特攻聖女と旧友との再会
キャロットの尻尾を掴み行動を制限するグワラは見慣れる人間の街並みにキョロキョロと視線を動かす。
「クロさま、家に使われている石はレンガというもので間違いないでしょうか?」
「壁に使われている赤茶色のものですね。レンガで間違いないと思いますよ」
「なるほど、あのような建築方法では耐久性に問題がありそうですね」
「パンチ一発で粉々なのだ」
「キャロットのパンチなら確かに壊れそうだが、修復しやすいとかもあると思いますよ」
レンガ造りの家が多いターベスト王国。竜王国は丈夫な石を積み上げ独自の魔術を使い補強している事もあってか気になったのだろう。
「修復のしやすさですか……確かに竜王国の家は丈夫ですが壊れると修復には一度天井を外してから再度魔術を行使しなければならない……なるほど、修復のしやすさというのも一理ありますね」
「レンガだと壁に穴が開いても新しいレンガを入れることができますね。柱とかだと大変だと思いますが修復できると思いますよ」
そんな話をしながら足を進めていると前から豪華な馬車が数台現れ太陽のような笑みを浮かべるアリル王女が顔を出し、馬から降りた近衛騎士たちがエルフェリーンの前で頭を下げる。
「エルフェリーンさま方、お迎えに上がりました」
「ん? そんな気を使わなくてもいいのに~僕らは屋台を見ながらゆっくり城へ向かおうと思っていたぜ~」
「はっ、ですが、近頃聖王国からの使者が現れ、クロ殿が現れたら知らせて欲しいとの申し出があり、国王陛下からも聖騎士に絡まれる前に城で保護しろと命が下っております。強制的に拉致されるような事はないと思いますが、王城なら聖王国といえど手出しはできないかと」
近衛兵の言葉にクロは頭を下げて口を開く。
「迷惑を掛けて申し訳ありません」
「いえ、迷惑だなどと……」
「師匠、ここは素直に乗せていただきましょう」
「うん、そうだね~お城へ行けば教会からも使者が、来たね……」
こちらへと馬を飛ばす聖騎士数名の姿が見え、更にはそれを追い越し走るシスターだと思われる女性が一行の前で急停止、できず、膝を付いていた近衛兵共々転がり慌てるクロ。他の者たちは素早く回避行動を取り巻き込まれる事はなかったが、膝を付いていた近衛兵とシスターにルビーが吹き飛びアイリーンが三名に糸を飛ばし回復魔法を行使する。
「エクスヒール」
一緒に転がり目をまわしていたルビーと近衛兵にシスターが起き上がり、近衛兵が剣に手を掛け、ルビーは目をパチパチさせながらも状況を確認すべく辺りを見渡し、シスターは顔を上げると目に入った男の前に両膝を付き、手を合わせて口を開く。
「どうか私を随行させて下さい!」
その言葉に戸惑う一行。何故シスターがシャロンの前で膝を付き祈りの姿勢でそう口にしたのかと思っていると、遅れてやってきた聖騎士たちも同じように祈りの姿勢を取って頭を下げ、その姿を呆然と見つめる聖騎士の一人がフルフェイスの仮面を取り口を開く。
「ああ、その御方ではなく、こっちの黒髪の方がクロさまだぞ」
「ヨシムナ! 良く来たな!」
異世界召喚された際に面倒を見てくれ戦い方やダンジョンの基礎知識などを教えてくれた存在にクロは声を上げ近づき、ヨシムナも「おう」と声を返し互いにコツリと拳を合わせる。
「なあ、この状況は……」
「ああ、クロさまにちょっとな」
「様とか付けるなよ。気持ち悪い……」
「そういわれてもな、クロさまは使徒であると聖王国で認識されてな。きっと嫌がると思ったから、その顔を見に態々来たんだからさ」
後頭部を掻きながら話すヨシムナに軽くイラっとしながらも久しぶりの再会を喜ぶクロ。その後ろではアイリーンもライナーと再会しハグしながら小声で会話し互いに喜び合っている。
「あ、あの、私は聖王国で聖女を勤めさせていただいておりますタトーラと申します。使徒様にお会いでき光栄に思います!」
頭を下げたまま手を合わせる聖女タトーラの叫びにも似た声に改めてクロが視線を向け、クロだと間違えられたシャロンはゆっくりとクロの後ろへと下がり避難する。
「えっと、よくわかりませんが自分は使徒ではありません。それよりもこの大通りで通行をせき止めてしまうと交通に問題が出ると思うので、後日、教会へ行きますのでその時にでも話させていただけませんか?」
「いえ、クロさまは使徒様であらせられます!」
顔を上げそう宣言する聖女タトーラはキラキラした瞳を向け、聖騎士たちも顔を上げる。
「そういうことだ。後日でもいいから話を聞いてくれ」
今度はクロが後頭部を掻きながら困った表情を浮かべ、ルビーが何となく事態を察し立ち上がりビスチェたちの下へと向かい、近衛兵たちは話の行く末を見聞きしながらアリル王女が乗る馬車の警備へと戻りいつでも出発できるよう馬車に乗り込める状態を維持する。
「明日にでも教会へ向かうからその時に話し合ったらいいよ~僕たちも王都でやることがあるからね~」
そう口にしながら馬車へと乗り込むエルフェリーン。その後ろにビスチェたちも続き馬車に乗り、まだキラキラとした視線を向ける聖女タトーラたちへクロが口を開く。
「その、そろそろ立ち上がっていただけると、自分たちは城へ向かいますので明日の午後にも教会へお邪魔させていただきます」
「では、私は使徒様に随行させていただきますので、聖騎士の方々は教会へお戻り下さい」
「はっ!」
そう返事をして立ち上がる聖騎士たちに、はっ! じゃねーよ! と心の中でツッコミを入れるクロは立ち上がった聖女タトーラへ視線を向け、向けられた聖女タトーラは頬を染めて微笑みを浮かべる。
「あの、できたら聖女さまも一度教会へ戻られていただけると……」
「いえ、私は使徒さまを御守りさせていただく義務がありますので」
「守る義務ですか?」
「はい、聖王議会での決定は絶対です。私が使徒さまの盾となるべく随行し、使徒さまの為に今後の人生全てを掛けると決めましたので」
頬を染め微笑みながら話す聖女タトーラにクロは眉を顰めながら思う。
この聖女はヤベー奴なのではと……
「いえ、本当にそういったのは必要としてなくてですね。ヴァル」
「はっ!」
クロの声に応え膝を付き現れるヴァル。そして、その姿に目を見開いて口をあんぐりと開け放心する聖女タトーラと聖騎士たち。
「自分の守りはヴァルがいるので本当に大丈夫です」
「その通りです! このヴァルが命を懸けクロさまを御守りする所存! 人族などがクロさまにお仕えできると思わぬことだ!」
立ち上がり両翼を広げ聖女タトーラを指差すヴァル。
ヴァルはヴァルで問題があるなと思いながらも「そういう事ですので教会へお帰り下さい」と口にしたクロは異論が出る前にこの場を去ろうと馬車に乗り込む。
「天使さま……ああ、やはり使徒さまであるのですね……」
待機に混じるように消えて行くヴァルの姿を見つめ両手を合わせる聖女タトーラ。聖騎士たちも深く頭を下げヴァルが消えゆくさまを見つめる。
「おいおい、天使さまがクロを守っているとか……」
「こりゃ本当に使徒さまで間違いないね……」
去り行く馬車を見つめ呟くヨシムナとライナーはいつまでも祈り続ける聖女タトーラを後ろから見つめる のであった。
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