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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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契約と滅んだ国



ク リスタルの体に手で触れると光が溢れて目が開けられないほどに膨れ上がり、クロは目を閉じながら精霊王の魔力を感じ取る。とても温かなでありながらも力強い魔力を手で、体全身で感じ、数秒ほどして光が消えるとラライや褐色エルフたちの歓声が上がりゆっくりと目を開くクロ。


「契約完了ですわ。受け入れてくれたことを嬉しく思いますわ」


 どこか優しげな声を耳に入れながらもクロはクリスタルとそのまわりに蔦を張る花々のどこから声を発しているのだろうと思案する。


「自分が初めて精霊と契約するのが精霊王さまだという事に驚きですが……あの、師匠……」


 口を尖らせ見つめていたエルフェリーンは話し掛けられるがそっぽを向き、クロは「参ったな……」と口にしながらも視界の中に増えた精霊たちの姿に、これも精霊王さまと契約した影響だろうと思いながらも視線を走らせる。


「鳥に魚に亀に半透明な花に、小さな光がこんなにも多く……」


 新たに見える世界を口にするクロ。


「それらは全て精霊ですわ。ダンジョン内は隔絶されている影響もあり精霊自体が少ないですが、外に出ればもっと多くの精霊を視認できますわ」


 クリスタルに絡みつく花々が咲き乱れご機嫌で声を発する精霊王。


「クロ! すごい! 精霊王さまと契約するとか! 何かすごい!」


 ラライの純粋な叫びにクロも契約の意味を理解してはおらず同じ気持ちだなと思いながらも気持ちを切り替え、煮込んでいた鍋へと足を進める。


「うぅぅぅぅ、クロがあんなのと契約して……僕はどうしたらいいか……」


「あんなのって、精霊王さまとの因縁が深いようですが……黄金の果実と魔力回復薬の話ですか?」


 大鍋の様子を確認しながらエルフェリーンの愚痴を拾うクロ。


「だって、精霊王とか名乗っているけど、やっている事はただの魔力泥棒だぜ~魔力を循環させているといえば聞こえはいいけど、魔法や魔術を使う度に放出される力を盗んでいるんだ!」


 拳を握り締め力説するエルフェリーン。クロにはその言葉がしっくりこないのか灰汁を捨てながら精霊王へと視線を向ける。


「あら、そうしなければ魔法で生み出した炎は消えることなく燃え続けますわ。それこそ世界に初めて火がもたらされたあの日のような悲劇を起こしたいのかしら?」


「原初の炎の話とは別だよ! 精霊王が魔力を制限したあの日から僕の魔力が制限されたと言っていいからね!」


 口を尖らせ精霊王を見据えるエルフェリーン。


「そうでもしないとエルフェリーンが強すぎるからだね~まったく、いつまでも子供だね~クロもそう思うだろ?」


 あまり会話に参加していなかったエルファーレからの言葉にクロは頬をかきながら困った顔を浮かべる。


「僕は僕なりに折り合いをつけたけど……精霊が魔力を制限するのには今でも反対だ! 魔法や魔術はもっと自由であるべきで、」


「それこそ帝国どころか世界を破壊しちゃうだろ。制限されたことで守られているのも事実だからね~その煮込んでいる肉はどんな料理になるのかな?」


 エルフェリーンの言葉を遮り発言したエルファーレは弱火で煮込まれる一口大の肉が躍る大鍋を覗き込む。


「これですか? まだ決めていませんがカレーかビーフシチューか迷っていましたが、カレーなら皆さん喜びますよね?」


「甘口なら……」


「私も甘口がいい~」


「キュウキュウ~」


 ぼそりと呟くエルフェリーン。ラライと白亜も甘口がいいのか飛び跳ねて喜び、キャロットはカレーというだけで涎が口内に溢れお腹を鳴らし、その奥ではビスチェが契約している風の精霊と水の精霊を相手に説教をしていた。


「つまみ食いはダメだっていったのに、またしていたのね。それにクロを安全な所にとお願いしたのに精霊王さまの前に連れて行くとか……あの場合は精霊王さまが敵だから遠ざけるのが普通なの。それなのに……むぅぅぅ……」


 ビスチェも口を尖らせ青い鳥の姿をした水精霊とうぐいすのような緑色した鳥の姿の風の精霊は二匹で寄り添いながら申し訳なさそうな仕草で話を聞き、モグラの姿をした土精霊は我関せずといった態度で地面から半分ほど顔を出している。


「どちらにしても丸く収まって良かったですね~」


「うむ、精霊に敵対するのは愚策なのじゃ……精霊は姿が見えないのはもちろんじゃが、どこにでも存在するのじゃ……精霊を怒らせ消えた国があるほどじゃからな……」


「うふふ、おとぎ話の定番ですね。精霊を捕まえその力を悪用した魔術師とその国が一夜にして砂漠と化した……本当なら恐ろしいお話です……」


「うむ、緑豊かな地から全ての精霊が消え失せ残ったのは乾いた土……人が暮らせるような場所ではなくなり国が滅び、砂の下には今でもその国と城が残されておるのじゃ……」


 アイリーンが安堵しながらロザリアと共に椅子に腰かけ、メリリがおとぎ話の話を思い出して口を出す。


「懐かしい話だね~」


「あれは僕が原因じゃないよ!」


 ジト目を向けエルフェリーンへ視線を送るエルファーレ。その様子におとぎ話を知る皆が視線を向ける。


「僕は精霊を観察する方法を聞かれたから精霊が好む魔力草と一時的に精霊を閉じ込められるオリハルコンの檻の作り方を教えただけで……観察したいというから教えただけだもん!」


 子供のように頬を膨らませるエルフェリーンに、クロは魔力創造でオレンジジュースを創造すると封を開けグラスに注ぐ。


「それでも貴女の行いが原因で滅んだのも事実ですわ。今でもその地には精霊は寄り付かず草すら生えない不毛の地……もう三千年以上も前の事ですが、精霊に取っては耐えがたい事実ですわ……」


「オリハルコンで檻を作る……魔力を遮断する檻……精霊からしたら干渉できない檻だから逃げられないのですか?」


「ええ、その通りですわ。精霊は魔力を集めどこにでもその存在を溶け込ませることができますが、オリハルコンとは相性が悪くその身をすり抜けることができません……オリハルコン自体が魔力を拒絶することに起因するのですが、それを利用し精霊を捕らえその力を抜き取り悪用したのですから当然の報いといえますわね」


「しかも契約精霊とその術者も騙していたからね……精霊が捌いてから知ったけど、僕に手伝わせてほしかったよ……」


 俯くエルフェリーンへクロがオレンジジュースを差し入れ受け取ると一口含み飲み込み微笑みを浮かべ、それが羨ましいのかクリスタルの体を進めクロと近づきグイグイと寄せる精霊王。


「おお、アレは伝説の当てているのよ! ですね!」


 アイリーンの叫びに何を言っているのかコイツと思いながらもオレンジジュースを同じようにグラスに入れるクロ。その間にもグイグイと無言で迫るクリスタルの我儘ボディーに、ひんやりとした冷たさが心地いいなと感じつつも用意を進めて花が咲く蔦へ手渡す。


「私の契約者はとても気が利きますわ」


 先ほどもペットボトルで渡し吸収するように同じものを摂取したのだが、グラスに入れられたことが嬉しいのか花を咲き乱して喜ぶ精霊王。


「君は僕のついでにクロから施されたと気が付くべきだぜ~クロは僕の為に用意してその残りを貰ったに過ぎないからね~」


 そういって立ち上がりクロに抱きつくエルフェリーン。それを見た精霊王も同じようにクロの背面にそのクリスタルボディーをくっつける。


「クロ先輩はモテモテですね~無機物からも愛情を貰うとかレベルが高いですね~」


 アイリーンからの言葉に苦笑いを加速させるクロであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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