グワラ
事情を説明しながら歩みを進めたエルフェリーンたちは竜王国で最も重要な場所へと辿り着く。そこは村の北にある石作りの家が三件並び、奥には野球場ほどの広さのある花畑であり、白夜の寝床と白亜の遊び場として用意されている場所である。
「これは絶景だね~前に来た時よりも広く美しくなっているよ~」
野球場のように広い場所に様々な花が咲き乱れ花の香りが風と共に吹き抜ける。
「ここの管理はできているようだな」
「この場を疎かにするようではそれこそ白夜さまに見限られてしまいます……大変美しく維持されていますね……」
三名の賞賛に胸を撫で下ろす国王ドーガスと王妃ネロハ。
「ん? ああ、あれが竜の巫女たちだね」
花に水を撒いている女性たちが目に入り指差すエルフェリーン。
「はい、ここの管理を任せている竜の巫女たちです。今は十五名の巫女が花を育てております」
竜の巫女は特別に花の香りを染み込ませた服を着ており花に紛れ存在を消して白夜に奉仕すべく働く者たちである。白夜は年間を通してひと月もこの地に定住する事はないが、それでもこの場で眠る時に邪魔にならないよう花に紛れ草花の手入れをしているのだ。三軒ある家もひとつは白亜の寝室で、他の二軒は竜の巫女が白亜に付きっきりで暮らす為の家であり、両名がいない現在でも泊まり込みいつ帰ってきても対応できるように待機している。
「ここにいるのかい?」
「はい……母さまは白亜さまがお隠れになってから必死に村中を探しまわり……」
「キャロライナさまからご報告を受け安心なさいましたが、食事もあまり食べておらず寝こまれ……」
エルフェリーンの問いに答えたのはフレシアとプレシアの姉妹であり、竜の巫女長を務めるグワラの娘たちである。
「レルゲンが事を起こした原因が、グワラを元気づける為に白亜を連れてこようとしたとは……褒めてやることはできないが……男として行動を起こしたのだのう……」
目を細めレルゲンへ視線を飛ばすドラン。視線を向けられたレルゲンは視線を逸らし、フレシアとプレシアの姉妹は頭を下げ、ドランや国王の姿に気が付いた竜の巫女たちが集まり始めるとキャロライナが一歩前に出て口を開く。
「そのままで良い。グワラはあの中ですか?」
「はい、今朝もあまり食事が進んでおらず……」
「無理にでも食べて元気になって貰わなくては白夜さまと白亜さまが帰って来た時に困るといっているのですが……」
「そうですか……このまま会いに行かせてもらいます」
その言葉に頭を下げる竜の巫女たち。キャロライナを先頭に歩みを進め三軒あるうちのひとつに辿り着くとドアを開けて声を掛ける。
「グワラ、入りますよ」
中へ入ると閉め切ってあるためか空気が重く近くの窓を開け換気するキャロライナ。中は質素な作りで数個のベッドが並び暖炉と簡単なキッチンがありベッドのひとつから軋む音と共に起き上がる青白い顔をしたドラゴニュート。
「これは、キャロライナさま……このような姿で申し訳ありません……」
痩せ細った姿に大きなため息を吐くキャロライナ。その後ろでフレシアとプレシアは歯を食いしばりレルゲンは静かに頭を下げる。
「そのままで構いません……あの気丈だったグワラがこんなにもやせ細るとは……」
「………………もう若くはないのです……竜の巫女長を返上する良い機会かもしれませんね……」
その声に力はないが長年勤めてきた者のプライドと悔しさが入り混じりながらも諦めといった思いが感じられ、キャロライナはエルフェリーンへと視線を向ける。
「竜の巫女の話は置いておくとして、聞いてくれ。白亜は僕の所で預かるよう白夜が置いていったのだけどね、レルゲンと君の娘たちが今朝方取返しにきてね」
エルフェリーンの言葉に目を見開くグワラは身を起こした姿で深く頭を下げる。
「それは、大変失礼な事を……」
「うん、確かに失礼でキレそうになったけどね。聞いて欲しい……その理由はグワラが原因で、白亜が戻ってくれば君が元気になるだろうと事を起こしたらしいんだ」
「そ、それは……何と愚かな……」
「そうかな? やり方が悪いとは思うけど、誰かの為に戦おうとしたのは尊く思うぜ~この三人を連れてきた時は大魔術でもぶっ放そうかと思ってたけど、今はそんな気は起きないからね~勇敢な姉妹に、勇敢な男だよ~」
「ですが、やり方に問題があるのも事実です。この三名は私が監視し、暫くはドランに任せようかと思います」
エルフェリーンは笑みを浮かべ話し終え、キャロライナが後に続き口を開き、グワラは急な展開に戸惑いながらも再度頭を下げる。
「この者たちにはわしの手伝いをさせようと思っておるだけ……今わしがお世話になっているゴブリンの村で色々と教えようと思ってのう。若く力のある者が手伝ってくれると助かるからのう」
優しい瞳を浮かべ話すドランにグワラは目に涙を溜めながらも、自身の娘たちの命が助かりその姉妹が慕う男もまた助かったことに感謝しながら何度も頭を下げ、エルフェリーンは天魔の杖を取り出すと転移魔法を発動する。
「ついでに白亜との面会も許すから少し待っててね~」
転移の門に入り姿を消すエルフェリーン。顔を上げた時にはその姿はなく多少取り乱すが、数秒後にはキャロットに抱かれた白亜が姿を現し決壊する涙。
「げっ、巫女長なのだ……」
「キュウキュウ~キュウ……」
反射的に拒否反応をするキャロットだったが、白亜には優しかったこともあり巫女長を見て甘えた鳴き声を上げるがその弱った姿に驚き心配そうな鳴き声に変わる。
「ここがドラゴニュートさんの国ですか……病人さんはこの方ですね?」
アイリーンも転移の門からひょっこり顔を出し糸を飛ばしてエクスヒールを掛けると魔力反応で光に包まれるグワラ。
「夕食は餃子ですから早く帰ってこないとパリパリじゃなくなりますからね~」と声を残して転移の門へと姿を消すアイリーン。
「キュウキュウ~」
光が治まり白亜が鳴き声を上げキャロットの腕から離れ抱きつくと、そこには瘦せ細った姿ではなく顔色も健康的なものへと変わったグワラの姿があり目の前で起こった奇跡に涙があふれ出るフレシアとプレシア。レルゲンも唖然としながら驚くが数秒後にはエルフェリーンに対して無言で頭を下げ続ける。
「白亜さまをまた抱き締めることができるとは思いませんでした……」
「キュウキュウ~」
涙しながら白亜を抱き締めるグワラ。白亜も元気になった事を喜んで尻尾を揺らし、付いて来ていた国王や王妃たちも涙しながらその尊い光景を見つめる。
「うう……白亜さまが喜んでおられる……」
「グワラも元気になって良かったのう……」
「母さまが、母さまが……」
「母さま!」
フレシアとプレシアがグワラに駆け寄り涙するなか、ある事に気が付いたグワラは笑い声を上げる。
「彼方たちの顔はどうしたのです。あはははは、白亜さまの前なのに、そのふざけた顔は何ですか。あはははは」
涙しながらも落書きされた顔を見て笑い声を上げるグワラ。白亜もつられて笑い、フレシアとプレシアも肩を揺らす。
「改めて思うが妖精たちのイタズラには困ったものだのう……」
「あはははは、僕は笑える方が素敵だと思うぜ~」
「それよりも、アナタは確りとあの者たちを教育するのよ。私は民を集めこのような事が起きないよう一声掛けてまわります。ドーガス来なさい」
「は、はい!」
キャロライナの拳を固め迫力ある声に国王であり息子のドーガスが連れ去られ、顔を引きつらせる王妃とネロハと王子のドラニス。ドランも顔を引き攣らせていたが、これで一応は丸く収まったと胸を撫で下ろすのであった。
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