ロンダルの悩み
チーロンリンの到着とポンニルの出産を皆で喜び果実狩りを切り上げて屋敷へと向かい、クロは昼食の準備をしながらロンダルとシャロンと会話を咲かせる。
「ロンダルも背が伸びたよな。去年は俺の胸ぐらいの位置だったろ?」
「そうです! 大きくなったのに姉ちゃんは今もチビって、もう姉ちゃんを追い越したのに……」
「ああ~僕もキュア姉さまからよくそう揶揄われたのでわかります。最近ではいわれなくなりましたが、何度も言われると地味に辛いですよね」
「はい……来年には成人になりますし、矢の腕だって上達したのに……」
悔しそうに拳を握り締めるロンダル。コボルト族であるロンダルは魔眼を持つ弓使いでスコープのように視力が調整できる。クロたちが目に魔力を集中させ強化するよりも遠くのものがクッキリと見え弓との相性は抜群である。が、姉であるチーランダはダガーと呼ばれる剣を二本使い接近戦ではビスチェに劣ることがない凄腕である。
「う~ん、チーランダからしたらロンダルは生涯弟だろうから一生言われるかもな。まあ、ロンダルが接近戦も強くなれば話が違うかもだが……」
クロの言葉にガックリと頭を落とすロンダル。
「チー姉ちゃんに接近戦で勝つとか無理……」
「うふふ、お困りですか?」
ガックリとしていたロンダルに微笑みを向けるメリリの登場に、ロンダルは顔を上げ背筋を正す。冒険者であれば誰もが一度は『双月』というメリリの二つ名を耳にし、母であるリンシャンからその怖さを確りと説明されたのだろう。
「ロンダルがなぁ、そうだ! メリリさんも二刀流ですよね?」
「はい、それなりにダブルダガーを使えると自負しておりますが、それと関係があるのですか?」
首を傾げるメリリ、その横であんぐりと開けた口を両手で押さえ震えだすロンダル。
「ロンダルは接近戦が苦手でな、それをどうにかできないかと思って助言でも頂ければなと」
話しながらアイテムボックスから大きなクジラ肉の塊を取り出すクロ。
「うふふ、それでしたら私でできる範囲なら助言致しますし、何度だって手合わせ致します……うふふふふふ、夕食までまだお時間がありそうですし、今からでも構いませんよ」
微笑みを浮かべ提案するメリリから視線をクロへと向ける震えるロンダル。
「それは好都合です。クロさまが置いた体重計で毎日一喜一憂しているメリリの為にも運動相手は必要ですね」
「なっ!? 私は太っていません! ちょっとだけ体重計の針との相性が悪いだけです!」
体重計の針との相性とは何だろうと思いながらも「夕食まではまだ時間があるし、ロンダルは……まぁ、頑張れ」
顔の青さに気が付いたクロだが笑みを浮かべるメリリが既に愛剣を手にし、やる気を出している事に止めるのは難しいだろうとロンダルを応援する。
「うふふ、お任せ下さい! ロンダルさまも、さあ立って下さい! 滞在中は私が確りと接近戦の極意を叩き込んで差し上げます!」
ロンダルの両肩に手を置きテンションを上げるメリリ、対してロンダルはビクリと体を震わせ立ち上がらせられるとそのまま外へと向かい、心配になったシャロンは後を追い、その後をメルフェルンが追い掛ける。
「ロンキュンは大丈夫ですかね~」
天井から糸で降りてきたアイリーンの言葉にクロも心配になるが、メリリが面倒見の良いことを知っている事もあり「大丈夫だろう」と口にして柵状に切ったクジラ肉を格子状の網の上に乗せる。
「それよりも七味たちはどうだった?」
「三美と四美以外は脱皮に向けて旧居に移動しましたよ。進化するかもしれませんね~」
「アイリーンの時は大変だったからな。巣が爆発するとか思わなかったし……」
そう口にしながら訝しげな視線を向けるクロ。アイリーンがプリンセススパイダーに進化した際は家の近くに木材を集めて巣を作り、出てくるときに大爆発したのである。
「あの時はすみませんでした……脱皮は早めにできていたのですが、自分のメタリックなボディーが固くなったか気になって、叩いたりちょっとした聖魔法を使ったりしてしまい……エヘッ」
可愛らしく微笑みを浮かべ誤魔化すアイリーンにクロがイラっとするのは仕方のない事だろう。
「七味たちは大丈夫だろうな?」
「そこはちゃんと言っておきましたので大丈夫だろ思いますよ~進化するとも限りませんからね~くんくん、美味しそうな匂いがしてきましたね~」
「ああ、クジラのたたきにするからな。まわりを香ばしく焼いて中はレアで生姜と大場と一緒に食べるんだが、みんな集まって来たな」
竈に藁を入れ一気に燃え上がりそこへクジラ肉を乗せた網を置き火に包まれるクジラ肉。すぐに香ばしい匂いに釣られエルフェリーンやリンシャンにロザリアが現れキッチンカウンターの椅子に腰を下ろし、遅れてビスチェとチーランダが鼻をスンスンしながら腰を下ろす。
「うんうん、良い香りだね~クジラ肉のステーキかな?」
「この香りだけで酒が飲めそうなのじゃが……」
「猪や鳥を焼いた香りとは少し違いますね」
「さっき言ってた大きなクジラ?」
「アレは大きかったわ。この家よりも遥かに大きかったんだから」
両手を広げ大きさを表現するビスチェに目を丸めるチーランダ。
「食べ放題だったのだ!」
「キュウキュウ~」
「解体も大変でしたが淡白で美味しいお肉でしたね」
キャロットや白亜にグワラが二階から現れリビングのテーブルに付き、アイリーンの足元には小雪が現れ尻尾を振る。
「小雪もクジラ肉が気に入ったよな」
「あら、フィロフィロもクジラ肉はお気に入りよ。私も変に脂っぽくない所が好きね」
「クジラ肉は部位によって味が違って美味しいですよね~赤身の所は淡白で脂がのった所は中トロですし、ベーコンも思っていたよりも美味しかったです」
毎日一品はクジラ肉がテーブルに並ぶこともあり工夫して飽きないで食べられるよう努力するクロ。それに気が付いているのかアイリーンやキュアーゼがその味と工夫を褒め、エルフェリーンとロザリアは遠くからやって来たリンシャンとチーランダを歓迎すべくウイスキーの瓶を開封する。
「前にも飲んだと思うけど一杯どうだい?」
「最近は炭酸水で割って飲むハイボールと呼ぶ飲み方が流行っておるのじゃ」
「炭酸水と氷を持ってきますね~クロ先輩~お願いします~」
アイリーンが叫び、クロはクジラの柵を崩さないように裏返し逆の面を炙りながら魔力創造で炭酸水と氷を創造し、アイリーンがお礼を言って持ち去りカウンターでハイボールを作り提供する。
「私は白ワインね。チーズの燻製がまだあったはず」
「ちょっと待って下さいね~チーランダさんはどうします? 甘めなお酒もありますよ~」
「前に飲んだオレンジのあれがいい。甘くて飲みやすかったし、香りが良かったもん」
「スクリュードライバーですね~待ってて下さいね~」
キッチンへと向かい冷蔵庫から適当なおつまみとスクリュードライバーの缶とビールを数本取るとキッチンカウンターへ戻りチーランダに渡し、グワラの下にも向かいビールを開けグラスに注ぎ入れる。
「これはありがとうございます」
「いえいえ、グワラさんはビールが気に入りましたね~」
「はい、適度な苦みと喉がプチプチとする感覚が癖になりました。燻されたチーズや魚も美味しく、帰ったら国に広めようと思います」
微笑みながらグラスビールを受け取るグワラ。その横で帰っちゃうの? とグワラを見上げる白亜。対してキャロットは尻尾をピンと立て口を開く。
「いつ帰るのだ?」
「そんなに喜ばれるともう少し残り、キャロットさまに礼儀作法を徹底的に教え込む必要を感じますが……」
ジト目を向けるグワラ。キャロットは口に入れたスモークチーズに咽ながらも「か、帰って欲しくないのだ! 本当なのだ!」と言い訳を口にするのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。