冷たいピザと聖騎士
「うまっ!? 熱々でチーズがウニ~ンで口の中がプチプチでうまっ! クロ! これ美味しい!」
勝てない相手に散々挑んで負け続けたチーランダだったが昼食の焼きたてピザを口にしてツインテールを揺らし、隣に座るロンダルの顔にフサフサと当たり多少顔を歪ませるが焼きたてのマヨコーンピザを口に入れコーラを口にし表情を溶かす。
「うふふ、こっちのマルゲリータも美味しいですよ。シンプルですが生地とトマトソースにチーズとバジルの香りがとても心地良いです」
「この白いピザも美味しいわ。魚とイカが入っているわよ!」
「うむ、クジラのベーコンを乗せたピザも美味しいのじゃ。フレッシュな野菜には塩辛いベーコンが良く合うのじゃ」
「どれもおいひぃ~熱つつ、お母さんも早く食べないとなくなっちゃうよ」
先ほどからあまり手を出していないリンシャンを気にしてかチーランダが話を振り、クロは焼きたてのピザをテーブルに置き勧める。
「こっちはポテマヨピザで、チキンとモチを入れたピザに、パイナップルと豚バラのピザです。どれも熱いので注意して下さいね」
「これはどうもご丁寧に……恥ずかしながら猫舌で……昔、焼きたてのパンを食べて火傷した事があって……」
そう恥ずかしそうに口にするリンシャンにチーランダとロンダルが驚き、クロは「それなら他の料理も出しますね」とアイテムボックスに入れてある料理をテーブルに広げる。
「水菜を使ったクジラベーコンのサラダと葉野菜を使った炒め物にエビを使った一口カツです。エビにはタルタルを付けて食べて見て下さい。ピザもそろそろ冷えると思うので食べられると思いますよ」
「お母さんこれ冷えてるからどうぞ」
「僕が取っておいたピザもあげるよ」
チーランダとロンダルから皿に確保していたピザを受け取り微笑みながらお礼を言うリンシャン。家族のやり取りに微笑みを浮かべる一同。
「うんうん、やっぱり家族はいいね~僕も家族の長として、たまにはみんなを労いたいね~」
「私がクロの為に取っておいた耳がここにあるわ」
「クロ先輩! オレンジとコーラをお願いします!」
エルフェリーンが家族愛を見て思う所があったのか言葉にし、ビスチェはピザの耳をクロへと差し出し、アイリーンは飲み物の減り具合に目を走らせ追加を所望する。ある意味これも家族の形なのかもしれない……
「熱々が苦手とかもあるよな……」
ビスチェから差し出されたピザの耳に視線を落としながらピザ釜近くへ足を進めたクロは近くにいた小雪を呼びピザの耳を与えへっへと喜び口にする。
「熱くないピザか……クリームチーズとか使ってフルーツを飾り付けるか? それともタコスの生地にフレッシュチーズにハムとサルサソースでも作れるか?」
思案しながらピザの焼き加減を見つめ焼き上がったピザをヴァルに届けてもらい、新たなピザを焼きながら思案した冷たいピザの材料を魔力創造する。
「トルティーヤの生地にサルサソースを塗ってモッツァレラチーズとチキンの燻製を乗せて荒い黒コショウを振ればいいかな。後は同じようにトルティーヤの生地にクリームチーズを塗って蜂蜜、だけだと見た目が……桃でもスライスして乗せるか」
手を動かしながら独り言を呟き完成させた冷たいピザ。それをヴァルに運ばせ自身も焼き上がったシンプルなサラミのピザとホワイトソースを使った牡蠣のピザを運ぶ。
「そっちは冷たいピザなので、リンシャンさん食べて見て下さい」
「まあ、私の為に申し訳ありません」
「いえいえ、味見をしていないので自信はありませんが、それなりの美味しいと思いうので」
アイリーンが瞬時に糸でカットしリンシャンが手を出すと他の者たちも一斉に手を出し口へと運び満足げに頷き、リンシャンもお礼を言って食べ口に合ったのかそのまま食べ終え表情を溶かす。
「冷たく甘いピザも美味しいですね。チーズと蜂蜜の相性が良いのは前にも食べて知っていましたが、冷たい方が癖なく感じます」
「クリームチーズを使ったのもいいですね~ピザというよりも桃を使ったチーズケーキ感がありますよ~あむあむ」
「キュウキュウ~」
「これはこれで美味しいのだ! 分厚い肉を乗せてもきっと美味しいのだ!」
各々でピザの感想を言い合い冷たいピザが受け入れられるとクロは胸を撫で下ろしながら竈へと戻り、まだ火が落ちていない窯に用意していた下味をつけたチキンや分厚い猪の肉にオリーブオイルを塗った野菜などを入れる。
「夕食の準備はこれで大丈夫だな。後は食休みしたら皆でワイン造りか」
伸びをして体を解すクロ。その横で小雪も背中を伸ばし尻尾を振り、戻って来たヴァルに気が付くとそちらへ向け走る。
「わふっ」
ヴァルから優しく撫でられご機嫌の小雪。ヴァルも八頭身に実体化してからは小雪や白亜を撫でるようになり、料理中にクロへじゃれてくる小雪の遊び相手になっている。
「主さま、皆さまはもう満腹のだそうです」
「ヴァルもちゃんと食べられたか?」
「はい、本来は食事など必要ないのですが主さまの料理は自分の好物ですので確りと頂きました」
料理自体を好物と口にするのはどうなのだろうと思いながらも、キラキラとした瞳を向けるヴァルに「それなら良かった」と口にするクロであった。
「やっと城壁が見えたな……」
「半年掛かるとか聞いてないですよ……はぁ……」
馬に乗りターベスト王国を目指していた男は聖王国の聖騎士であり、二十人ほどの隊を率いて目的地が見えた事に安堵し、聖騎士の女もやっと長い旅が終わると思いながらも不安感を覚える。
「ライナーは聖女さまと大司祭さまに報告してくれ。俺は先に行って門番に知らせてくる」
「頼む、はぁ……気が重いね……」
鞭を入れスピードを上げた男を見送りながら大きなため息を吐いたライナーは馬の速度を落とし、後ろに付いてきている二台の馬車の御者にスピードを落とすよう伝える。
「ターベスト王国の王都が見えたわ。聖女さまに伝え、飛び出さないよう念を押してね」
「了解です。聖女さま――――」
御者を勤める聖騎士が馬車と連絡を取り、ライナーは更にスピードを落とし後ろの馬車へと同じように伝言を頼むのだが、先ほど伝言を頼んだ馬車のドアが走行中にも拘らず開き白い修道服が飛び出し着地と共に城壁に向け走り出し、大きなため息を吐くライナー。
「飛び出さない様に念を押したのに……はぁ……お待ち下さい聖女さま!」
大声を上げながら鞭を入れ速度を上げるライナー。他の聖騎士たちもこの状況に慣れているのか半数がスピードを上げ、残った者たちは大司祭が乗る馬車の警護へと編隊を汲み直す。
「ライナー遅いですよ! 私は一刻も早く使徒様に仕えなければならないのです!」
長旅をして疲れているかもしれないがライナーの乗る軍馬は鍛えられた一級品でありそのポテンシャルは競走馬をしのぐ実力がある。が、その軍馬ですら追いつくのがやっとというスピードで駆ける聖女。その表情は自信に満ち溢れ先に向かった男を追い越し、急ブレーキを掛けるが門番の一人を吹き飛ばし停止する。
「な、何事だっ!」
門番は叫び並んでいた商人たちも目を見開き驚くなか、遅れてきたライナーと男が事情を説明しながら謝罪するのであった。
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