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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十七章 収穫と聖国
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ワイン造りと教会



「白亜も二回目だから上手くなったな」


「キュウキュウ~」


「冷たくて気持ちが良いのだ!」


 大きな樽に入れた葡萄を素足で潰しワイン造りに励む一行。アイリーンの浄化魔法で綺麗になった素足でワインを振る感覚は冷たく気持ちが良いのか楽しく作業をする白亜とキャロット。ビスチェやエルフェリーンにルビーも協力しキャッキャしながら葡萄を潰す作業を楽しむ。


「例年よりも粒が大きくて甘い葡萄になったからワインにしても美味しいはずよ」


「うんうん、美味しかったよね~ワインになるのが楽しみだよ~」


「ワインよりもそのまま飲みたいのだ!」


「キュウキュウ~」


「キャロットと白亜用に発酵させない樽があってもいいかもな」


「あら、それならハミルとアリルも一緒に飲めるわね」


「それなら絞り終わったら持って行くのもいいね~今年も流行り病が流行っていないだろうし、サーキットがどの程度できたかも気になるからね~」


 王妃が気に入り持ち帰ったレーシングカート。そのコースの為に王都の城壁を広げコースを作り、公共事業として多くの者たちが働き活気づくターベスト王国。完成すれば大いに盛り上がることだろう。


「新作もありますよ! まだお披露目していませんがキャロットさんでもゆったり乗れるタイプや車輪を減らして軽量化させたタイプも作りました!」


「乗りたいのだ!」


 以前レーシングカートに乗れなかった事もありテンションを上げたキャロットが叫び、それに驚いた白亜が転び紫に染まり、見学していたグワラが慌てて白亜を助けようと立ち上がり、クロはシールドを飛ばそうとするが白亜の体が浮き上がる。


「ギギギギ」


 ゆっくりと不自然に宙に浮き上がった白亜。いつもよりも低音な鳴き声の発生源へと視線を向ける一同。そこには見慣れないメタリックなボディーに金の縁取りのある蜘蛛が宙に浮き白亜へ糸を飛ばし空から支え、白亜は自然と口に入った味に尻尾を揺らす。


「えっと、七味の誰かだよな?」


(一味です。無事、進化できました)


 空からゆっくりと降りてくる進化した一味からの念話にアイリーンが駆けつけ抱き止める。


「綺麗なガンメタボディーに進化しましたね~この色合いは以前の私と同じプリンセススパイダーですかね~」


「ギギギギ」


 肯定しているのか鳴き声を上げる一味。その横で宙づりの白亜をクロが抱き上げヴァルを呼び出して浄化魔法をお願いする。


「お任せ下さい」


 光に包まれ紫色に変色した白亜が純白へと戻り、ペロペロと手を舐めていた白亜は残念そうな表情を浮かべ、地面に下ろすクロ。


「白亜さま、大丈夫ですか? どこか痛くしておりませんか?」


「キュウキュウ」


「ホッ……怪我がないのなら良かったです」


 自身の胸に手を置いて胸を撫で下ろすグワラ。クロはヴァルにお礼を言うと視線をアイリーンが抱く進化した一味に視線を向ける。


「他の七味たちはまだ進化に時間が掛かるのか?」


(どうでしょう……進化先や個体差もありどの程度時間が掛かるか……遅くても数日中には出てくると思われます)


「そうなると王都へは数日待った方がいいかもな。どうせなら冒険者ギルドに報告もあるから七味たちが揃ったらだな」


「それがいいね~冒険者ギルドとしても七味たちの進化は気になるところだろうし、レーシングカートの試走も済ませてから行った方が盛り上がると思うぜ~」


「コースが完成していたらレースになるわね!」


「七味たちがレーシングカートの運転できたら驚くだろうし、受け入れやすくなるかもな」


「ギギギギギ」


 アイリーンに抱かれながら片腕を上げる一味。適当に提案したクロだったがルビーが「任せて下さい!」と声を上げ素早く巨大な樽から飛び降りると走って工房へと向かい、アイリーンは慌てて追い掛けながら浄化魔法を使い紫色した素足の浄化に勤めるのであった。








「遠い所で大変だったでしょう」


 貴賓室でそう声を掛けたのはターベスト王国の教会のトップである教皇。微笑みながら挨拶をしたがその目は笑っておらず、やって来た大司教と聖女に聖騎士たちへ視線を飛ばす。


「教皇様も御年の割にご健康そうで大変嬉しく思います」


 そう口にしたのは大司教であり、こちらもそれなりに年を取っており教皇へのあからさまな嫌味を口にする。


「レイチェルさまもお元気そうで良かったです!」


「タトーラは元気過ぎなようだけど……はぁ……ライナーさま方も御守おもりが大変だったでしょう」


 笑みを浮かべ聖女レイチェルへと声を掛けたのはこちらも聖女のタトーラ。本日やって来た大司教の娘である。


「いえ、その様な事は……」


 口ではそう言葉にするが問題児として有名な聖女タトーラをこの地へと連れてきたライナーは愚痴りたい気持ちを押さえ、一緒にやって来た聖騎士たちも無言を貫き通す。


「先ほど門番から苦情が届いたが……はぁ……ここへやって来るまでにどれほどの人を引いたのか聞きたくないし、首を突っ込みたくないわ……」


「ちょっとぶつかっただけですよ~それよりもレイチェル様のお話が聞きたいです! 使徒様はどのような御方なのでしょうか? 見た目はどうですか? 性格は? 魔術を嗜みますか? 剣を使われますか? 身長と体重もお聞きしたいです!」


 矢継ぎ早に口にする聖女タトーラに眉を顰める聖女レイチェル。その後ろでは立って教皇と聖女を守る聖騎士長のサライと聖騎士副長のレーベスが自然と入る会話に耳を傾け拳を握るレーベス。


「それなら娘に聞くといいだろう。手紙では手も足も出なかったと書かれていたからな」


 話し終わると鋭い視線をレーベスへと向けるこの男はレーベスの父であり、聖王国が剣聖と認める第二聖騎士隊大隊長サライ。実力では聖王国のトップであるが素行の悪さから第一ではなく第二大隊を任されている。

 第一は勇者召喚の際にも活躍し花形部隊のエリートとされ、その知名度は各国に知られている。


「うっ……そ、そうだけど、」


「それは素晴らしいです! 早く使徒様にお会いしたいのです! ここで待つよりも死の森を越えて行きましょう!」


 聖女の提案に顔を歪める聖女レイチェル。言葉を遮られたレーベスも同じように顔を歪めやって来た聖騎士は身を震わせているのかガチガチと音が鳴り、それを鎮めようと口を開く大司教タトス。


「死の森を甘く見てはダメですよ。ターベスト王国の王家ですら死に物狂いでやっと辿り着ける場所なのです。重装備の聖騎士には過酷すぎます。それに噂では季節が変わる頃にはこの王都に訪れると耳にしています。もうすぐ収穫祭も開催されるとか」


「ええ、そうね。去年の収穫祭にはエルフェリーンさま方が顔を出し屋台まで出され大繁盛でした。今、ターベスト王国の屋台では揚げ物と呼ばれる新たな料理が販売され活気に満ち溢れております。大司教も食されると良いでしょう」


 笑みを浮かべ話す教皇に大司教は目を細めて口を開く。


「使徒様方が屋台を出されたのですか……」


「料理を振舞われその調理法が広められました。今では誰でも講習さえ受ければ揚げ物を屋台で出すことも可能です」


 講習では熱した油の危険性やその処理について学ぶことができ、その講習を受ければレシピを知ることができる。今ではパン粉を作る専門の業者などもおり、市民が手軽に口にできる屋台料理となっている。


「では、それを食べに行きましょう!」


 スッと立ち上がりドアへと走る聖女タトーラ。だが、それを予期していたのか聖女レイチェルがドアの前へと素早く移動しその行動を制する。


「れ、レイチェルさま……痛いです……」


「貴女はもう少し落ち着きを学び直しなさい……はぁ……」


 深くため息を吐く聖女レイチェル。そして、その苦労を旅の最中ずっと味わってきたライナーとヨシムナはやっと任せらえる人が現れたと心の中で感謝するのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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