ヒカリゴケの採取
女神シールドを明かり代わりに進み薄ぼんやりと光りを放つ場所まで到着すると、辺りは発光する大きな岩が無数にあり岩の林とでも呼べそうな場所に辿り着く。
「この光を発している小さな苔がヒカリゴケだね。これを岩から剥がして布の袋に詰めてくれ」
エルフェリーンは簡単に説明すると天魔の杖を掲げながらその場を離れ、この岩場に来る途中から後をついて来てきた魔物へと向き直る。女神シールドとヒカリゴケで明るさのある場所から暗闇に目を向けると赤く光る瞳と魔石が輝く魔物たち。
「岩蟹に岩蛇かな。僕たちはヒカリゴケの採取さえ安全にできればいいのだけれど、ライトニーーーーーーーーーーングアロー!」
無数の光が天魔の杖から発射されると辺りを照らす光の矢。岩蟹は威嚇して上げていた大きな爪が爆ぜ、岩蛇は頭に命中し四散する。
天魔の杖の角度を変え辺りを照らしながらガトリングガンのような連射で魔物を一掃するエルフェリーンに、手が止まり口を開け驚きの表情で固まったまま視線だけが動くルビーに、クロは俺もはじめて見た時は同じリアクションを取ったなと思い出しながらも草刈り鎌を岩に滑らせヒカリゴケを採取して行く。
「エルフェリーンさまが凄い人だとは話に聞いた事がありますが、ここまで圧倒的な魔術を使う人なのですね……」
「あれは師匠のオリジナル魔術で矢のサイズを小さくして連射能力を上げたって自慢されたな。俺にとっては魔術を自在に扱えるだけでも凄いのに、更に自慢されて少しだけイラッとしたのを覚えているよ。ほらほら、見ながらでもいいから採取、採取」
「は、はい! ヒカリゴケを袋に入れて集めるんですよね」
「ああ、刃物を持っているから見ながらでもはダメだったな。手元を見ろよ」
「はい、気をつけます」
「クロが先輩面してるわよ」
≪クロ先輩は意外と厳しい先輩ですね~≫
ヒカリゴケを採取しながらクロをいじるビスチェとアイリーン。草刈り鎌を使いながら慣れた手つきで皮袋へと入れるビスチェと、若干乱暴に素手でむしり取り革袋に詰めて行くアイリーン。
「やった! 岩蟹の腕がドロップしたぜ! 今夜はカニ鍋だよ!」
辺りを警戒しながらも右手に天魔の杖、左手には二メートルほどもあるごつごつしたトゲ付きの蟹の手を持って来るエルフェリーン。数十キロはあるものを左手一本で持ち上げる事ができるのは重力を操作する魔法を使っているからである。
この魔法は建築や土木工事などにも使われる魔法であり、重いものを一時的に軽くする事ができる。
「立派な蟹爪だな……というか、こんなのに襲われたら命がいくつあっても足りないだろ……」
「岩蟹の殻はガンレッドに加工すると丈夫で赤く光沢のある物ができますよ! クロさんが付ければカッコイイと思います!」
「それよりもカニ鍋よ! カニの出汁は最高だし、今日みたいに寒いと鍋が食べたいわね!」
≪カニは無言で食べるべき!≫
そんな話を耳に入れながらもクロはまわりを警戒しつつ草刈り鎌を動かしヒカリゴケを採取して行く。時折、女神シールドを動かし岩の間などを照らし魔物が隠れて近づいていないか確認する。
「ほらほら、みんなもクロを見習って採取してくれ。僕が警戒を続けるから五袋は欲しいから早く集めて終わらせたらカニ鍋をクロに作ってもらおうぜ!」
「味噌味の鍋がいいわ!」
≪〆はうどんがいい。いや、雑炊もいいかも≫
「キュウキュウ」
「カニ鍋……味噌……クロさんが作るのだから美味しいに決まっていますよね!」
嬉しそうに話す一行にクロは採取を続けながら軽いため息を吐きながらも、頭の中ではカニ鍋をシミュレーションして一緒に煮込む具材を思案する。
そこからは魔物も現れず一時間ほどヒカリゴケを採取して革袋がパンパンに膨れ上がりクロのアイテムボックスへと収納すると、女神シールドに照らされた大岩に違和感を覚えるアイリーン。
≪ん? 何か変な跡がある?≫
他の岩よりも大きなその岩についた跡を手でなぞり確認すると細い溝が長方形に入っており、それがドアの形に見えたのだ。
「変な跡? 本当だね、これは人工的に付けてあるのかな? でも、ダンジョン内での破損や採取されたものなどは時間を掛けて治るはずだけど……ヒカリゴケが生えた跡があるのを考えると……ダンジョンに干渉されてないのかな……」
「罠って事はないのかしら?」
ビスチェが頭を傾げながら溝を見つめ軽く押してみたり叩いてみたり確認していると、ルビーがある事に気が付く。
「これって紫水晶ですね。ほら、こっちにも小さなアメジストが混じっていますよ」
「本当だね……紫水晶が混じっているのか……ん? ここのヒカリゴケを取ったのはクロかな? この文字みたいなのはクロの悪戯かな?」
指差しながらクロへと振り向き左右に顔を振ると、顎に手を当て思考の海に沈み込むエルフェリーン。
「何て書いてあるのかしらね」
文字らしき傷を見つめるビスチェ。古代語で書いてあるらしくビスチェやクロたちには読めず傷跡の様な文字に触れると、エルフェリーンがおもむろにハンマーを取り出すと岩を叩き少量のアメジストの混じった石を確認すると数メートル先に転がす。
その行動に頭を傾げる一同。ルビーが欠けた大岩を覗き込むと、そこには拳大のアメジストがあり目を輝かせる。
「これは純度が高そうですよ! 指輪や装飾品に使えます! 採掘してもいいですか!」
「すまないが、ちょっとだけ待ってくれ。さっき投げた石がダンジョンに吸収されるか確かめてからだったら掘ってもいいけど……ああ、それとこの文字だけどね、これは千年以上前に使われていた文字で少し方言も入っているから解りづらいけど、『ここはダンジョン研究所』と書いてあるよ。
もしかしたらだけど、ダンジョンが広くなりここを飲み込んだのだと思う。そして、紫水晶はダンジョンが吸収できない……やっぱり、ほら、もう転がしてから五分は経過したけど地面に吸収されないだろ。これは大発見かもしれないね!」
ダンジョンは生きている者以外を吸収する。それは遺体だろうが、装備だろうが、持ち込んだすべてのものに適用される。が、エルフェリーンが砕いた石には少量の紫水晶が混じり、五分で吸収されるはずだった石はその場に転がったままであり地面に吸収されてはいない。
「事実なら凄い事ですよ! ダンジョン内に紫水晶を持ち込めば住む事ができるかもしれません!」
「え!? ダンジョンに住みたいの?」
ビスチェの言葉に「住みたくはないですね」とルビーが普通に返し、何がツボだったのかアイリーンがお腹を抱えて笑い出し、クロはダンジョンの中なのに緊張感がない事に危機感を覚え女神シールドを動かしてまわりを警戒するのだった。
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