決め手はソース
「どの料理もこの黒いソースが決めてなのですね」
「果実を砂糖でコーティングするだけでパリパリとした食感になるとは……」
「豆を砂糖で煮るという発想に驚く……安価な豆を高価な砂糖を使い煮るとは……」
ターベスト王国の城に仕えるコックたちが七味たちの作る屋台料理に驚き、その作り方を見ながらああだこうだと話し合う。
「講釈はどうでもいいのです。再現可能なのですか?」
「果実を使った砂糖菓子と今川焼と呼ばれるアンコを使った菓子はできそうですが……」
「焼きそばにお好み焼きにタコ焼きといったものは黒いソースが味の決め手となっており、昨今ダンジョンから産出されるソースとは近い味なのですが違うもの……再現は難しいかと……」
コックたちが悔しそうな表情を浮かべ王妃リゼザベールへ首を横に振る。
「ああ、それならダナジョン神さまにお願いして、お好み焼き用のソースと焼きそばやタコ焼きに使えるソースも宝箱から出るようにお願いしてみますね」
「はあっ!?」
クロの言葉に驚きの声が上がりコックたちの視線が集まるなか、王妃リゼザベールは満面の笑みを浮かべ国王も数度頷く。
「ええ、宜しくお願い致しますわ。ソースがあれば再現できますわね」
「そ、それは可能でしょうが……」
「ダンジョン神さまとは……」
クロから王妃リゼザベールへ視線を向けながら疑問を口にするコックたち。
「それについては深く追求するのはおやめなさい。ダンジョンから産出するようになれば問題ないということで、この話は終わります。それでいいですね」
「はっ! あ、あの、参考までにこれらのソースを譲って頂くという訳には参りませんか?」
「それなら少し多めに用意しておきますね」
そう口にしながらアイテムボックスから段ボール箱に入れられた各種ソースを取り出しコックたちの前に置と、クロは段ボールにこの世界の共通語で何に使うソースかをマジックで書き込む。
「うむ、クロよ、礼を言う。買い取り額はいか程になるだろうか?」
「そうですね。すべて合わせて銅貨百五十枚ぐらいですかね?」
日本円にして一万五千円程である。
「それは安すぎではないか?」
「そうですかね? なあ、アイリーンはどう思う?」
話を振られたアイリーンは口に入れていた焼きそばを飲み込み青のりの付いた口を開く。
「業務用の六本入りだったらひと箱五千円……そうですね~クロ先輩への感謝も込めて銀貨二枚にするとかどうですか?」
「そのぐらいが妥当なのかもな」
日本円にして二万円程である。
「それでも十分に安いと思うが……では、レシピも含め金貨三枚と銀貨二枚を用意しよう。ああ、りんご飴や今川焼などのレシピ代も含め金貨10枚ほど支払おう」
銅貨百枚で銀貨一枚に相当し、銀貨百枚で金貨一枚に相当し、金貨十枚は日本円にして百万円である。
「それだと貰い過ぎだと思うのですが……」
「いや、レシピの値段としたら安く叩かれたと思うぜ~でも、この料理はレースを見に来た客に売るのだろう?」
エルフェリーンが助け船を出し王妃リゼザベールは静かに頷く。
「その心算ですわ。レースの観戦を楽しみつつも新たな味で貴族と市民を呼び込もうと思います。屋台の利益の5%をクロ殿にお支払いいたしますわ」
エルフェリーンから安く叩かれたと言われた時には青い顔をしていた国王だったが、王妃からの提案で永続的に支払われる5%という屋台の利益にエルフェリーンが微笑みホッと胸を撫で下ろす。
「それなら問題ないね~どれ程の金額になるかわからないけど永続的にクロが得をするのなら問題ないぜ~」
「いやいや、自分はそんなにお金に困ってないのですが……」
「それでも画期的なレシピにはその対価が必要ですわ。そうでなければ今後、他のレシピを開発した者も利益が貰えずに苦しむことになります」
「うむ、レシピとはそれだけの価値があるのだよ。クロ殿には美味い酒の礼もあるのだ。受け取って欲しい」
満面の笑みを浮かべる王妃リゼザベールと髭をツマミながら話す国王に、クロは渋々といった表情を浮かべ、宰相がメイドへ指示を出し運ばれてくる金貨と書類。
「こちらが契約書と金貨十枚になります。こちらにサインをお願い致します」
契約書を簡単に説明されサインを書き入れ、金貨を受け取りアイテムボックスに入れるクロ。
「クロ先輩は一瞬にしてお金持ちになりましたね~何を奢ってもらおうか悩みますね~」
「お金持ちって……それよりも七味たちを連れて冒険者ギルドに行かないとだろ」
「うっかりしていました。それが今回王都へ来た目的でしたね~七味たちも適当な所で切り上げて集合ですよ~」
屋台で料理をしていた七味たちがその場を離れると調理を見学していたコックたちもクロの下へと集まり一斉に頭を下げる。
「クロ殿、どうか我らにあの屋台を引き継がせてほしい。七味殿たちが戻って来るまでで構わないのであの場を借りて調理させてほしい」
「我らは七味殿たちの調理する姿を見てその方法を学習させてもらった。今ある材料だけでも作られてはもらえないだろうか」
五名ほどのコックが頭を下げる姿にクロはアイテムボックスから食材を取り出して積み上げ口を開く。
「えっと、それは構いませんので先ほどから城から顔を出している皆さまもお呼びして料理を配ってはどうですか? 食材はまだまだ用意がありますので」
屋台に使っていた食材を見たコックたちは確りと頷きお礼を言うと屋台へ走り出し調理をはじめ、国王はその姿に満足気に頷き、エルフェリーンも嬉しそうにウイスキーを口にする。
「師匠……昼食の後は冒険者ギルドに行くといったのに随分と飲んで……」
「私たちだけで行きます? シャロンくんとキュアーゼさんも飲んでいませんし、一緒に行きますか?」
近くにいたシャロンとキュアーゼに声を掛けるアイリーン。
「はい、街中を歩くのは好きですからご一緒します」
「なら、シャロンの護衛をしないとね~ふふ、メルフェルンを酔い潰して正解だったわ」
妖艶な笑みを浮かべブランデーのグラスを持ったまま椅子に座り舟を漕ぐメルフェルン。キュアーゼが飲ませ寝落ちするまで飲ませたのだろう。
「ビスチェはどうする?」
「街中は臭いから私も師匠と一緒に待っているわ。七味たちは冒険者から絡まれても縛るだけにしなさいよ。命を奪うと仲間がわらわらでてきて面倒な事になるわ」
「ギギギギ」
ビスチェの忠告に素直な返事をする七味たち。
「そうなる前に女神の小部屋の入口を出すから避難しような。白亜とキャロットは……寝てるな……」
中庭の木陰で白亜と寄り添い眠るキャロットとそれを見てワインを口にするグワラ。グワラはクロの視線に気が付きこの後の事を聞いていたのか静かに頷き、この二人の面倒をお任せ下さい、とでも今の会釈と瞳で伝えたのだろう。
「ならこの四人だな」
「うふふ、私も御一緒しますね~猫耳を付けた私なら『双月』だとバレませんし~」
ご機嫌でくるりとターンするメリリにそうだと良いがと思いながらも、最悪は七味たちと一緒に女神の小部屋へ入ってもらおうと決意するクロ。
「我も同行するのじゃ。冒険者ギルドに顔を出さないと情報が得られんからの」
ロザリアも立ち上がり六名で冒険者ギルドへ七味たちの進化を報告に向かうのであった。
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