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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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精霊王



 クロの視界に入った発光する不思議な花はニ十センチほどで青く透明感のある花びらが美しく、何よりも不思議なのはクリスタルのような透明感を持つ葉や茎。薄っすらと輝いていることもあり目を奪われたクロを不思議に思い視線の先へと向ける一同。


「ん? クロ先輩は何を見て……綺麗な花ですね……」


「花? げっ……アレは、」


「とう! ですわ!」


 アイリーンもクロの視線の先にある花を見つめその美しさに目を奪われるが、エルフェリーンがすぐに天魔の杖をアイテムボックスから出し、薄っすらと輝いていた花が声を上げブレるように姿を消し、次の瞬間にはクロの目の前に姿を現す。


「クロ! 離れて!」


 席を立ったエルフェリーンが叫ぶが急に目の前に現れた花に驚いたクロは思わず身を仰け反らせ、クリスタルのような花が輝きを増し光に包まれるクロ。


「おほほほほほほ、我こそは精霊たちの統べる女王ですわ~」


 光が治まったと同時に姿を現した叫ぶそれに思わず息を呑むクロ。エルフェリーンは天魔の杖を掲げヴァルが危険だと判断したのかランスを構えて姿を現す。が、高笑いを止める心算はないのか、それともエルフェリーンとヴァルを敵として認識していないのか余裕の表情を浮かべる。


「距離を取った方がいいですよね~」


 誰しもが急に現れたそれに驚き見惚れるなかマイペースに口にするアイリーンが動き、糸を使ってクロを遠ざけようと背中に張り付け後方へ飛ばし、少し離れた浅い海へと転がる。


「なぜ邪魔をするのですの?」


 先ほどとは違い低い声でアイリーンへ問いかける精霊たちの女王に椅子から飛び退き白薔薇の庭園へ手を置き、他の者たちもテーブルから離れ構え、別のテーブルで食事をしていた海竜たちや褐色エルフたちも異変に気が付き手を止めて立ち上がる。


「サンダーアロー×50」


 エルフェリーンが無詠唱で放った雷の矢を受け更に輝きを増すが効いていないのか特にリアクションを取る事もなくすべて受け切り、クロへと体の向きを変え進む。


「これだから嫌なんだよ!」


「エルフェリーンさまの魔法が通じてないですけど……」


「精霊の女王だからね。今度はこれで足を止めさせる!」


「協力します!」


 エルフェリーンが魔剣をアイテムボックスから取り出し魔力を通しながら本来の姿へと変わり黄金の瞳が輝き、アイリーンも下半身を魔化させ白薔薇の庭園を抜き糸を飛ばし、ランスを構えたヴァルが妖精たちの女王へと突きを放つ。


「ヴァルキリーですわね」


 目の前に迫ったランスの一撃を透明なシールドで受けながらヴァルの種族名を口にし、更には後ろから放たれたアイリーンの糸をシールドで防ぎ、飛び掛かった本気モードのエルフェリーンの一撃さえも透明なシールドで受けるその姿に誰もが目を見開き、浅い海から立ち上がったクロもまた驚きの表情を浮かべる。


「師匠の一撃を耐えるとか……」


 クロから漏れた言葉に反応するようにビスチェが精霊たちに声を届ける。


「クロを安全な所へ運んで!」


 ビスチェからの言葉に一斉に動き出す風の精霊と水の精霊。足元の水がクロを持ち上げ風の精霊が背を押しクロを安全な場所へと運ぶ。

 運ぶのだが、精霊たちが選んだ安全な場所は自身たちの王の前であり、口をあんぐりと開け固まるビスチェ。他の者たちも叫ぶようへ精霊にお願いしたこともあり耳に入り同じように驚き、ランスを何度も打ち付けていたヴァルがクロを助けようと手を伸ばすが衝撃波のようなものを受け弾き飛ばし、同様にエルフェリーンをも吹き飛ばし目の前のクロを見据える精霊の王。


「水精霊に風精霊、ご苦労ですわ。クロよ、我と契約しなさい」


 優しく諭すように話す精霊王。クロはビスチェが契約する精霊たちから解放されその場に佇み、目の前の不思議生物について考える。


 どう見ても半透明な大きなクリスタルに装飾された花……ダンジョン神さまのような不思議生物……これは厄介な事になったのかも……


 視界の奥で吹き飛ばされたヴァルとエルフェリーンが空中で態勢を立て直した事がわかり危機的状況な気がするが、妙に冷静な自分に驚きながらも女神シールドを発動するクロ。


(エルフェリーンとヴァルは矛を収めなさい。アイリーンもよ)


 大きく展開した女神シールドからの吹き出しの文字を見て白薔薇の庭園を鞘に戻すアイリーン。エルフェリーンとヴァルも渋々といった表情でランスと魔剣を収納し、表情のない精霊王のまわりの花が増える。


「あの、自分と契約しろと言われたのですが、詐欺とかじゃないですよね?」


(ぷふっ! 詐欺って、酷いこと言うわね。近いものがあるかもしれないけど……でも、最近クロが困っている事があるでしょう?)


「困っているのは今ですけど……」


(そうかもしれないけど……そうじゃなく、ほら、魔力創造したものが消えてなくなったり、食べ散らかされていたり、私に奉納する予定だった海鮮丼が届かなかったり……ねぇ~)


 訝しげな視線を送り朝食の海鮮丼が食べたかったと訴える女神ベステル。


「海鮮丼は置いておくとして、食材やお菓子が消えることはありましたね。たまにヴァルが取り戻してくれましたがアレと関係があるのですか?」


 クロが言うようにここ数日、魔力創造した食材や酒にお菓子が消える事が度々あり不思議に思っていたが、取り返して来たヴァルからの証言で犯人は特定されている。


(クロの魔力創造は物質を魔力で作り出すスキル。逆に言えば全て魔力で作られたものであって精霊ですら食すことができるのよ……それに気が付いた精霊がつまみ食いしているっていったところね)


 女神シールドに移る女神ベステルはビスチェが契約している鳥型をした精霊へ視線を向け、視線を受けた精霊はビスチェの後ろへと隠れる。


「私は前から注意してたけど……また盗みを働いていたのかしら?」


 ビスチェの低い声に体をビクリと震わせた二匹とその場を離れようと飛び立ち、精霊王が光を発すると二匹はクロの前に降り立ち頭を下げる。


「我は精霊の王ですわ! 我と契約すれば王の名の下に精霊たちがクロへ迷惑を掛けることはなくなるのですわ!」


 ドヤ顔を浮かべていそうなのだがクリスタルでは表情を理解するのは難しく困った顔をするクロ。ただ、クリスタルのまわりに生えた蔦から伸びる花は咲き乱れておりこれがドヤ顔の代わりなのだろう。


「クロ! 精霊王は悪戯好きで有名だ! 安易な契約は結ぶべきじゃないよ!」


「主様! 精霊が悪さを働くのを防ぐのも私の使命! どうかお断りを!」


 クロの前に戻ってきたエルフェリーンとヴァルからの言葉にどうしようかと腕を組み思案するクロ。


 師匠がとヴァルの言い分も分かるが、女神さまと精霊王さまの言い分も通っているような気がするし、どうしたら……精霊たちのつまみ食いも大した被害ではないし、それなら白亜やキャロットのつまみ食いやフィロフィロと小雪の味見させてほしいという視線も同じだよな……


「どちらの言い分も正しそうで……師匠と精霊王さまは何か因縁でもあるのでしょうか?」


 クロの言葉にエルフェリーンと精霊王は互いに向き合い声を重ねる。


「こいつが悪い!」


「エルフェリーンが愚かなのですわ!」


 互いに睨み合う姿にクロは何かあったのだろうと推測し、助けを求めるべく女神シールドへと視線を向ける。


(エルフェリーンは精霊王が大事に育てていた黄金の果実を盗み、精霊王はエルフェリーンが初めて作った魔力回復薬を盗んだのよ)


「どっちも窃盗犯ですね~」


 ふき出しに浮かぶ文字を見たアイリーンからの感想に深く頷くのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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