禁断の実験とダンジョン研究者
「ふっふっふ、それでは禁断の事情聴取といこうか!」
研究者の資料を読み漁ったエルフェリーンはそう宣言するとアイテムボックスから魔道書を取り出しページを捲る。
「師匠! それってネクロミノコン!」
「そうだぜ~この魔道書を使って一時的に復活してもらい話を聞くのが一番早いからね。それが終わったら成仏してもらおうじゃないか」
「道徳的にはアウトな気がしますけど……」
「師匠が責任を取るという事でいいんじゃないかしら、この研究者も自身の研究を発表する機会は欲しいだろうし、この事を国に伝える事も重要で必要ね。ワクワク」
ルビーとクロは道徳的に問題があると考えているが、エルフェリーンとビスチェはアンデット化が直に見られる事が楽しみなのかワクワクが止まらない表情で魔道書を捲り、体を上下させ期待を膨らませる。
「一応は女神シールドを出しておいた方がいいかな」
「それはダメ! アンデット化した途端に浄化とか、新手の嫌がらせになるよ!」
「そこでおとなしく見ていなさい! ここからは世界の神秘に迫る度胸がない者は外に出ているといいわ!」
エルフェリーンとビスチェから注意されたクロは、何とも言えない表情を浮かべながらダンジョンの入口へ方向転換をした所でルビーに足を掴まれる。
「えっと、クロさんはここに居て下さいよ~アンデットとか怖いですし……あのお二人を放置するのは危険だと思いますよ……」
「それは同感だが、って、もう魔力を注いでるのかよ!」
「ふわわわわ、クロさん! クロさん! 危険が危ないですよ」
クロのズボンにしがみ付くルビーに行動が制限されるクロ。その先ではエルフェリーンがネクロミノコンに魔力を注ぎ、可視できるほどの魔力が研究者の白骨死体を包み込み黒く禍々しい魔力が白骨死体から湧き上がる。
「おいおい、これはリッチか、それ以上のアンデットに……ん?」
黒く禍々しい魔力が四散すると研究者の白骨死体の目の部分が赤く輝きカタカタと音を立てて立ち上がり、エルフェリーンとビスチェを見据えるとその膝を折り地に傅くアンデット。
「おお、復活を果たした研究者よ。その名を聞かせるがいい」
エルフェリーンが支配者のような言葉回しで立ち上がり天魔の杖を構えると、顔を上げたアンデットは目に赤い光を漲らせ口を開く。
「はっ! 我は元ターベスト宮廷魔道士にしてダンジョン研究に生涯を費やした者でございます。名をケイル・レミ・ポキーラと申します」
「ちゃんと師匠の支配下になっているわね! これって凄い事よ! 生前の遺体があればその人とお喋りができるし、誰なのかとか、何をしていたかとか尋問できるわ! 完全犯罪などなくなるって事よ!」
ビスチェがいうように遺体が喋るのなら殆どの犯罪が暴露される事になるだろう。しかし、ネクロミノコンはこの世に数冊しかなく、それを刑事事件で使おうとする者はいるだろうか。それよりも不死の軍団を作ろうとしたり、国家転覆を謀ろうとしたりする者が殆どだろう。
「じゃあ聞くけど、紫水晶はダンジョンが干渉できないって事で、間違いないかな?」
「はい、私は長年研究を続けダンジョンを農地へと使えないかと考えておりました。樹木の枝にプランターを置いてみたり、菌糸を倒木に振り撒いてみたりとしてきましたがどれも上手くいかず、ダンジョンが干渉できない遺体を発見したのです。
疑問を持ち亡骸が身に付けていた物やアイテムを徹底的に研究と実験を繰り返し、紫水晶であると断定付けました。偶然にも私が研究所として使っていた洞穴には多くの紫水晶が埋蔵されており実験には好都合だったのですが、ダンジョンが広く大きくなるに連れ地上への道が閉ざされ……」
「ああ、それでドアの入り口のような溝が残ったんだね。それに部屋の奥が不自然な壁になっているのもダンジョンが拡張された影響で壁になってしまったのか……」
「はい……私の研究が後世に残ればと思いましたが、ダンジョンという巨大生物からしたら体の中で農業などされたら困るのかもしれません……」
「ダンジョン生物説か……ダンジョンは時間と共に成長を続け世界を乗っ取るだっけ?」
「いえ、乗っ取るとまでは考えておりませんが、生物である可能性が高いと思います。現に私の実験に気が付き、紫水晶が干渉できない事をダンジョンが妨害の為に、この空間を飲み込んだと考えた方が自然かと……」
顎に手を当て思案するエルフェリーン。その横ではビスチェが顔を上げ報告をするスケルトン研究者の動きや言葉を注意深く観察する。クロも何かあればすぐに対処できるよう女神シールドを出せる体制を取り、ルビーはクロの腰に抱きつきながらチラチラと成り行きを見守る。
「なるほど……確かに……そう考えると納得できる気もするね……」
「はい、私自身も信じられない思いをしました……で、ですね。ダンジョン農法の方なのですが、これをご覧下さい! この様に紫水晶を二メートル埋めるか、粉末にした紫水晶を撒いた畑に作物を植えるのです! こうすれば肥沃なダンジョンの土を使った農業が可能になります! 他にも特定の魔物を紫水晶を埋めた空間へ追いつめ増やし酪農に使う事も可能かと思うのですが、エルフェリーンさまはどうお考えですか?」
赤く光る瞳をキラキラと輝かせながら資料を提示するスケルトン研究者。
「う~ん、可能かもしれないがダンジョンが怒るという可能性も……あれ? 僕は自己紹介したっけ?」
頭を傾げるエルフェリーンにスケルトン研究者は骨ばった口を開く。
「貴女ほどの冒険者なら一般常識として記憶しております! 三十五階層を突破した伝説の冒険者として」
「それは古い情報ね! 四十階層まで師匠は進んだのよ!」
「おおおおお、それは凄い! 更なる冒険譚を耳にする事ができるのですね! 私もなってみたかったな……血がたぎる様な冒険を、仲間と共に助け合いながら更なる深層へと足を進め、世界に自身の名が刻まれる……冒険者とは何と素敵な……」
天を見上げながら自身の夢を語るスケルトン研究者にうんうんと頷くエルフェリーン。ビスチェも頷きながらクロへと視線を向ける。
「俺は嫌だぞ」
「何でよ! この骨だって更なる冒険を求めているのにっ!」
「更なる冒険の始まりがマグマの上とか嫌過ぎるだろ」
その言葉に顔を背けて口を尖らせるビスチェ。白亜もリュックから顔を出して首を横に振り、ルビーも腰にしがみ付きながら顔を横に振る。
「もし良かったら一緒に冒険をしてみるかい?」
エルフェリーンが手を差し出すとスケルトン研究者は首を横に振り、カクカクと体を揺らす。
「お誘いは本当に嬉しいですが、私は既に死んだ存在。それにエルフェリーンさまという英雄に私の研究を聞いて頂いた事が何よりも嬉しい! それに理解までして頂けたのだ! この世に未練などありません!」
「この研究は王家に渡して、もし可能ならダンジョン農法を現実のものとすべく口添えをするよ」
「それはそれは、これほど嬉しい事はありません……最後に貴方に会えて良かった……私の研究を使い世界を良き方向へお導き下さい」
再度、膝を付き傅くケイルは薄らと輝き始めると骨は光の粒子へと変わり、装備していた物を支えるものがなくなりその場に崩れ落ちる。
「クロ! ここにある遺品を王家に届けよう。クロのアイテムボックスに入れて運びたいけど手伝ってくれるかい?」
「そういう事なら手伝いますが……何だか少し悲しいですね……」
「何を言っているんだい! 彼に取ってはこれ以上ない本望だよ……さぁ、ビスチェもルビーも手伝ってくれよ!」
途中で声が小さくなりながらも最後は二人を元気な声で呼び遺品を回収する一同。
こうして目的であるヒカリゴケの採取と、ルビーの目的である鉱物や鉄のインゴットの採取も完了するのだった。
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