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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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屋台と七味たち



 見学をしていると鐘の音が響き正午を知らせ昼休憩になり男たちが一斉に会場の外へと向かう。多くの労働者たちはこの時間に昼食を屋台などで食べ休憩になり、サーキット会場造りをする男たちも見張りの数名を残して移動を開始する。


「では、私たちも戻りましょうか」


 未完成の会場の見学とルビーの新作レーシングカートを見学した王妃リゼザベールからの言葉に頷き足を進める一行。試走する予定であったがどのコースにも工具や資材が積み上がっており走ることはできず見学だけで終わらせたのである。


「昼食はどうしましょうか?」


「たまには屋台でもいいですね~」


「屋台ですか!? それは楽しみです!」


 クロが皆に質問し、アイリーンが屋台を適当に提案し、それを喜ぶアリル王女。


「それは楽しみだわ」


「私も屋台の料理は食べたことがないので楽しみです」


 喜ぶアリル王女を止めるのが王妃の役目だろうと思っていたが、王妃リゼザベールも屋台という意見を喜び、ハミル王女も常に持っているオシャレバッグからマイマヨを取り出し笑みを浮かべる。


「あ、あの、クロさま、ちょっと宜しいでしょうか……」


 長い渡り廊下を進みながらクロを呼び止めるメイド長。その表情はあまり明るくなくこれから話すだろう言葉を先に理解したクロは脳内でアイテムボックスに入れてある食材を思い出しながら屋台料理を考える。


「あれですよね。王妃さま方が街中で食べ歩くのは問題があるとかですよね?」


「その通りでございます。服装を地味にしたとしても溢れ出る気品やオーラで……それに加えて王妃さまが提案したレーシングカートの事業などもあり、今王妃さまに何かあるとそれこそ一大事です。聖王国からの使者も街に来ておりますので……」


「屋台料理を自分が作りますので火を使っても問題のない場所へ誘導して下さい。ああ、それとテーブルや椅子もお願いします」


「それでしたらお任せ下さい。近衛騎士たちに手伝わせます。場所は中庭の隅に致しましょう。影たちもいいですね」


「うおっ!?」


 メイド長の言葉に姿を現す一人のメイドはその場で片膝を付く。先ほどまではクロとメイド長以外は先に進んでおり急に姿を現したメイドに驚くクロ。


「驚かせて申し訳ありません。この者は王家に使え影と呼ばれる隠密行動のプロ集団のトップです。普段はメイドや騎士に隠れ国王陛下や王妃さま方の警護に当たっております。以前もアリル王女様の専属メイドに紛れ天界へ向かった者です」


 スッと立ち上がりカーテシーで挨拶をする影メイドにクロも軽く会釈をすると視線の先にいた影メイドの姿はなく、辺りを見渡すがやはり確認できずメイド長へ視線を向ける。


「今頃は近衛やメイドに報告しておりますわ。我々も向かいましょう」


「はい……凄い人たちですね」


「あら、姿を現したのは一人でしたが複数人いた事に気が付いたクロさまも中々の推察眼ですわ」


 微笑むメイド長にやっぱり複数人いたのかと適当に鎌を掛けて正解だったなと思いながら足を進め、中庭へと辿り着くと既にテーブル席が用意され国王ともう一人の王妃カミュールの姿もあり楽しげに話しをしながらアイリーンが用意しただろうスナック菓子やワインを口にしている。


「クロ先輩、やっぱり焼きそばにお好み焼きにタコ焼きですかね~」


 遅れてきたクロへ身を寄せ願望を口にするアイリーン。ビスチェとルビーもアイリーンに遅れクロの下へやってきて片方は仁王立ち、もう片方は手揉みの姿勢で口を開く。


「私は白ワインが良いわ」


「ウイスキーもあると嬉しいです」


 対照的な頼み方をする二人に白ワインとウイスキーをアイテムボックスから取り出して渡し、BBQコンロを数台と鉄板を用意するクロ。


「軽く食べられるおつまみもあった方がいいよな……」


「私的には屋台もあった方がいいと思いますよ~王家の方たちは屋台で料理を食べるのを楽しみにしていたのであって、屋台料理を楽しみにしていたのではないとおもいますからね~」


「やっぱりそう思うか? なら、これでどうだ」


 魔力創造で焼きそばの屋台を創造するクロ。その光景に驚くまわりの乙女たちにメイドや近衛兵たち。


「流石クロ先輩ですね~でも、屋台だけ用意した? ガスコンロなどがないですね……」


「俺が知っている屋台は学園祭の時に使ったものだからな。調理スペースには少し高さを足してこのBBQ用コンロに鉄板を置くからな。ルビーはウイスキーを飲んでないで他の屋台も作るから手伝てくれ。アイリーンは看板担当な」


 そう言いながら魔力創造を使い複数の屋台を創造するクロ。どれも同じ仕様になっており看板を書き換えるためにペンキを用意し、ルビーはクロを手伝いながらBBQ用コンロの高さの調節と石を置いて安定させる。


「七味たちにも手伝ってもらうから焼きそばとお好み焼きにタイ焼きとから揚げ、アイリーンもりんご飴なら作れるよな?」


「温めたアメをリンゴにコーティングするだけですよね? それならチョコバナナも欲しいですね~湯煎したチョコを掛けてデコレーション用のチョコを振りかけるだけですし、アリルちゃんが喜びそうです」


「だな、後はそうだな……かき氷とかもだな」


 そう言いながら女神の小部屋の入り口を開け七味たちを呼びわらわら出てくる蜘蛛たちに悲鳴が上がり、アイリーンが説明しようと声を上げる前に空に文字が浮かび上がる。


≪僕たちは悪い蜘蛛じゃないよ≫


 悲鳴を上げたメイドたちは空に浮かぶ文字に呆気に取られ叫ぶのをやめ、近衛騎士たちも反射で剣を抜きそうになるがそのままの姿勢で視線をクロへと向ける。


「彼らは七味たちです。最近進化しまして、仲良くして頂けると……」


「ふわぁ~ふわぁ~七味たち変わりました!!」


「みな違う種類になったのですね!」


 七味たちを良く知る王女二人が駆け出し七味たちは両手を上げてお尻を振り再会を喜び、国王や王妃たちも微笑みを浮かべながら若干顔を引き攣らせる。


(我らに敵意はない。これから屋台で料理するので食べて頂けると嬉しい)


 そう念話が皆の脳内に響き困惑するメイドや騎士たち。なかには影の物も含まれ初体験する念話に驚きながらもすぐに理解したのかグラスや食器などを用意へ動き出す。


「大丈夫そうですね~」


「ああ、俺も念話を初めて受けた時は驚いたが、なあ、ベビーカステラの屋台とかするのか?」


「せっかくなので作ってみました。お祭りの屋台でよく買ってもらったので……ダメですか?」


「ダメじゃないがアイリーンが作ってくれれば問題ないだろ。七味たちもきっと手伝ってくれるだろうし」


「そうですね~なら、今川焼に大判焼に回転焼に御座候に甘太郎焼にじまん焼も作りましょうかね~」


「それは全部今川焼だろう」


「えへへ、こんなにも名前が違うのは不思議ですね~」


「不思議だよな~ああ、今川焼の鉄板はないから魔力創造しないとだな。作り方はホットケーキミックスでいいんだよな?」


「そうだと思いますよ~ベビーカステラもそうですね~」


「餡子とカスタードも魔力創造だな」


 数件の屋台が完成する頃には七味たちがから揚げや焼きそばを作り始め、城の中庭の一角から漂う香りに多くの文官やメイドたちが窓から顔を出し興味深げに見つめ、国王をはじめとした王族や宰相などのお偉方も恐縮しながら中庭に集まり、エルフェリーンがウイスキーを進め小さな祭り会場と化す。


「ふわぁ~これはとても甘いです! パリパリしてて美味しいです!」


「マヨはこう勢いよく掛けると綺麗に仕上がります!」


 りんご飴を始めた食べたアリル王女は舌を赤くしながら喜び、ハミル王女はお好み焼きに掛けるマヨに拘りを持ち、王妃二人も屋台料理に舌鼓を打つ。


「七味たちが料理することで受け入れ易くするとか、クロ先輩は考えていますね~」


「いやいや、お前が屋台の看板を勝手に作った結果だろ……」


 採用されなかったじゃがバターや明石焼きなどの看板が積み上がる一画を見つめ、呆れながらも七味たちが受け入れられたことに胸を撫で下ろすクロなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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