冒険者ギルドで七味たちの報告を
王家の馬車に乗り冒険者ギルドに辿り着き中へ入るとガラリとしており、視線の合った猫耳の受付嬢の微笑みに軽く会釈をするクロたち。
「昼は依頼に動いているとしても、ここまで冒険者がいないのは珍しいのじゃ」
「収穫祭に来た時を思い出しますね~」
「あの時もこんな感じで受付の人だけだったよな」
広い冒険者ギルド内には受付嬢一人と物販ブースに一人いるだけで冒険者の姿もなく自分たちの足音だけが響き、辿り着いた受付では猫耳をピクピクとさせている受付嬢が口を開く。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
話し相手が来たのが嬉しいのか尻尾がゆっくりと左右に揺れ、クロは女神の小部屋の入口を出現させわらわらと出てくる七味たち。
「ひっ!?」
微笑みから小さな悲鳴を上げる受付嬢。
「この子たちが進化したのでその報告に来ました~いい子たちなので大丈夫ですからね~」
アイリーンの言葉に頭を立てに振る猫耳受付嬢。
「ギギギギギ」
サイズ感は違っても片手を上げて挨拶をする七味たちに顔を引き攣らせつつも書類を取り出す受付嬢は羽ペンを持って口を開く。
「え、えっと、アイリーンさまがテイムされている七味さんたちですよね……」
「そうですね~前はみんなこの子たちと同じだったのですが、一美がプリンセススパイダーに、二美がホーリースパイダーで、五美がアシダカクモ。六美がダークスパイダーで、七美がファントムスパイダーになりました。三美と四美は伸びしろがあるので期待して下さい」
アイリーンの説明を聞きながら書類に種族名を記入する受付嬢。物販エリアにいたギルド職員は身を隠しながらこっそりとこちらの様子を窺っている。
「前に連れてきた時も驚きましたが進化なさったのですね……」
(お手数掛けます)
脳内に響く声に一瞬驚くも、前にもあったなぁ~と思い出し、念話を送って来た片手を振る一美に視線を向け微笑む。
「『草原の若葉』の皆さまは相変わらずというか、驚きに満ちていますね……」
「驚かせるつもりはなかったのですが……」
「私は前にも七味さんたちの受付もしましたからこの程度の驚きで済ませられたのです! あっちの物販を担当している子なんて隠れているじゃないですか! テイムしてあっても魔物は見た目が怖いのですからね! それも進化したとか……
ダークスパイダーはダンジョンの死神と呼ばれ気が付かずに命を奪われているような魔物ですからね! ファントムスパイダーとか聞いたこともないですし……はぁ……これは上司に報告案件ですよ……はぁ……これじゃ、昼食を食べる時間もなさそうです……」
ガックリと肩を落とす猫耳受付嬢。
「うむ、それは申し訳ない事をしたのじゃ……じゃが、それにしても冒険者が少ないが何かあったのかの?」
クロたちが冒険者ギルドを訪れ十分ほど経過したが新たに入って来る者はおらずロザリアが気になり口を開く。
「冒険者の皆さんは挙ってダンジョンに向かっているからです。最近のダンジョンからは醤油や味噌などといった調味料や料理箱と呼ばれる新たな宝が現れ、その価値と需要が高まっているのです。こちらにも依頼があるのですがダンジョンからの宝の方が金額的にも割高で……」
掲示板には多くの依頼が張られているが、冒険者が皆でダンジョンに潜っている現状ではその枚数が減ることはなく大きなため息を吐く猫耳受付嬢。
「ダンジョンが賑わっている事もあって、こちらのギルドから多くの職員が増援に向かっており、私一人の受付で」
ぐうぅとお腹が叫びを上げて頬を染める猫耳受付嬢。
「それってクロ先輩が原因ですね~ダンジョン神さまに調味料をお願いしたしわ寄せがきてますね~」
「ダンジョンシン?」
お腹を押さえる猫耳受付嬢が首を傾げ、クロは顔を引き攣らせる。
「そ、それはあるかもしれないが……」
「試作で貰った料理箱がまだあるのなら、それをご馳走したらどうですか? 受付嬢さんとかはダンジョンに潜らないだろうから一生食べる機会とかもないと思いますよ~」
アイリーンが揶揄うように口にし、クロはアイテムボックスを確認し目の前に現れる宝箱。それを視界に入れた猫耳受付嬢は目を丸くし、宝箱とクロへ視線を行ったり来たりさせる。
「もし良かったら先ほど話題に出た料理箱を食べて見ますか?」
クロの言葉にお腹を押さえていた猫耳受付嬢がカウンターと颯爽と飛び越え大きなお腹の音を鳴らし、近くのテーブルに料理箱を移動させるクロ。
「蓋を開けると中には説明があって――――」
料理箱の説明をしながら牛タンを焼き肉の焼ける香りがギルド内に広がり隠れていた物販エリアのギルド職員が顔を出し、アイリーンが手招きをすると恐る恐る現れ網の上でこんがりと焼けた牛タンを皿に取り二人に渡すクロ。
「これは焼き肉の料理箱でタレとレモン塩の二種類で焼いたお肉が食べられます。料理箱には結界を張る機能があって蓋を開くと発動するのでダンジョン内でも安全に食べられるそうですよ」
「あむっ……これは柔らかくて美味しいですね。果実の酸味が肉の油をさっぱりとさせて食べやすいです」
「美味しいです! 料理箱は冒険者しか食べられないと聞いていたのに、地上へ持ち出せるのですね!」
「はっ!? そういえばギルドマスターがそんな事いっていましたね……屈強な冒険者が五人掛かりでも持ち上げられなかったと……あむあむ……」
冒険者ギルドが主催で料理箱の調査が行われどうにかしてダンジョンの外に持ち出せないかと試行錯誤したが無理で、ギルドマスターとその依頼を受けた冒険者が料理箱を口にし、味の感想を聞かされた受付嬢たちが羨ましがったのである。その料理箱が目の前にあり口にしている事に疑問を持つのは仕方のない事だろう。
「見ていると食べたくなるわねぇ~」
「うむ、ブランデーとも相性が良いのじゃ」
「うふふ、タンも美味しいのですがカルビやホルモンも美味しいですね」
キュアーゼとロザリアにメリリから視線を向けられクロはアイテムボックスから以前に魔力創造したスーパーに売っているカルビやロースにウインナーを取り出して塩コショウをして網に乗せる。
「うふふ、少し煙いですね~窓を開けますね~」
メリリが動き換気をし、ロザリアとキュアーゼはブランデーをカップに入れ、シャロンは受付嬢たちへクロがアイテムボックスから冷たいお茶をカップに入れて渡し、アイリーンは小皿に焼き肉のたれを入れロザリアたちに配る。
「そろそろ大丈夫ですよ。こっちがカルビで大きい方がロースですね。ウインナーは肉汁が飛ぶので注意して下さいね」
一斉に手を出す乙女たち。猫耳受付嬢はフォークを使いウインナーを口に入れハフハフと熱々の肉汁に悶絶し、ロザリアとキュアーゼはロースをタレに付け食べブランデーと交互に口にする。
「こちらのカルビというお肉も肉汁たっぷりで美味しいです!」
「ううう、こんなに熱いとは聞いてません! ごくごく……」
ウインナーの熱さに悶絶していた猫耳受付嬢は冷たいお茶で舌を冷やしていると階段を降りる音が耳に入り視線を向けると、ロマンスグレーのギルドマスターが焼き肉の香ばしい匂いに引き寄せられるように現れ自然な動きでフォークを手にして肉を口に運ぶ。
「美味いな……で、クロはどうやって料理箱をダンジョンから持ち出したのか聞いても?」
片眉を上げるギルドマスターにクロは愛想笑いを浮かべるのであった。
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