デザートと増設
「これが肉だというのか……信じられん……」
「ツルツルのプルンプルンです……」
「歯がなくても食べられそう……」
「シンプルな料理も美味いが複雑な香りと味がする料理もまた美味い……どうだ、私が誘った意味が分かっただろう?」
バブリーンが自慢げに人化した海竜たちへ声を掛け、頭を縦に振る姿に微笑みを浮かべるクロ。崩れる寸前まで煮たすね肉を使ったカレーは好評で缶ビールと交互に口に運び夕食を楽しむ海竜たち。他の者たちもトロトロな脛肉を味わい表情も溶かしている。
「精霊王に味がわかるとは驚きだよ! 僕は誤解していたのかもしれないね!」
「あら、我だって貴女の事を誤解していたわ。我より少し先に生まれたというだけで鼻持ちならないかと思っていたけどこうして話をすれば案外接しやすいですし、我が契約したクロを大事にしているのも評価に値しますわ」
「そりゃ、僕が拾ってきたお気に入りだからね~ほら、カレーにはビールだぜ~このシュワシュワがカレーの風味を引き立てるんだ」
あれほど仲が悪かったエルフェリーンと精霊王は同じテーブルに付きカレーとビールを堪能し仲を深めている姿に安堵のため息が漏れるクロ。
「ダンジョン神さまの時も思いましたが味覚があるのですね~」
「クリスタルのような体に花の咲く蔓が巻いてあるからどこが味覚か気になるが、味の話もしていたから解るのかもな」
器用に蔓を使いスプーンでカレーをクリスタルの体に接触させ吸い込まれるように消え、缶ビールも同じように傾け摂取する精霊王。飲み終わると同時に缶もその体に吸収されゴミが出ず、ある意味エコなのかもしれない不思議生物である。
「クロ~美味しい~この美味しい~」
「キュウキュウ~」
「おかわりなのだ!」
ラライと白亜にキャロットが揃っておかわりに現れクロが相手をしながら盛り付け、その後ろにはバブリーンを先頭に海竜たちも並び急ぎおかわりを盛る。
「海竜さんたちもよく食べますね~キャロットさんもですが……もう五杯目ですよ……」
「まだまだあるからアイリーンもおかわりするか?」
「いえ、私はもう大丈夫ですよ。それにデザートがきっと出ると信じていますから~」
ニヤリと微笑むアイリーンにクロは一瞬カレーを盛る手を止めるがすぐに再起動して海竜たちにおかわりを渡す。
「デザートとか考えていなかったな……」
「私たちが戻った時にはもうスイカがなかったですよね~」
ジト目を向けるアイリーンに体をビクリと震わせる海竜たち。塩を掛けたスイカを食べつくした自覚はあるようでカレーを受け取るとそそくさとその場を後にする。
「ならスイカでいいのか?」
「いえ、そこはクロ先輩のセンスに任せます! 腕の見せ所ですね!」
ニヤリと口角を上げるアイリーン。センスという難題を押し付け楽しんでいるのだろう。
「そうなると……」
ぶつぶつといいながら考え込むクロ。カレー係は早々に食べ終えたメルフェルンが代わりキッチンとして使っている作業台へ移動する。
「僕も食べ終わりましたので手伝いますね」
シャロンが現れ鼻息を荒くするアイリーンを視界に入れないようアイテムボックスを起動させたクロはオレンジを取り出し「なら、これを剥くのを手伝ってくれ」と指示を出し頷くシャロン。
「こうやって上下を切り落として皮を剥いたら薄皮にナイフを入れてやれば果肉が取り出せるからな」
「はい、頑張ります」
器用にナイフを使いオレンジの果肉を取り出すクロ。シャロンも普段から手伝っている事もありフィロフィロをキュアーゼに任せ手を動かす。
「アイリーンはこっちを手伝ってくれ。開封してハンマーで軽く叩いて棒は取り外してくれ」
「はいはい、任せて下さいって! これはそのまま食べるから美味しいのでは?」
「そのまま食べたらいつもと変わらないだろ」
「それはそうですが……ガリガリ食べたかったです……あっ、当たった!?」
クロの指示に従いハンマーで某ガリガリとしたアイスを砕くアイリーン。カレーとビールに夢中だった者たちも新たに料理する姿を視界に入れ、おかわりに行くか迷っていたメリリは次があるのならとおかわりはせずに作業を手伝いに向かう。
「うふふ、私も手伝いますよ~」
「では、グラスに砕いたそれを入れて下さい。シャロンも皮が剥き終わったらグラスに入れてくれ」
「クロ先輩は器用にリンゴの皮を剥きますね。ピーラーよりも綺麗に剥けている気がします」
「そうか? リンゴは小さな角切りにして塩水に付けてからグラスに入れて子供用は完成だな」
「青い見た目が綺麗ですね」
グラスには某ガリガリしたアイスが砕かれオレンジとリンゴが入り、普段アルコールを飲まないキャロットとラライに白亜の下へと運ばれる。
「大人用は違うのですか?」
「ああ、大人はこれにウイスキーかジンを注いで食べるんだよ。色味的には透明なジンの方がお勧めだが、好きなお酒を入れても美味しいと思うぞ」
クロの言葉に訝しげな視線を向けるアイリーンだったが、他の者たちはすぐに立ち上がり長い列を作る。
「見た目が美しいのじゃ……」
「これは美味しそうだね~」
「海中から月を見上げたような仕上がりなのだな」
真っ先に並んだロザリアがジンを注ぎ入れ口に運び目を見開き、エルフェリーンはウイスキーを入れ精霊王と一緒に口にして談笑を続け、海竜たちはその見た目から海を連想し口に運ぶ。
「ガリガリなのだ!」
「キュウキュウ~」
「これも美味し~い!」
アルコール抜きでも楽しめる味に喜びザクザクとした食感と甘さを楽しみ、大人たちは少し甘めな味とアルコールに頬を染める。
「う~ん、見た目は美しさもあって大人のデザートという感じですけど……」
クロの作ったデザートにジンを注ぎ口に入れたアイリーンだったが気に入らないのか腕組みをして眉を顰める。
「ん? イマイチだったか?」
「いえ、クロ先輩のそのしたり顔が気に入らないだけです! ハーレム野郎を困らせようとしたのに皆さんうっとりとしながら食べて……もっとシャロンくんの気持ちも考えて下さい!」
結局は自身の欲を満たしたいアイリーンなのであった。
「三日目の燻煙も成功ですね」
「初日に比べて小さくなった」
「色も煤が付きクロ身が増したな」
翌日、新たに完成した燻製場では燻し作業を終えたクロが燻煙の様子を確認していた。
「ダンジョン神さまにかつお節を献上したのでダンジョンからも産出しますが、ここで作れば名産品として使えますが……少し魚を入れ過ぎじゃないですか?」
燻煙する場所は棚型でそれなりの数を燻すことができるのだが、かつお節に加え他の魚を燻製にしたいのか三枚に下ろした魚が網にびっしりと並んでいる。
「色々な魚を燻してどの魚が美味いか試しているぞ」
「白身も美味いが赤身も美味い」
「どれも酒に合って皆が喜んでいるぞ」
褐色エルフたちの声に共感するクロだったが心を鬼にして口を開く。
「あまり量を入れると中まで火が入らない事もありますし、煙が行き届かない場所も出てくるのでもう少し入れる量を控えましょう。ああ、魚以外にも貝や肉も燻製にすると美味しいですよ」
その言葉に一瞬落ち込むも、貝や肉といった言葉に反応して顔を上げて目を輝かせる褐色エルフたち。
「これはもう増設するしかないな!」
「木々を集めるぞ!」
「整地するぞ!」
「竹で棚を作るぞ!」
設立三日目にして増設が決まる燻煙場。海竜やキャロットも手伝い新たな燻煙施設が隣に建設されるのであった。
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