チーロンリンと果実
ラライをオーガの村に届けクジラ肉や刺身を振舞いドンチャン騒ぎしてから三週間が経過し、本格的な夏から秋らしい虫の鳴声や葉が明るく色づき始めると多くの果実が実を付けクロたちは収穫作業に汗していた。
「うふふ、こちらも大きく育ち美味しそうですね~」
「こんなにも多くの種類が実を付けるのね」
「うむうむ、これならワインもきっと美味しいものが作れるのじゃ」
「去年作ったワインも美味しかったけど、今年はもっと美味しくなるそうだね~あっ!見てくれよ! この葡萄とか黄金……黄金っ!?」
錬金工房草原の若葉の敷地から少し離れた斜面には多くの果樹が植えられ、それをキラービーと呼ばれる蜂の魔物や妖精たちが管理し今年も多くの実りに感謝しながら収穫しているとエルフェリーンが金のように光を反射させる黄金の葡萄を発見し二度見して叫び、それを見た皆が驚くなかクロは一人冷静にツッコミを入れる。
「精霊王さまですよね?」
皆がクロへと振り向きエルフェリーンが手にしていた黄金の葡萄がポンという音と光と共に変化し姿を変え、無機質な大きな水晶に巻き付く花の生えた蔦が姿を現し今度はそちらへと視線が向ける一行。
「流石は私の契約者ですわ!」
クロに正体を見破られ嬉しいのか咲き乱れる蔦に付く花たち。見れば小さな葡萄のような実を付けておりその色は黄金に輝いている。
「君は嬉しそうだけど僕はガッカリだよ……黄金の葡萄とかどんな効果があるか楽しみだったのに……」
肩を落とすエルフェリーンに精霊王は蔦を動かし自身の身に付けている小さな黄金の葡萄を差し出す。
「これでよければ差し上げますわ。実は小さくとも芳純魔力を備えておりますわ」
出会いこそ犬猿の仲に見えたエルフェリーンと精霊王だが一緒に酒を飲み互いに歩み寄って事で関係は改善され、今では十日に一度は屋敷に現れタダ酒を楽しみ更に仲を深めている。
「良いのかい? それは君が貯めている魔力の塊だろう?」
「ええ、一年を掛け貯めた魔力ですわ。本来なら色々と使い道がありますが、クロと契約してからエルフェリーンたちにお世話になっておりますもの。酒代として受け取っていただけると嬉しいわ」
「うん、タダ酒のお礼というなら受け取るぜ~これだけ魔力を圧縮した果実なら新しいポーションの素材にしてもいいし、魔道駆動の改良にも使えるかもしれないぜ~」
「本当ですか! それならもっと早く走り空にも挑戦できます!」
エルフェリーンの言葉にテンションを上げるルビー。以前に作った異世界軽トラの梯子の上で叫び、メルフェルンは落下しないか心配しながら梯子を押さえる。
「ルビーさま、そんなに大声で叫ばれますと落ちますから冷静にっ!」
「あわわわ、ふぅ……危なかったです。ですが、魔道駆動を改良すればキャロットさんやキュアーゼさんのように自由に空が飛べる飛行機でしたっけ? そのジェットエンジンも作れますよ!」
クロが魔力創造した雑誌に載っていたジェット機の試作を何度かしたのだが、魔石を使った噴射力では出力の安定と持久力に問題があり行き詰っていたのである。
「異世界ジェットとか夢がありますね~ドラゴンと一緒に空を飛ぶとかクロ先輩もどうです?」
「なんだろう……白亜と一緒に空を飛ぶと考えると、操縦席で抱っこしている姿が浮かぶが……」
「キュウ?」
クロの言葉に首を傾げる白亜は二人の思い出の実であるグレープフルーツを収穫しカゴへ入れ、キャロットとグワラは身長が高いこともあり高い所の洋ナシを収穫する。
「これも良い香りがするのだ!」
「本当に美味しそうな香りがしますね」
収穫する度に洋ナシの香りを楽しむグワラ。そのまわりを楽しそうに収穫し飛び交う妖精たち。
「これ甘いよ!」
「あっちは甘酸っぱい!」
「あの実は酸っぱいだけ!」
クロが植えたレモンの木を指差し報告する妖精たち。興味本位で齧りつき酷い目にあったのだろう。
「ん? 誰か来たようですね……ロンキュンたちですよ!」
まだ豆粒ほどの大きさの人影に気が付き報告するアイリーンの言葉に、クロも目に魔力を集中させ視力を強化し確認するとチーロンリンの姿が目に入り珍しく小さな馬車を引く馬の姿も確認する。
「馬を連れているわね」
「僕たちが迎えに行きましょうか」
シャロンが成犬サイズまで急成長したフィロフィロと迎えに行く事を提案し、梯子を押さえていたメルフェルンも目を輝かせ近くにいたグリフォンを呼び、急に手を離したこともあり揺れルビーが落ちそうになるが急ぎその身を支えるヴァル。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます……ヴァルさんが近くにいるだけで安心感があります」
「少しでもお役に立てて自分も嬉しいです」
ゆっくりと梯子を降りるルビー。シャロンとメルフェルンがグリフォンに乗りチーロンリンの下へと向かい、クロは疲れているだろうと思いスポーツ飲料をアイテムボックスから取り出し桶の中に入れ氷を魔力創造するとそれも中へ入れる。
「クロ~果実も冷やそう」
「この一杯の為に仕事頑張る~」
「キンキンに冷えてやがる~」
「悪魔的うまさ~」
キャッキャしながらクロのまわりを飛ぶ妖精たちの言葉にジト目をアイリーンに向け、向けられたアイリーンは顔を逸らす様に口笛を吹きながら葡萄の収穫を続ける。本人も異世界のネタを妖精たちに教え過ぎているという自覚があるのだろう。
「クロ、ぼさっとしてないで、こっちもアイテムボックスに入れて」
ビスチェに呼ばれ籠に入れた葡萄をアイテムボックスに入れ、今年も豊作だなと思いながら酒造りの日程を思案するクロ。そんな中、一味がブルブルと震える姿が視界に入り声を掛ける。
「ん? 一味は体調でも悪いのか?」
(体調不良ちがう……体がムズムズ……もうすぐ脱皮……)
念話で語り掛ける一味にクロは他の七味たちへ視線を走らせると同じように小刻みに体を揺らしながら果実を採取する姿が見え声を上げる。
「チーロンリンも来たことだし少し休憩にしましょう」
クロの提案に一同が手を止め集まり冷やしていたスポーツ飲料を口にし、クロは妖精たちの提案で冷やしていた洋ナシや葡萄を皿に乗せプルプルする七味たちへ配る。
「ほら、七味たちも脱皮するならエネルギーを使うだろ」
「ギギギギギ」
一斉に集まり両手を上げお尻を振り感謝を伝える七味たち。そこへチーロンリンも現れ挨拶を交わす。
「クロ! ポンニルが双子を産んだわ! どっちも可愛いの! 凄く可愛いの!」
ツインテールを揺らすコボルトのチーランダ。その横でやや大人びてきたロンダルとその母のリンシャンは微笑みを浮かべる。
「それは目出度いな。何か出産祝いとか考えないとだな」
「お祝いなら白ワインね!」
「ウイスキーもお祝いにピッタリだぜ~」
「あら、ブランデーだって素晴らしいわ」
ビスチェとエルフェリーンにキュアーゼが各々好きなアルコールを口にし、出産祝いに酒を送るのはどうなのだろうと思うクロ。
日本は出産祝いにお酒を送る事はタブーとされており、母乳を通じて赤ちゃんへアルコールが流れ送ることはまずない。
「うふふ、赤ちゃんがいるのにお酒を送ってはポンイルさまが飲めません。この果実を送るのはどうですか?」
「それなら持ち帰りやすいように果物を乾燥させてドライフルーツにして送るのはどうです?」
メリリとルビーのアイディアに皆が頷き、クロも何か送れないか考え口を開く。
「俺からはオシメや粉ミルクと哺乳瓶にアルコール除菌できるものとか送ろうかな。赤ちゃんの服や涎掛けとかはアイリーンが得意だろ?」
「ふっふっふ、そこはお任せ下さい! 最近は裁縫が楽しくて色々と作っていますし、ポンニルさんが産休の時から勝手に赤ちゃんに着せたい服を作っていますから!」
ドヤ顔をしながらアイテムバックから涎掛けやおくるみを取り出し見せるアイリーン。渾身のドヤ顔も披露するのであった。
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