り出すとメイド長へ勧め、メイドたちからお礼の言葉を受け取る。
「フレンチトーストも美味しかったのですがハニートーストもまた食べたいです。サクサクふんわりのパンに大きなアイスとチョコに蜂蜜を掛け、ナイフを入れて溶けたアイスと絡めると幸せな気分になれます」
錬金工房草原の若葉へ呪いの解呪に来た際に食べたハニートーストを覚えていたのだろう。それを聞いたアリル王女は目を輝かせメイドたちも期待した瞳を向ける。
「今日は用意がありませんので、今度来た時にでもご馳走しますね」
「はい、楽しみです!」
アリル王女の言葉にメイドたちが頷きジト目を向けるビスチェとサワディル。
「クロがメイドたちにモテようと必死だわ……」
「お姉ちゃんもそう見えるかな~かな~」
二人からこぼれ落ちる言葉にそんな心算はないと思いながらも、メイドさんたちが味方になれば危険な貴族の行動や自分たちに不利になる情報などを流してくれるだろうという打算もあり、何とも言えない表情へと変わるクロ。
「うふふ、クロさまは皆さまの事を考えているだけです。メイドたちからの評価が上がれば自然と味方に付いてくれますし、悪い噂も否定なさって下さいます。それにメイドたちに紛れている強者も数名いるようですし……」
明らかに人がいない数ヵ所の場所に視線を向けるメリリ。するとカーテンの裏や暖炉の近くに天井に飾ってある王家の紋章入りの盾の裏などから姿を現すメイドたち。
「流石は『双月』です……我々の気配を感じ取るだけではなく場所まで見破るとは恐れ入ります」
「うふふ、そう言いながらもフレンチトーストが食べたかっただけですよね?」
微笑みを浮かべるメリリ。このやり取りの最中にもメイド長はフレンチトーストをナイフで分けており、自分たちの分け前が減った事に肩を落とすメイドたち。
「まだ余分にありますので出しましょうか?」
見かねたクロが気を使うと影の者たちは素早く動きアイテムボックスから取り出したフレンチトーストを積み上げた大皿を受け取り、メイドたちが声を上げるなかその姿を消し絶叫がサロン内に木霊する。
「影の者たちめっ!」
「私のフレンチトーストがっ!」
「これは影との全面戦争も視野に入れるべきでしょうか……」
メリリと話していた影メイドへと視線を向けるがその姿はなく、メイド長はフレンチトーストをカットしていたナイフを構え気配を探るように視線を飛ばし部屋の一角に向け放ち、不自然に弾かれるナイフを視認し一気に間合いを詰めるメイド長。
「うふふ、気配を消したのは素晴らしいですがナイフを弾いては居場所がすぐに特定されますよ」
瞬時に移動したメイド長は視線を下に向けつつ相手の潜伏場所を絨毯に残る凹みで判断し、間合いを詰めながらも手にしていたトレーを構える。
「はっ!」
気合の入った掛け声でトレーを放つがそのトレーは弓なりにゆっくりと前方へ向かい誰もがそのトレーを見つめる中、衝撃音が三つ重なり姿を現す影メイド。一つの衝撃音は弓なりに放たれたトレーが壁にぶつかる音で、もうひとつは影メイドの腹部へと放たれたメイド長からの一撃の音で、最後の衝撃音は潜伏していた影メイドを近衛メイドがトレーで叩き昏倒させながらも、フレンチトーストが山積みにされた皿を守った音である。
「上手い作戦なのじゃ。投げたトレーに視線が行くのを利用し、絨毯の足音から影の者を特定したのじゃな」
「ああやって投げたら視線が向くわ」
「その隙にメイド長が一人とメイドたちがフレンチトーストを持った影の者を特定したのですね~何だか凄いものを見た気がします……」
ロザリアの説明に食い意地とは一般メイドすらも戦闘民族に変えるのだと知ったクロは、出し惜しみせずにアイテムボックス内にあるフレンチトーストを更に追加でテーブルに置きエルフェリーンの近くへと移動しソファーに腰を下ろす。
「まあ、こちらも頂いて宜しいのでしょうか?」
両手を合わせ喜ぶメイド長に「皆さんで分けて下さい」とだけ言葉を返し、アイテムボックスからペットボトル入りのお茶を取り出して口にする。
「盗もうとした影には少量にするとして、こちらの蜂蜜とチョコをかけないとですね」
「ああ、香りからもう美味しい気がします」
「クロさまに感謝です」
給仕をしていた通常メイドとぐったりとする影メイドでフレンチトーストの枚数に差があるが分配したメイド長はたっぷりと蜂蜜を掛け口に運び表情を溶かし、影メイドたちもぐったりとしながらも口へ運び表情を溶かす。
「いや~女性は強いですね~メイドという職業は最強かもしれませんね~」
「うふふ、メイドというか、女性は甘味の前では強くなるのですよ。クロさまもご注意下さいね」
微笑みを浮かべたメリリの言葉に、次に来る時に持ってくると約束したハニートーストの数を予定よりも大幅に多く用意しようと思うクロなのであった。
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