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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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かつお節



 昼食というよりは宴会へと姿を変えた食事会では海竜たちが宴会芸と称して空へ海水を打ち上げ虹を作り、エルフェリーンが炎を打ち上げ巨大な鳥に姿を変え羽ばたく姿にフィロフィロが感銘を受けたのか飛び立ち慌ててシャロンとキュアーゼが追い掛け、多くの生きたカニと貝を養殖場から獲ってきた褐色エルフにお礼をいったりと慌ただしく過ぎ、お腹をパンパンに膨らませ横になるキャロットと白亜とラライ。


「このしゃぶしゃぶという料理は面白いね。魚の火の入れ方で味と食感が変わるよ」


「酸っぱいタレと濃厚なタレ、どちらも美味い」


「熱い料理は苦手だがタレに付けるから適度に冷めているのもいいな」


 殆どの者たちが満腹になるなか依然として食べ続けている人化した海竜たち。キャロット以上の食欲の持ち主でありながら幼さが残る顔立ちで感想を言い合い酒を飲み料理を口に入れる姿に違和感があるが、彼女たちは数千年以上生きた存在で未成年という縛りからは完全に外れている。


「おいおい、そろそろ空気を読んで食べ終わらないと次からは誘ってあげないよ。このままじゃ料理をするクロたちが疲労で倒れちゃうからね~」


 頬を赤く染めたエルファーレからの言葉に青い目と青い髪を持つバブリーンが顔色も青く染め、同じ席に着く海竜たちも青く変える。


「それは困る! みんなももう終了! 終わりにして!」


「そうだね。こんなに美味しいものがもう食べられないとか残念すぎる」


「次来る時までにまた沈没船を探そう!」


「今度はもっと大きな魚やエビも持ってくる!」


 バブリーンと同じように焦りながら食事を終える海竜たち。海竜は竜種の中でも特にカロリー消費が高く食べたそばから強力な胃液が分泌され魔力へと変換され底なしの食欲を発揮する。エルファーレが注意しなければ平気で日が落ちて登っても食べ続けていただろう。


「海竜さんたちがいう大きなエビってどのぐらいの大きさか気になりますね~大蛇サイズだったり~」


「そうなると丸のまま揚げるエビフライは作れないな。尻尾がないとエビ感が出ないし、エビチリとかもぶつ切りのエビじゃエビを食べている感が出ないだろ」


「見た目はそうですけど味なら問題ないと……クロ先輩はなぜにお湯を沸かし始めたのですか?」


 大きな鍋を竈に乗せヴァルにお願いし水を入れるクロの行動に首を傾げるアイリーン。


「ああ、これはかつお節を作る準備だな。かつお節は基本的には二種類あって荒節と呼ばれるものと、カビを付けて極限まで水分を抜いた本枯節がある。本枯節は人に無害なカビの菌とかが必要だから今回作るのは荒節だな」


 先ほど雑誌を見て確認した事もありその記事を広げながらアイリーンに説明するクロ。


「クロ先輩はまめですね~でも、エルファーレさま方が美味しいお味噌汁が食べられるようになると思えばかつお節は必須かもしれないですね~」


 アイリーンが雑誌を目に入れながら話し、クロは三枚に下ろしたマグロに似た魚を竹のザルに乗せながら褐色エルフと共に作業を行い簡単な作り方の説明をする。


「お湯に入れて余分な脂を落とし、それを燻煙して水分を抜き、冷やして一晩置きまた燻煙を繰り返します。水分が抜けると石のように硬くなりますのでそれで完成ですね。ちなみに完成したものがこちらです」


 料理番組のように完成したものを見せると褐色エルフたちは驚きの声を上げ、真っ黒なそれに目を見開く。


「こうしてカツを節同士で叩くと中まで乾いた音へ変わりますから覚えておいて下さい」


 カンカンとかつお節同士をぶつけ音を聞かせるクロ。


「あ、あの、思っていたよりも真っ黒なのですが……」


「ああ、これは燻煙で付いたタールですね。まわりを削り取れば問題ないですよ」


 そう言いながらナイフで軽くかつお節を削ぐとルビーのような赤黒い色が見えそれを手渡す。


「まるで宝石のような色と光沢ですね……」


「それに音も陶器のような澄んだ音色です……」


「これが食品だとは驚きです……」


 いつの間にか褐色エルフの数が増え集まってかつお節を見学し、クロは新たにかつお節を一本魔力創造すると専用のかつお節削りを使い聞きなれない音に一斉に振り返る褐色エルフたち。


「なるほど、それで薄く削ったのですね!」


「ナイフよりも簡単に削れて便利そうです!」


 目をキラキラさせてかつお節を削るさまを見つめ、空気を読んだクロが代わり褐色エルフたちは順番で交代しながら削るのを楽しむ。


「ある程度たまったらそれも食べて見て下さい。かつお節は薬味としても使えますから」


「お豆腐に乗せたり、おにぎりに入れたりしても美味しいですね~」


「前にも食べたがやはり美味い。これが作れるようになれば更なる料理の可能性が開けます!」


 削ったカツを節の味見をしながら話を進め煮た身を取り出し粗熱を取ると、毛抜きを使って丁寧に骨と血合いを削ぎ落とす。


「骨と血合いがあると味に雑味やえぐみが入るらしいので丁寧に取り除きます。この時に気を付けないと身が崩れるので注意して下さいね………………あの、バブリーンさま、近くないですか?」


 先ほど食事を終えたバブリーンたち海竜は魚を煮る香りに釣られたのか作業を見学し、バブリーンはクロの前でそれを凝視する。


「新たな料理を作っておれば気になるさ。魚を煮て骨を取り……そのままでも美味そうだ」


 あれだけ食べても食べたりないのかと思うクロ。その横から削ったかつお節を手にアイリーンが手招きをしてバブリーンを呼びかつお節を味見させる。


「木くずに見えるが魚とは驚いた。チラチラ耳に入っていたが……それを作っていたのだな」


「さっき食べたお味噌汁に必要な出汁に使いますね~このまま食べても美味しいですよね~あむあむ」


「料理もそうだが、このように手間を掛けるからクロの料理は美味しいのだな」


「そうですね~クロ先輩は手間を掛けて美味しい料理を作っていますね~魔力創造で創ればすぐに手元に現れるのに、態々料理をして作りますからね~」


 後ろから聞こえる声を耳に入れながらも褐色エルフたちと作業を続けるクロ。他の海竜たちもバブリーンの元へ向かいかつお節を口にして感想を言い合う。


「削る前のかつお節をそのまま齧りたいな……」


「歯応えがありそうで良いかもしれないね」


「歯応えというレベルではないと思いますが……私がいた国では世界一硬い食べ物として有名でしたよ。下手したら歯が欠けるかもしれませんね~あ、海竜さんたちなら問題ないのかな?」


「このぐらいなら噛み砕けるけど、どうせなら美味しい料理になってから食べたいね」


 バブリーンの言葉に賛同する海竜たちは削ったかつお節からクロへと興味を変えたのか作業を見守り、煙でいぶす段階へと入り不思議そうな表情を浮かべる。


「あれは燻製ですね~熱と煙を使って料理をしているといえばいいのかな。ああやって煙で燻して香りを付け保存にも向いた食品を作っています。燻製は他にも――――」


 アイリーンが燻す工程を説明しながらアイテムバックから燻製にした干し肉やチーズを取り出すとニヤリと笑みを浮かべ口にし、更には新たな酒を開けカパカパとグラスを飲み干す海竜たち。


「燻製の香りと濃い味付けは酒に合うな」


 バブリーンの言葉にコクコク頷きながらクロの作業と燻製をツマミに酒が進む海竜たちであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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