姉弟子と薬草不足
「ふ~ん、弟弟子が知らない所で神さまとお友達になったのが原因で、ダンジョンから色々な調味料や料理が産出して薬草の依頼を受けてくれなくなったのかな~ふむふむ……これは罰としてハグを要求してもいい案件かな~」
ニヤニヤとしながら手をワキワキさせ近づくサワディル。
「ハグをするならアイリーンにして下さいよ。ああ、シャロンは女性恐怖症だからハグはなしでお願いしますね」
「むぅ~久しぶりに弟とハグができると思ったのに~アイリーンちゃん、カワウィィィからハグゥ~」
両手を広げアイリーンに飛び掛かりギュッとハグするサワディル。アイリーンは抵抗することなくハグを受け入れる。
「サワディル先輩はハグする癖があって面倒臭い人だからみんな注意な。可愛い子や年下なら全てが妹か弟に見える変態だから……はぁ……」
クロが異世界へ転移し死者のダンジョンを単独突破しエルフェリーンに拾われてすぐの頃、三週間ほど王都の錬金工房で過ごし、こちらの常識や錬金とはどういうものかという基本的な事を教わったのである。その際に身分証となる冒険者ギルド証を新たに作ったり、こちらで生活する服を買ったりと面倒を見たのがサワディルで、弟ができたと喜んだほどである。
「アイリーンちゃんはカワウィィィかな~ハグも受け入れてくれてお姉さんは嬉しいかな~」
アイリーンに頬ずりしながらハグの感触を楽しむサワディル。
「錬金術師さまは変わった方が多く感じるのは私だけでしょうか……」
猫耳受付嬢がぽつりと漏らした言葉にクロはエルフェリーンにビスチェと目の前でハグをするサワディルを見つめ確かにと思いながらも口を開く。
「スレインさまは常識人だと思いますよ」
「錬金工房『草原の若葉』支部の店長さまですね。あの御方は皆に慕われていましたね。大進行の際も大変活躍されましたし、流行り病の時には多くの方を治療してまわる姿は聖女のようだと噂になりました」
サワディルの上司にあたるスレインは錬金工房草原の若葉支部を任される錬金術師でありその腕はエルフェリーンが認めるほどの実力者である。サワディルの師としてポーション作り流行り病の際にはエルフェリーンと協力して特効薬を作り、その鎮圧に尽力した影の立役者として国王も敬意を払う人物である。
「私たちも一度挨拶に行った方がいいかもしれませんね~」
「そうだな。明日は教会へ顔を出すから、その前にスレインさまに挨拶に行くか」
「クロさんが常識人だという人なら会ってみたいです」
「普通のお婆ちゃんだぞ。期待しても美味しいお茶と手作りのドライフルーツを出してくれるぐらいで」
「今年も木苺のドライフルーツはたっぷり作ったかな~腰が痛くなるまで頑張ったかな~って、薬草採取……どうしよう……」
話の流れから薬草不足を思い出して肩を落とすサワディル。肩を落としながらもハグし続けるサワディルに流石のアイリーンも物理的に熱くなったのか口を開く。
「そろそろ熱いので……」
「うん? お姉ちゃんのハグの熱意が伝わり過ぎたのかな~ごめんごめん。冷めたらまたハグしてほしいかな~」
そう口にしながらアイリーンを手放し、違うターゲットを見つめロックオンするサワディル。ロックオンされた猫耳受付嬢は食べ終わった事もあり素早く後退して受付カウンターを飛び越え距離を取る。
「姉弟子もそれぐらいにして下さいね。冒険者ギルドの受付嬢たちに嫌われたら依頼を受けてもらえなくなりますからね」
「ぶぅぅぅぅ、あのお耳はハグすべきと私の魂が訴えてるかな~」
「これを上げますから代わりにして下さい」
大きな猫のぬいぐるみをアイテムボックスから取り出すと目を輝かせて抱き付くサワディル。
「むふぅ~素晴らしい抱き心地かな~私は立派になった弟がいて良かったかな~」
「たまに弟子を忘れないで下さいよ。本当の弟だと思われたら自分に苦情がきそうで怖いです……」
「私に取ってはクロもビスチェもアイリーンも弟と妹かな~それで明日は一緒に薬草採取だっけ?」
「それが手っ取り早いかもしれませんね。ポーション不足は冒険者にも問題がありそうですし、値段があがったら新人冒険者たちには厳しいでしょうから……」
「こちらとしてもそうして貰えると助かる。が、何か手を打たないとだな……」
ギルドマスターが腕組みをしながら渋い顔を更に渋くし、クロも食べ終わった料理箱などを片付け手持ちにあるビスチェが育てた薬草をアイテムボックスから取り出してテーブルに広げる。
「今はこれだけありますが」
そう口にしながらスーパーに売っているホウレンソウ5袋ほどの薬草の束をテーブルに積み上げ、サワディルは一度それを見ながらも猫のぬいぐるみに顔を埋める。
「ゴリゴリしたくないかな~ポーション作り面倒臭いかな~このままハグして寝たいかな~」
猫のぬいぐるみのお腹へと心の声を叫び、ジト目を向けるクロ。
「スレイン師匠にチクりますよ……」
ぼそりと呟く声に顔を上げクロへ涙目を向けるサワディル。
「私の心の声を拾うのはズルくないかな~」
「心の声なら聞こえないようにして下さい……はぁ……これだからサワディル先輩の相手は疲れるんですよ……」
「うううう、弟弟子の対応が酷い……アイリーンちゃ~ん、お姉ちゃんを癒してほしいかな~」
アイリーンへ抱き付こうと両手を広げ襲い掛かるサワディル。アイリーンは素早く糸を飛ばして拾い上げると背を向けた一美を盾に抱き付かせる。
「うんうん、この鉄みたいに冷たい抱き心地が癖になるかな~アイリーンちゃんは抱いてて飽きない……って、一美ちゃんじゃない!? これはこれでハグのし甲斐があるかな~」
一美のお尻に頬ずりをしながら恍惚な表情を浮かべるサワディル。
「姉弟子は抱き締められるのなら何でもいい人だから……」
呆れながら口にするクロ。一美は特に嫌がる事もなくサワディルに抱かれ、差し出したアイリーンは少しの罪悪感を覚えながらもヤベー奴だと理解する。
「薬草採取はこの辺りだと何処でするのかしら?」
会話を戻し明日の薬草採取の場所を聞くキュアーゼ。
「それなら地図があります。マスターお願いします」
受付から猫耳受付嬢が地図を取り出しギルドマスターに手を伸ばして渡し、受け取ったそれをテーブルに広げるギルドマスター。地図は大雑把に書かれた物でターベスト王国の王都の城壁をまるで書き、そこから続く平原の先に森と書かれた楕円の近くにバツ印があり薬草の絵が記載されている。他にも数ヵ所採取場所があるのかバツ印が記載されている。
「すぐ近くに群生地があるのならダンジョンに入れない子供たちのお小遣い稼ぎになるんじゃない?」
「それはそうだが、森の近くは狼もでるからな。冒険者を雇って薬草採取では割に合わないし、子供は郊外の畑の手伝いなどもあるからな。逆に子供たちを雇って冒険者が薬草採取をすれば多少は儲けが出そうだが……」
「どちらにしても薬草不足は問題ですね……」
ギルドマスターとシャロンが渋い顔を浮かべクロも何か案がないか思案していると、ドアベルがホールに響きそのすぐ後に絹を切り裂く悲鳴が上がり現れた女性はその場で腰から砕けるように倒れ、ギルドマスターは慌てて走りクロは七味たちを女神の小部屋へと誘導するのであった。
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