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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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保存方法と海からの帰還



「これで一度目の燻煙は終わりだな。これを一晩冷蔵庫で寝かせて……冷蔵庫……この島に十度以下で冷やせるような場所はありますか?」


 冷蔵庫の存在を忘れていたクロが褐色エルフたちに質問し、十度以下という言葉に首を傾げる。温度計などがない事もあり数字で温度を測る事はなく、熱い寒いといった基準はあっても正確な温度についての知識がないのである。


「服を着ていても寒い場所……神殿の奥とかなら冷えそうだが……」


 以前寝泊りした神殿は大理石のような石造りで、そこに地下室があれば天然の冷蔵庫になるのではと考えるクロ。だが、食品を保管するのであればきちんと温度計を置き計り冷蔵庫として活用できなければと温度計を魔力創造する。


「クロ先輩、その量ならこの魔道具で冷やせますよ」


 海竜から貰った笛をクロに渡したことでご機嫌に戻ったルビーが声を掛け、冷やす機能が付いたクーラーボックスの予備をアイテムバックから取り出す。


「ああ、これなら常に5度ぐらいに設定できるから魔力を補充すれば問題なくかつお節を寝かせられるな」


「かつお節は寒い所で寝かせないとダメなのか?」


 褐色エルフのマッチョからの言葉に頷き理由を口にするクロ。


「かつお節の完成品は先ほど見たと思うのですが、内部の水分を抜くために日を分けて燻煙します。燻煙しただけでは内部の中心の水分が抜けず、冷やした場所で保管し時間を置くことで内部の水分が外側へと広がり、次に燻煙する時に水分が広がりまた水分を内部から取り除くことができます。その繰り返しで味が凝縮して美味しくなるらしいです」


「なるほど……温かい場所に放置しては腐るからな……」


「この陽気だと数時間放置したら危険ですから」


 少しの作業で汗が噴き出すほどの気温の下で火を入れたとしても魚を放置すればすぐに傷むのは褐色エルフたちも知識と体験で理解している。


「このクーラーボックスはスノーウルフの魔石を使っているので三日に一度魔力を注げば中に入れたものを冷やせます。これに入れてかつお節を寝かせましょう」


「貴重な物ではないのか?」


「スノーウルフの魔石はまだありますし、私と師匠が協力すればすぐに作れます! 美味しいお魚のお礼に使って下さい」


 ペコリと頭を下げるルビーに褐色エルフたちは喜び盛り上がるなか、クロは身を崩さないよう注意しながら燻煙したそれをガーゼに置きクーラーボックスの中へと入れる。


「量産するのならもっと大きなクーラーボックスがあった方がいいな」


「それなら師匠と協力して大きなのを作れば……アイアンアントの甲殻を使って丈夫なものを作ってもいいですし、持ち運びできるタイプを作るなら魔道駆動を使っても……」


 腕組みをしながら考えに耽るルビーの背中を押し日陰へと移動するクロ。ルビーは集中するとまわりが見えなくなり炎天下で放置すれば熱中症になると考えたのだろう。


「クロ、俺たちはクロのようなシールドを変化させることができないから燻す為の小屋を作ろうと思う。どのような小屋がいいのか教えてくれ!」


「竹で作れるなら楽でいいが岩を切り出して作るのなら人を集めないとな!」


「燻製小屋は基本的には密閉できる形がいいですね。でも、完全に密閉してしまうと火が消えたり中へ入った時に酸欠を起こしたりもするので、少しだけ隙間を作るのも必要だとか聞きましたね。さっきのシールドは上と側面に小さな穴を開けましたよ」


 褐色エルフたちの質問に答えるクロ。


「シールドを加工して箱のような形にするのにも驚いたが、小さな穴まで開けていたのか……」


「シールド魔法に穴を開けるという発想に驚くのだが……」


「それなら石を切り出して小さな小屋を作ろう。穴に関しては様子を見ながら開ければいいだろう」


「石造りなら火事になっても他に広がる事はないだろうし、棚を中に作るよりも、中の側面に溝を作って網がセットできるようにすれば出し入れも簡単だと思いますよ」


「おお、それは良い! 茹でた魚の身は崩れやすいからな!」


 話がまとまると褐色エルフのマッチョたちが動き出し神殿近くの岩場へと向かい、それを見送っていると自信を呼ぶ声が聞こえ振り向くと両手を上げてこちらへ走るラライとキャロットと白亜が目に入り手を振るクロ。


「クロ! 凄いの! 海の中って透明なの! 上を向くとキラキラで凄いの! 魚がいっぱいで凄いの! 何もかもが凄いの!」


 テンションを上げたラライが初めての海を満喫できたのだろうと微笑むクロだが陸に上がっても付けたままのシュノーケルマスクに肩を震わせる。


「キュウキュウ~」


「白亜さまも楽しかったといっているのだ! どの魚も美味しそうだったのだ!」


 美味しそうというキャロットの感想にシャロンが吹き出し、まわりにいた褐色エルフの女性たちも吹き出し笑い出す。


「水精霊さんがね、泳ぎをフォローしてくれたの! 後ろからビューって押してくれたの!」


「あれは凄かったのだ!」


「キュウキュウ~」


 次々に体験した事を話すラライたちにクロはアイテムボックスからスポーツドリンクを取り出し配り喉を潤し、遅れて帰って来た皆にも同じものを提供する。


「うふふ、浮き輪を使って漂うのも気持ちが良かったですねぇ」


「泳ぐのも気持ちが良かったわ。次はシャロンも一緒に行きましょうね」


「獲った魚は僕のアイテムボックスに入れてあるから、後でクロのアイテムボックスに引き取ってくれよ~」


「宝石のような貝殻もあったのじゃ」


「メリリさんの泳ぎが凄かったですね……同じ女性とは思えないほどでした……特に胸とか……」


 皆がテンションを上げるなか一人目を伏せテンションを下げるアイリーン。物量の違いを思い知らされたのだろう。


「ねぇ、クロが私の精霊に何かお願いしたかしら? 勝手にラライの背中を押して楽しませていたのだけど……」


 訝し気な視線を向けるビスチェ。自身の精霊が命令やお願いもなくラライに干渉したことを不思議に思いクロへと問質す。


「ん? 俺はもしもの時は助けてやってほしいとお願いしたが……ほら、青い鳥さんも頷いているだろ」


 クロが手を前に出しそれに止まり数度頷くとすぐに空に舞い上がる青い鳥の姿をした水の精霊。


「はぁ……私の精霊に勝手に命令しちゃダメじゃない! 私と契約しているのにクロが勝手な命令をしたらどんな要求がくるか解っているのかしら!! 精霊はあの子のような大らかな性格だけじゃないの! もし、意地悪な精霊や悪意を好む精霊だったら今頃はクロの魔力を全部取られているわ!」


 眉を吊り上げ声を荒げるビスチェ。だが、クロは叱られているという割には余裕があるのか口を開く。


「あの水の精霊はそんな悪質なタイプじゃないだろ。イタズラってほどの事もしてこないし、最近は料理のつまみ食いをするぐらいで……なあ」


 ビスチェの頭の上を旋回する青い鳥の水精霊に声を掛け、水霊性はクロの頭の上に着地しコクコクを上下させ、苦笑いを浮かべるビスチェ。


「つまみ食いって……」


「あはははは、契約精霊に干渉してお願いするクロもそうだけど、その水精霊もつまみ食いって………………ん? それって、クロが魔力創造した食品を食べているのかい?」


「そうですね。魔力創造したもの以外には手を出さないかもですね……前はフィロフィロの為に出した餌だったし、この前はマグロの漬けを作っている時に……魔力創造したものだけですね……」

 

 クロの言葉に渋い顔をするエルフェリーン。ビスチェは頭の上で旋回していた水精霊を自身の手に止まらせ口を開く。


「私の契約精霊なのにクロの言う事を聞いちゃダメよ! 魔力創造したものも食べちゃダメ! アレはクロの魔力が………………だからか……クロの魔力を物質化したものだから精霊も食べられる……」


 ビスチェもその後は口を閉じ渋い顔へと変わり、どうしたものかと思いながらもクロは未だに水中眼鏡を付けているラライに指摘し、夕食の準備を始めるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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