燻製と笛
シールドを真四角に変化させ中では竹で作った簡単な棚を置き、魔力創造で創造した桜チップで燻すクロ。煙が蔓延した中でも火と煙の様子が薄っすらとだが確認でき集まって見つめる褐色エルフたち。
作業開始時からひとを集め続け、今では五十名ほどが囲み観察している。
「燻製の内部が見えるのは便利ですね~」
「うふふ、シールドを箱状にして使う方法がある事に驚きます」
「普通は全面に使うものだからね~半球状に使ったりもするけど、こんなに綺麗な四角い形に使うのも珍しいぜ~」
「クロは変な所で器用よね。前は階段状にシールドを設置したわ」
アイリーンたちから褒められたクロだが、それが耳に入っていないのか夕食の準備に取り掛かっていた。
折角のカニと貝だしどんな料理に……お酒は飲むだろうから少し濃い目の味付けにして、カキフライに牡蠣の炒め物と、サザエのつぼ焼きやバターソテー。カニはシンプルに茹でたものと身を解してカニグラタンにしてもいいな。グラタンなら貝を入れても美味しいだろうし、甲羅酒にしてもバブリーンさんたちは喜びそうだな。いや、みんなか……
ずっと酒を飲み続けている海竜たちに視線を向けるクロだったがすぐに手元へと視線を向けるが、視界の隅に映るお昼寝中のキャロットと白亜とラライに微笑みを浮かべる。
「真夏の南国だしデザートとかにも凝りたいよな……」
「それは楽しみだわ」
「南国フルーツを使ったデザートですね」
クロの近くにいたこともありキュアーゼとシャロンが妖艶な笑みを浮かべ、思わず数歩後退り眉間にしわを寄せるキュアーゼ。シャロンも後退したクロに思う所があったのか少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
「あら、逃げることないじゃない」
「僕も避けられているみたいで……ちょっと……」
キュアーゼは露出度の高いビキニタイプの水着の上に薄く透け風通しが良いワンピースを着ており、シャロンはハーフパンツタイプの水着にパーカーを着ているのだが顔が中性的というよりも美少女であり、クロが気後れするのも仕方のない事だろう。それに加えそのやり取りを鼻息荒く見つめるアイリーンも視界に入っていれば後退するというものである。
「悪い……ああ、そういえば泳ぎに行かなくてもいいのか? シャロンとキュアーゼさんたちは泳ぎたいって」
話題を変えるべく、この島へ来たらやりたい事を事前に聞いていたクロは海での楽しみを口にする。
「もちろん泳ぎたいですねぇ。うふふ、キュアーゼさまもクロさまの料理で二の腕がとお風呂上りに口にしていましたねぇ」
水着姿にヒラヒラエプロンにヒラヒラカチューシャというある種の層が喜びそうな恰好をしたメリリの言葉に頬を染めるキュアーゼ。
「ケーキが悪いわ! 他にも甘いデザートをこれでもかと出してくるクロも悪いわ!」
「それはキュア姉さんがクロさんにお願いして出してもらっていると思うけど……」
「それでもよ! 私はシックスパックが無くなる前に気が付いたからよかったけど、メリリなんてお腹に横線が入るほど、ハッ!?」
話の途中で大きく後ろへと飛び退くキュアーゼ。それを悔しそうな瞳で見つめるメリリ。つい先ほどまでキュアーゼが立っていた場所へ飛び蹴りを入れたのである。
「どうせ運動するのなら海で泳いできたらいいわ。私も海で泳ぎたいし、水の精霊と契約している私がいれば溺れないわ」
ビスチェの言葉にメリリは表情を明るくし、クロは用意していた浮き輪やビート版にビニールボールをアイテムボックスから取り出し、それに目を付けたアイリーンと七味たちは燻製見学から海モードに意識を切り替え、エルフェリーンとエルファーレにロザリアも集まり海へと足を進める。
島国が連結したこの島では危険な毒をもつ生物や魔物をエルフェーレ指導のもと退治し終えており、子供でも安全に海が楽しめるようになっている。水の精霊と契約しているビスチェとエルフェリーンがいれば水難事故が起きる可能性も少ないだろう。
「それならラライ達も起こして連れていってくれないか?」
「ラライは海を楽しみにしていたものね!」
「ナナイとの約束もあるし僕はお魚も獲っちゃうぜ~」
「うふふ、海で体を動かすにはピッタリですねぇ」
「釣りもいいですが銛でひと突きにするのも狩人からしたら絶対にやっておくべきです! 七味たちも気合を入れて行きますよ!」
「ギギギギギ」
アイリーンの激に両手を上げお尻を振る七味たち。その横で小雪も尻尾を振りへっへしながらやる気を見せる。
「もしもの時はみんなを助けてやってくれな」
頭上を飛び交っていた水色の小鳥に声を掛けるクロ。ビスチェが契約している水精霊は声を掛けられ鳴き声を上げることはないが、クロの前でホバリングし数度頷き言葉を理解しているのだろう。
一行が褐色エルフの女性たちと海へ向かい手を振り送り出すがシャロンとルビーだけは残り、シャロンはクロを手伝いたいのか近くの椅子に座って微笑みながらヴァル一緒に頼まれるのを待ち、ルビーは海竜たちに酒を紹介し自身もウイスキーなど飲み頬を染めている。
「ウイスキーは常温のストレートでも美味しいのですが、こうやって冷やした炭酸水と割って飲むのも美味しいですよ。スノーウルフの魔核を使ったクーラーボックスに魔力を注げば冷やした飲み物がお手軽に作れます!」
年末にオーガの村を襲ったスノーウルフの群れを討伐した際に手に入れた魔核を使い、冷蔵庫のような機能が付いたクーラーボックスを開発したルビーは自慢げに冷えたハイボールや冷やした缶の焼酎などを海竜たちに勧める。
「喉がかゆくなるが癖になる味だね」
「こっちの酸っぱい酒も喉がかゆくなるが美味いよ!」
「それにこのツマミも美味い! 燻した香りと味の濃い肉は噛み応えがいいね!」
「燻したチーズもコクがあって酒と合う! 我らが満足するまで酒を飲み料理を提供されたのは初めてだね! バブリーンに自慢されるだけの事はある! ルビーといったか、ドワーフの娘よ。我らはこれでも海を守るものだ。もし、お前に危機が迫ったら我らを呼ぶがいい……陸だろうと駆けつけ力になろう……」
そう言いながら空間に手を入れ白い枝のような物を取り出しルビーへと手渡す人化した海竜の一人。ルビーは首を傾げながらも手にしたそれを見てガクガクと震え、何度も頭を下げる。
「こここここ、これって、ツノの一部ですよね!!!」
「正確に言えば、生え変わった角で作った笛だ。これには魔力が込められているからどんなに遠くから吹いてもその音色が届くよ」
「届くというよりも我らの角に反応するね」
「ルビーはクロと一緒にいることが多いだろうから、クロが使っても助けに現れよう。ああ、美味い酒やツマミを用意して呼んでもいいからね」
「はははあはは、その方が嬉しいね! 行く時には海産物を持参しよう!」
助けに現れるというよりも飲み会の誘いへ変わった笛を持ちガクガクと震えるルビー。竜が角を触らせるのは本当に心に許したものか親族ぐらいであり、この度の食事会での振舞いを気に入り送ったにしては仰々しい逸品であるだろう。なんせ、海竜を呼べる笛となれば島国ひとつを亡ぼせる力を得たようなものである。
「えっと………………クロ先輩!!!」
困ったルビーが笛を丁寧に持ちクロへ助けを求め、理由を聞いたクロがあからさまに困った表情を浮かべるが、ヴァルは海竜たちへ視線を送り仲間ができたと勘違いし、シャロンはクロが褒められている事を素直に尊敬するのであった。
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