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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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元気な赤ちゃんと聖王国の使者




「クロ! 凄いよ!」


「これが伝説の転移魔法……」


 一瞬にして変わる風景に驚くチーランダとリンシャンにエルフェリーンは鼻を高くし、足を止めているリンシャンの背中を押すロザリア。


「ほれほれ、まだキャロットと白亜にグワラが来るのじゃぞ」


「は、はい、申し訳ありません」


 ロザリアに押され足を進めた先にはリンシャンの住むコボルトの村があり門番をしていたコボルトの男二人は口をあんぐりと開けたまま固まっている。


「ただいま~エルフェリーンさまの転移魔法で帰って来たよ~」


 チーランダが走り固まる男たちに叫び、後方では乗って来た小さな馬車を引くロンダルとその馬車に乗りご機嫌なキャロットと白亜が顔を出す。


「凄いの! あの渦の向こうが錬金工房なの! 一瞬でこっちに来れたの!」


 テンション高く転移魔法の凄さを語るチーランダに固まっていたコボルトの門番たちはエルフェリーンに向け深く頭を下げ、クロたちは村の中へと足を進める。死の森が近い事もあり贅沢に木材が使えることもあってか木造建築が並ぶ村を進み、一軒の家の前で先を行くチーランダが止まり大きな声で「ここ~」と叫び中へと突撃する姿に、昔ながらの田舎だなと思うクロとアイリーン。


「おいこら、人様の家に勝手に侵入してくる奴があるか!」


 そんな叫び声が聞こえ足を止める一行。どうやらポンニルが突撃したチーランダを怒っているのだろうと察したのだ。


「クロ、僕たちも怒られないように出産祝いをすぐに渡せる用意をしてくれるかい」


 珍しく弱気のエルフェリーンに吹き出しそうになるロンダルとリンシャン。クロはアイテムボックスを起動し肩を揺らしながら紙おむつを手にすると、それを奪うように抱き締めるエルフェリーンの姿に本当に怒られたくないのだろうと思いながらクロも紙おむつを手にする。


「お母さ~ん、赤ちゃん泣いちゃった! 早く来て手伝って~」


 チーランダからのヘルプの叫びに慌てて動くリンシャンとロンダル。クロたちは家の前で漏れ聞こえる赤ちゃんの元気な鳴き声に皆で顔を見合わせる。


「赤ちゃんは元気そうだぜ~」


「キュウキュウ~」


「白亜さまは泣いている赤ちゃんが心配だと言っているのだ!」


「ポンニルの大声に驚いたのじゃろう」


「無断で入って行ったものね。クロも気を付けなさい」


「………………俺ってそういうタイプに見えるか?」


「いえ、まったく見えないわ。出てきたわよ」


 玄関から赤ちゃんを抱いたポンニルとリンシャンが現れエルフェリーンに向け深く頭を下げ、エルフェリーンは「うわ~可愛い赤ちゃんだね~」と微笑みを浮かべる。他の女性たちも初めて見るコボルトの赤ちゃんを見つめ目を輝かせる。


「御出産おめでとうございます。色々と出産祝いを持って来たので受け取って下さい」


 そうクロが切り出しエルフェリーンが手にしていた紙おむつを手の空いているロンダルへ渡し、アイリーンもアイテムバックからおくるみや赤ちゃん用の衣服を渡しお礼を言いながら何度も頭を下げるポンニル。


「ここではアレですからどうぞ上がって下さい」


「いやいや、人数も多いし僕たちはもう行くよ。ポンニルと赤ちゃんが元気そうで良かったよ~」


「出産祝いの品についてはリンシャンさんとロンダルに説明していますので後で聞いて下さい」


「こ、こんなにも多くの品をすまないね……」


「双子だと聞いていましたし、ベビーカーは下にキャスターが付いているので散歩もしやすいですので試してみて下さい」


 出産祝いの多くはクロが魔力創造で創造した物で紙おむつ以外にもタイヤの大きなベビーカーや抱っこ紐といった実用性が高いものもあり、その使い方を昨晩リンシャンに教えると「この子たちが子供の時に欲しかった」との感想を貰いこれなら喜ぶだろうと用意した物である。


「僕からは各種ポーションと風邪薬や疲れが軽減できる薬に赤ちゃんでも安全に飲める解熱剤を用意したからね~使い方は書いてあるからよく読んでから使ってくれよ」


「私たちからは果実と葡萄を絞った果汁ね。今年は出来がいいから味を楽しみにしてね」


 エルフェリーンとビスチェが用意していた出産祝いも渡すと赤ちゃんが泣き始め、リンシャンが抱いていた赤ちゃんも連鎖するように泣き慌てる白亜。クロはそんな白亜を抱き上げる。


「それではこの辺で失礼しますね」


「お構いできなくて申し訳ない……いつでも遊びに来て、今度は旦那も紹介させてくれ」


 泣く子をあやしながら別れの挨拶を済ませ転移魔法を使い王都近くへと転移する一行。風景が一瞬で変わり新たに増設された真新しい壁を視界に入れレーシングカートのコースがそこに作られているのだろうと予測しながら足を進めるクロ。


「昼前だから人も少ないね~」


 王都の入り口には数名の商人だろう馬を引く者たちとその護衛の冒険者が並ぶだけで人影は少なく、門番がエルフェリーンたちに気が付き会釈で互いに挨拶を交わす。


「まずは冒険者ギルドですか?」


「そうだね~王家の馬車でもない限りはそっちを優先してからお城へ行こうか。七味たちも中で退屈しているだろうからね~」


 クロの女神の小部屋に入り待機している七味たちを思い浮かべ、門番がこちらへと向かって来ると冒険者証を取り出し見せるエルフェリーン。


「今日は収穫した果実の御裾分けと獣魔が進化した報告に来たよ」


「はっ、でしたらすぐに王城へ使いを出します。それとクロ殿の耳に入れておきたい話がありまして……」


「俺ですか?」


「はい、聖王国からの使者が数日前から教会で待機しております。大司教さまや聖女さまにヨシムナと名乗る聖騎士の方々からクロ殿が王都へ現れたら報告して欲しいと頼まれておりまして」


 大司教と耳にしたクロが眉を顰めるがヨシムナという友人の名が出ると表情を変え「それなら会いに行った方がいいか」と口にすると、門番たちはホッと胸を撫で下ろす。


「それは助かる……クロ殿から教会へ出向いていただければ我々も罪に問われずに済むからな……はぁ……」


「罪ですか?」


「ああ、聖王国からの申し出を怠ったとなれば我々だけでなく国としての問題になりかねない。クロ殿たちが来なかった事にもできるがその場合はすぐに引き返してもらわなくてはならないからな……ご迷惑をおかけして申し訳ない……」


 頭を下げる門番にクロも頭を下げ「いえいえ、必ず向かいますので」と口にする。


「ヨシムナさんがいるという事はライナーさんも来ていますかね~」


「恐らくな。役職的にもライナーさんが志願してヨシムナを指名してくれたんだと思うぞ」


「会うのが楽しみですね~ライナーさんにはドレスを手作りして送りましょうかね~」


 受付を済ませ王都へと入りながらアイリーンと話していると油の香りを感じて視線を走らせるクロ。そこには多くの屋台が並び、揚げ物を売っているのか香ばしい匂いにキャロットと白亜に小雪が尻尾を振り走り出す前にグワラがキャロットの肩を掴む。


「キャロットさま、分かっているとは思いますが、勝手に走り出しては迷子になりますので注意して下さいね」


「わ、わかっているのだ! 迷子になったら魔化してお城で待つのだ」


 キャロットの言葉に「それだと街中がパニックです」と注意するグワラ。


「そうだぜ~ドランも同じような事をして凄く怒られたから絶対にしちゃダメだぜ~迷子になったらお城か教会か冒険者ギルドへ普通に向かって事情を説明するようにしてくれよ。怒られるのはきっと僕かクロになるからね~」


 エルフェリーンの言葉に俺も怒られるのかと驚きながらも、冒険者ギルドの受付嬢から近い事を言われたなと思い出すクロなのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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