サーフィンと不機嫌
機嫌が良い精霊王はダンジョン神からの頼みを快く引き受けサキュバニア帝国に新たなダンジョンを造る事が決まり喜ぶキュアーゼ。ダンジョン神が立体映像でサキュバニア帝国の地図を作り出し地脈との兼ね合いを見て場所を決める。
「この場所なら交通の便もよく帝都とも近いわ。きっと栄えるはずよ!」
「サキュバニア帝国には人族の冒険者も多く訪れますし、新たなダンジョンが生まれたとなれば産出した物も獣王国との取引にも使われるかもしれませんね」
キュアーゼが喜びシャロンも微笑みを浮かべ、ダンジョン神はクロから荒節と呼ばれるカビを使わないかつお節と、本枯れ節と呼ばれるカビを使いさらに水分を抜いたかつお節に、キュアーゼから頼まれていたフルーツを使ったケーキやブランデーなども渡し、今後はダンジョンの宝箱から産出されることになるだろう
「ではクロ殿、我々はこの辺りで引き上げますが、ダンジョンの攻略も宜しくお願い致します」
深々と頭を下げるダンジョン農法神と前傾姿勢になり頭を下げているだろうダンジョン神が転移の魔法陣の光に飲まれ姿を消し、残ったクロたちは海での遊びを再開する。再開するのだがエルフェリーンはクロから離れず、精霊王はクロが魔力創造したものを確かめるように花の咲いた蔦で持ち上げクリスタルに近づけ視認しているのか次々に物を変える。
「どれもクロが魔力創造したのか魔力の物質化ですわね」
(精霊王はあまりクロに迷惑を掛けない様になさいね。クロがこの世界にもたらす恩恵は精霊たちに匹敵すると心得なさい)
女神シールドに浮かぶ文字に顔を引きつらせるクロ。事実、クロが神たちに奉納した料理や酒に、ダンジョン神が採用した料理や調味料、ゴブリンやオーガが作る味噌や醤油に海水から作った塩や米に日本酒。どれもクロが提供したり教えたりとこの世界に新たな文化を生み出している。
ターベスト大国では王妃たちを巻き込み魔道回路という新たな動力を開発しレーシングカートも量産され、その技術は交通の手段や貿易の足の手段として今後活躍して行くだろう。
「精霊王にダンジョン神が現れたことにも驚いたが神と会話できる魔術とか、クロは何者なのか……」
「白亜さまを預けられた時点で異質というか異常というか……」
「美味い酒に美味い料理にも驚いたが、私は今後もこれほど驚くことはない気がするね……」
「同感……」
クロの女神シールドや神たちとの交流に呆れながら話す海竜たち。海竜という存在は強力な力を持つのはもちろんだが、それ以上に海の秩序を重んじている。それは海を管理する神からの命を受け動いているのだが、その神々すら虜にする料理や交信する技術を持つ事に驚きながらも呆れているのだ。
神々からの神託として贈られるメッセージを受ける者は多くないが存在する。が、こちらから神々に意見できるクロは異質といっていいだろう。
「キュウキュウ~」
「あははははははは、楽し~い~」
「早いのだ~」
海竜たちをこの場へ誘ったバブリーンは姿を本来の海竜へと戻してその頭に白亜とラライとキャロットを乗せ、浅瀬から岩場へと高速船のように移動し喜ばせている。そのお陰で多少波が荒くなった海岸ではアイリーンとキュアーゼとシャロンがボディーボードを楽しみ、褐色エルフたちから羨望の眼差しを受けている。
「板を使って波に乗っているぞ!」
「アレは楽しそうだ!」
「アレは何だい!? クロ! アレは何だい!!」
「アレはボディーボードといって専用の板の上に乗って波と戯れるスポーツですかね。板のサイズは色々あって、ちょっと待って下さいね」
目をキラキラとさせたエルファーレからの質問に答えながら魔力創造を使いサーブボードやボディーボードにウインドサーフィンなどを創造する。
「どれも波に乗る事ができますが、帆が付いたものは風がないとダメだと思います」
「それなら風の精霊にお願いすれば楽しめるわね!」
風の精霊と水の精霊に説教していたビスチェが笑みを浮かべウインドサーフィンを持ち去り海へ向かい、残った褐色エルフたちに簡単な説明をしてサーフボードやボディーボードを持ち海へと走るエルファーレと褐色エルフたち。
「おお、ビスチェが早速波に乗ったな」
「うむ、沖へと向かっておるのじゃ」
「うふふ、風を受けて進むのですね。クロさまのお陰で皆さま楽しそうです」
視線の先にはウインドサーフィンを初見で乗りこなすビスチェとその頭の上で楽しそうに翼を広げ風を送る鶯に似た風の精霊。水の精霊はビスチェの足元に佇み出番を待っている。
「ラライたちも楽しそうですね」
「バブリーンさまの頭の上に乗るとか恐れしらずというか……」
海竜ということもあり恐怖の対象なのだが、その頭の上でキャッキャと喜ぶラライと白亜にキャロット。それを青い顔で見つめるルビー。
「落ちてもバブリーンさんが付いているから大丈夫だと思うが……エルファーレさまも波に乗りましたね」
「うむ、あれはあれで楽しそうなのじゃ」
「アイリーンも始めてやると言っていましたが器用ですよね。サーフィンとか難しいと聞いたことがあるのに……」
「そこは普段から飛ぶように糸を使って移動しておるのも関係あるのじゃろう。バランスや体幹などが優れておるのじゃな」
「うふふ、細かなバランスを使うのであればダイエットにも効果的かもしれませんね。私もお借りします」
メリリが一番大きなサーフボードを持ち海へと走り、ロザリアはビーチチェアに腰を下ろしてグラスの縁にオレンジが刺さる南国感のあるジュースを口にする。
「こっちの果物も美味しいですし、こっちの不思議な形をした物も美味しいですね。種が面倒ですがシャキシャキとした歯応えが癖に……」
ロザリアの横では冷やした果物を口にするメルフェルンの姿があり、ボディーボードを楽しむシャロンと果実を交互に堪能している。
「このスイカと呼ばれる果実に塩を掛けると美味しいと聞いたのじゃが……アレはアイリーンの嘘なのじゃろ?」
「塩を果物にかけるとは思えません……あむ、この味と食感には幸せを感じさせてくれますね……」
「自分が暮らしていた国では塩を掛ける人もいましたよ。塩を掛けるとより甘みを感じるとかで。試しますか?」
クロの言葉に訝しげな表情を浮かべる二人。
「スイカは体から水分を出すカリウムという物質が多くそれを補うために塩を掛けるというのも聞いたことがありますね」
アイテムボックスから振りかけやすい容器に入った塩を取り出したクロはクーラーボックスから半身のスイカを取り出して切り皿に盛り塩を軽く振りかける。
「ほ、本当にかけるのじゃな……」
「これほど美味しい果物を冒涜すると神さまから天罰が下りますよ……」
どちらも信じられないといった表情を浮かべるがクロが口に入れ頷く姿に、二人も興味が湧いたのか口に入れる。
「うむ、これはこれで美味いのじゃ。甘さだけではなくしょっぱさが加わると味が締まるのじゃな」
「前に食べたポテチにチョコが付いたお菓子のような味ですね。甘さの中にしょっぱさが入ると無限に食べられます」
ふたりともその味が気に入ったのかひょいひょいと口へ運び、無くなる前にクロもフォークでひとつ刺すと未だ離れないエルフェーンの口元へと運ぶ。
「師匠も如何ですか?」
「………………」
数秒の無言であったがエルフェリーンも興味を引かれていたのかパクリと口に入れると目を見開きスイカの乗った皿へと視線を向けるが既に食べ終えており、ぽっかりをと口を開けフルフルと震え、クロは急ぎ新たにスイカをカットして塩を振る。
「これは美味しいよ! 甘いだけじゃないからお酒にも合うかもしれないぜ~」
キラキラした瞳をクロへと向けるエルフェリーン。その機嫌が直った事にクロは無縁を撫で下ろすが背中に突き刺さる視線に振り返ると海竜たちもキラキラとした瞳を向け、酒が出ると本能で感じ取ったのか立ち上がりゆっくりと歩みを向けるのであった。
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