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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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刺身とかつお節



「独特の香りがして美味しいですね」


 広場ではクロが指揮して作った料理が並びそれを食べたシャロンが表情を溶かし、褐色エルフたちはエルフェリーンとエルファーレが一口食べるのを確認すると我先に口に入れる。


「コリコリとした歯応えが米とも合うのじゃな」


「こっちの天ぷらもサクサクで美味しいわ」


「小さなキノコのスープも美味しいですね。これが味噌汁でしたね」


「キュウキュウ~」


「お味噌汁は白亜さまも大好きなのだ! おかわりなのだ!」


 テーブルにはクロが指揮して作ったキノコのご飯と松茸ご飯になめこのお味噌汁と、キノコを使った天ぷらや炒め物が振舞われている。松茸ご飯と茸のご飯の二つを用意したのは松茸の香りが苦手な人に向けてなのだが褐色エルフたちは気にせず口に運んでいる。


「臭いキノコと呼んでいた割には食べていますね……」


「慣れるといい香りに感じるのかもな。よし、これもテーブルにお願いします」


 皿に盛りつけたのはバブリーンたちが持ってきた魚で一口サイズにカットしてカラアゲにし、その上にキノコをふんだんに使ってトロミをつけた餡をかけたものである。


「うふふ、お任せ下さい」


 メリリが笑顔で運び広場に歓声が上がる。


「これ程とは思わなかった……」


「自慢されてイラっとしたけど、それを忘れさせてくれる味だよ!」


「この酒も他で飲んだことがある酒よりも芳醇な香りがするし、強くて美味い!」


「そうだろう、そうだろう。クロは凄いんだ! 前は生の魚を美味しく食べる方法も教えてくれたからね!」


「生で美味しく食べる? 丸齧りとは違うの?」


「違うよ! あれは洗練されたナイフの技術がなければできないと思う……皿に乗せられた刺身は金貨のように輝いて見えたからね!」


「金貨は言い過ぎだろう……」


「この料理も確かに美味いが金貨みたいに輝くのは無理だね~」


 バブリーンたちのテーブルの声が耳に入ったクロはアイリーンにお願いし浄化魔法を掛け、丁寧に三枚に捌くと平造りにしてバブリーンたちの席へと運ぶ。


「お待たせしました。金貨は言い過ぎですが、脂の乗った魚は輝いて見えますよ」


 テーブルに刺身が現れ覗き込むように見つめる人化した海竜たち。


「この醤油とワサビを少量付けて食べて下さい。ワサビは少し辛いので注意して下さいね」


「どうだい! 金貨は言い過ぎかもしれないけど銀貨ぐらいには光っているだろ! あむあむ……うん、美味しいよ!」


 マグロのような赤身を口にしてご機嫌なバブリーンは立ち去るクロへお礼を叫び、クロは軽く頭を下げ広場の一角にあるキッチンスペース戻るのだが、エルフェリーンとエルファーレが笑顔で追い駆ける。


「僕たちもお刺身が食べたいぜ~」


「クロ! 私にも頼むよ!」


 後ろからクロの腰に本人たちは抱きつき色仕掛けの心算らしいが、どう見ても子供が大人にじゃれている様にしか見えず、クロも師匠とその姉妹からの悪ふざけ程度にしか思っていないこともあり、色仕掛けとしては失敗だが「すぐ作りますね」とクロの了解がもらえ二人揃って歓声を上げる。


「七味たちも手伝ってくれ、ヴァルも浄化魔法を頼む」


 クロの言葉に魚の下処理をしていた七味たちは片手を上げ「ギギギギ」と返事をし、ヴァルも姿を現しすぐに浄化魔法を使い光に覆われるキッチンエリア。


「私も刺身を手伝いますね~七味たちも一味と二美は私と一緒に刺身を担当して下さい」


「ギギギギ」


 手先の器用な一味と二美も糸を使って魚をカットし量産される刺身。使っている魚の多くはマグロに似た見た目で、こっそりとクロとアイリーンは浄化魔法を掛け生で食し味見済みで、脂の乗った赤身の味にお互い無言で頷きこっそりとアイテムボックスに数匹確保している。


「アイリーンやクロのナイフ捌きも凄いけど、蜘蛛たちも相当だね……」


「七味たちは知能が高いからね~狩りはもちろんだけど料理だって手伝えるんだ」


 エルフェリーンがドヤ顔をしながらも糸を操作して刺身を量産する姿に驚き、エルファーレは只々感心している。


「うふふ、この皿にお持ち致しますのでお席の方へお付き下さい」


 メリリが完成した刺身の乗った皿を持ち二人を席へと誘導し、その後を醤油と小皿を持ったメルフェルンが続く。


「クロ! カニと貝の養殖も上手くいっているぞ!」


「大きく育てた貝も今度料理してくれ!」


「カニも身が詰まって美味いぞ!」


 がっちりした褐色エルフの男たちから声を掛けられ「夕食に使いましょうか」と口にするクロ。


「なら、酔う前に取って来るぞ!」


「焼いても茹でても絶品だからな!」


 そう言葉を残して走り出す男たち。食事を中断してまで養殖を提案したクロへ恩返しと結果を見せたいのだろう。


「カニ料理とは楽しみですね~茹でただけでも美味しいですし、天ぷらにしゃぶしゃぶに刺身にお寿司~カニ炒飯にカニクリームコロッケにカニカマに~」


「カニカマは違うだろ……」


 刺身を量産するアイリーンからの歌にも似た声に思わずツッコミを入れるクロ。突っ込まれたアイリーンはニヤリと口角を上げる。


「このマグロに似たお刺身も漬けにして、カニの身を添え卵黄落して丼ぶりで食べたいですね~」


「それいいな……酢飯もいいが、炊き立てのご飯の上に乗せても美味そうだ」


 日本人らしい話にテンションを上げる二人。


「クロ~クロ~これ美味しいよ! 前に食べたのも美味しかったけど、これも凄く美味しい! このお魚美味しいよ!」


 ビスチェたちのテーブルで刺身を口にしたラライが醤油と刺身を持ったままクロの前に現れ、目を輝かせテンションを上げ味の感想を伝える。


「できたらナナイさんたちにお土産として持って帰りたいな」


「うん! 絶対に喜ぶ! 火を入れないお魚がこんなに美味しいと思わないもん!」


「ああ、生で食べるとその身本来の味がわかるからな。醤油を使えば生臭さも減るし、俺の故郷の代表的な料理……でも、基本的には生で食べることはするなよ。これはアイリーンとヴァルが浄化魔法を使ったから安全委食べられるだけで、川や池で獲った魚を生で食べようとか思うなよ」


「うん! 前にお寿司を食べた時にも言ったよね! お腹が痛くなるんだよね!」


 太陽のような笑みを浮かべるラライにうんうんと頷くクロ。


「あの、クロさま、このスープに使われている味噌はダンジョン産の物ですよね?」


 ラライと話していたクロだったが褐色エルフの一人に声を掛けられ振り向くと、その手にはなめこのお味噌汁を入れた椀があり「そうですよ」と肯定する。


「そうなるとやはり出汁に秘密が……」


「出汁ですか? 前にも説明しましたが自分はカツオと昆布を使った出汁を使って……こんな感じですね」


 アイテムボックスからかつお節と昆布を取り出し見せ、目を細める褐色エルフ。


「少し味見をしても?」


「はい、こっちの昆布は海の海藻でこの辺りの海にもあるとバブリーンさまが言っていましたね。かつお節はカツオと呼ばれる魚を茹でてから燻して作ります」


「木を削ったカス?」


「見た目はな。食べればちゃんと魚の風味があって美味しいぞ」


 ラライも首を傾げながらかつお節を見つめ、少量を手に取り味見をすると目を輝かせる。


「本当だ! お魚の味がする! 気がする!」


「あのスープにはこれが必要なのですね……ちなみにこれは我々でも作れるでしょうか?」


 かつお節のパックを手にしながらクロへ真剣な視線を向ける褐色エルフ。


「簡単な方なら作れると思いますが……かなり大変ですよ」


「作り方さえ教えて頂ければ試行錯誤して再現して見せます!」


 両手の拳を握り締めやる気を見せる褐色エルフに、クロは以前魔力創造した料理雑誌に作り方が書いてあったと思い出し「なら一緒に作りましょう」と提案するのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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