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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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荒節の完成と海竜たちからのお土産



 七日間の燻煙を終えた荒節は真っ黒く誰もが失敗だという視線を向けるなか、クロはかつお節にナイフを当て軽く削ぐ。


「やっぱり表面が綺麗ですね。後は音かな……」


 断面を見つめ確認し、今度は荒節を荒節で叩くとキンキンと澄んだ音が鳴りうんうんと頭を上下させるクロ。


「荒節までは成功ですね。外側が真っ黒なのは燻した際に出る煙の成分のタールが付着しているからで、このまま保存すれば酸化や腐敗からもある程度防げます。使う時にまわりを削って使って下さい」


 クロの言葉に不安げだった褐色エルフたちからは歓声が上がりなかには涙する者もおり、その苦労が報われるようにとかつお節削り機を使い薄くスライスして器に移し替え、メリリとメルフェルンが配り味を確かめる。


「美味い! 前に食べた味とは少し違うが、これも美味いぞ!」


「ダンジョン産とは違うが、これはこれで美味い!」


「ちゃんと魚の味がするぞ!」


 完成を上げる褐色エルフたちの声が広場に木霊し、小雪たちと遊んでいたアイリーンやロザリアたちも集まりかつお節を試食し満足気に頷く。


「うむ、確かに少し違うかもしれんが美味しいのじゃな」


「これはかつお節よりもマグロ節に近い感じですか?」


「そうだな。かつお節と同じ作り方で色々な魚を試したら、もっと美味しい物が作れるかもしれないな。あとは出汁の取り方を説明しますね」


 大きな鍋に水を入れ沸騰させヴァルと共に火を入れていない竈へ移動させ削ったかつお節を入れ自然と沈むまで待ち、全てが沈殿してから三分ほど待ってから布でこしながら別の鍋に入れ替える。


「出汁の取り方は色々ありますがこうやってゆっくりこして、最後は絞らない方がえぐみが出ません。かつお節の旨味成分のイノシン酸は八十五度が一番旨味が出るので火からおろして入れた方が美味しい出汁が取れますよ」


「うふふ、こちらもお配りいたしますね」


 メリリとメルフェルンで出汁を配りその味に喜ぶ褐色エルフたち。ついでにクロが長ネギとこの地で採れたワカメを入れ、ダンジョン産の味噌を使い味噌汁を作りこちらも味見させる。


「美味いが少し物足りなさを感じるな」


「クロが作った味噌汁はもっと複雑な味がしたぞ」


「かつお節が少ないのかもしれないな」


 確りと味の違いがわかるのか者たち無さを口にするものが多く、アイリーンとロザリアもクロへ説明しろと言わんばかりに視線を向ける。


「自分がいつも使う味噌汁には他にも具材を入れていまして、代表的なのがこの魚粉ですね。イワシと呼ばれる小さな魚を乾燥して頭と内臓を取ったものを粉になるまですり潰したものです。忙しい時や朝は顆粒の出汁を使いますが、これにもそういった魚を使っているらしいです。他にもお味噌汁に旨味を足す方法としては魚のアラを焼いて出汁を取ったり、肉を入れたり貝類を入れても美味しいですよ」


 まわりが海に囲まれたこの地なら多くの魚が取れ更には貝やカニを養殖もしている事もあり、提案すると貝やカニを取りに走る褐色エルフの男たち。


「カニの味噌汁とか豪華ですね~」


「うむ、クロに出会うまでは見た目からカニを食べようとは思わなかったのじゃ」


 見た目がグロテスクな事もありカニを食べる文化があまりなく、海に面した国でも食べる所は少ない。そんな話で盛り上がっていると遠くから叫び声が聞こえエルファーレやエルフェリーンが広場へとやってきて遠くに見える岩礁地帯を指差す。


「クロ、海竜たちからのお礼が届いたぜ~」


「あんなにも大きな魚を取ってくるとか。海竜たちが常識というものを分かっていないと思ったけど、呆れるね……」


 エルフェリーンが指差す先には三頭の海竜がゆっくりとこちらへ向かって来る姿が見え、その後ろには更に大きな白く巨大なものを引く姿が見える。


「まるで島を引いて来たみたいですね……」


「あれほど巨大な生物は我も見たことがないのじゃ……」


 あまりの大きさに驚きを通り越して引くアイリーン。長く生きるロザリアも見たことがないという生物にクロは食べられるのか心配になり、エルフェリーンが口を開く。


「あれは北の海に住む島クジラと呼ばれる魔物だね。流氷と呼ばれる氷に擬態して身を守り、大きな個体だとこの島国よりも大きくなるぜ~」


「島クジラ……バブリーンの好物だと聞いたことがあるけど……本当に大きな魚だね……」


 エルフェリーンの説明にどこかの環境保護団体から苦情がくるかもと思いながらも、クジラは食べられるという事を知るクロは自然と笑みを浮かべる。


「あれだけ大きなクジラだと食べきるまでにこっちが死んじゃいそうですね~」


「ひとりじゃ無理だな。それよりもアイテムボックスに入るのか心配になるが……」


 以前にこの地で助けた商船よりも遥かに大きな島クジラの存在にクロは収納できるか心配になりながらも、刺身や天ぷらにカツにベーコンやクジラ鍋などの料理を頭に巡らせる。


「解体なら任せろ!」


「あれほど大きな魔物なら骨や魔石も貴重なものに違いない!」


「燻製にもできるな!」


「何をするにもまずは解体だぜ~みんな行くよ~」


 頼りになる褐色エルフたちとエルフェリーンやエルファーレは走り出し、アイリーンやロザリアも海岸へと向かう。


「朝からお土産を取りに行くとは言っていたが……竜種の考え方は大雑把というか大胆というか……」


「キュウキュウ?」


「ドラゴニュートも大雑把なのだ!」


 首をかしげていた白亜を抱き上げクロも海岸へと向かうのだった。






 巨大なクジラを自慢げに披露する海竜たちに若干呆れ気味だったが、解体が始まると慌ただしく動き出す一同。血抜きは海竜たちも得意なのか魔術を使い血管に水を入れて押し出し海が赤く染まり、ヴァルとアイリーンが赤くなった海に浄化魔法を掛ける。


「あれだけの血が流れたらサメが寄って来るから助かるよ~」


「サメはサメで美味いのだがな」


「サメが来たら狩るぞ?」


「多くのサメが来たら解体どころじゃなくなるからね!」


 海竜が海の頂点だという事もあってかサメなども捕食対象であり恐怖しない海竜たちをエルファーレが注意しシュンとする海竜たち。普通のサメならまだいいが魔物化したサメは大きく凶暴さが増し危険極まりない存在である。それに加え陸に上げることができないほど巨大な島クジラを前に海竜たちがサメを相手に暴れ回れば溺れる者が出かねないのだ。


「クロは切り出した部位を回収して、ロザリアとメリリにルビーは肉を切り出して、キャロットとキュアーゼたちはクロに運んでね~ビスチェは精霊にお願いして波が立たないように宜しくね~」


 エルフェリーンが指示を出し解体が始まると血まみれになりながらも武器を取って肉を切り裂く乙女たち。褐色エルフたちも手伝い分厚い皮に切り込みを入れ解体を手伝い海竜たちは四方から噛みつき揺れない様に陸クジラを水平に保ち、バブリーンは近寄って来る魚を威嚇して遠ざける。


「肉が食べ放題なのだ~」


「キュウキュウ~」


 ご機嫌い巨大な肉の塊を運ぶキャロット。グワラも手伝いクロの前には巨大な肉が集まり片っ端からアイテムボックスに収納する。


「胃から金貨が出てきたぞ!」


「こっちはイカだ! まだ動くぞ!」


「魔石が出た!! これほど大きな魔石は初めて見るぞ!」


 クジラの内部からは肉以外にも色々なものが発見され驚きながらも回収し、解体が終わる頃には日も落ち褐色エルフたちは解体されたばかりの肉を焼き煮て酒が配られ、夜通し盛り上がるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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