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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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ナナイを説得



「その、なんだ……ラライが海に生きたい話は村の若い連中から昨日聞いたが……その、ぷふっ……すまない……だが、ぷふっ、あははははははははは」


 オーガの村にエルフェリーンの転移魔法で到着したクロたちは畑で草むしりに汗をするナナイの下に訪れたのだが、顔に落書きのあるドラゴニュートたちが目に入り限界まで堪えていたのだが吹き出し顔を歪めるドラゴニュートたち。


「お母さん! 笑ったら失礼だよ!」


「いや、そうだが……ぷふっ……あはははは、顔に風景画を描くとか、ぷふっ、あはははははは」


 ラライの注意に冷静を保とうとするが一度ツボに嵌った笑いからは逃げることができないようで、新たに吹き出し笑い声を上げるナナイ。

 他のオーガたちは空気を読んで作業を中断し離れ、クロのまわりには幼いオーガたち囲まれ飴を配りながら「涼しい所で食べないと飴が溶けるぞ~」と声を掛けられ日陰へと走り出す子供たち。更には白亜とキャロットも子供たちと走り出し、それを目で追うドラゴニュートたちは複雑な心境なのだろう。


「白亜たちも楽しそうに走っているね~」


「うむ、幼いうちは皆と遊び、そこから学ぶことも多かろう……」


「ここ一年で白亜さまは毎日が楽しそうです。これもクロのお陰なのでしょうね」


 優しい笑みを浮かべ白亜を見つめるエルフェリーンたち。オーガの子供に混じり飴を口に入れ表情を溶かす姿に、ドラゴニュートたちは崇めるだけだった自身たちが対峙していた白亜の表情を思い出して歯を食いしばる。


「だ、だが、偉大なる白夜さまの……いや、そうかもしれないな……キャロットさまはアレだが、クロという男は白亜さまを自身の娘のように扱い、我々とは違う距離感で接している……白亜さまが戻りたくないと言っているのも……認める……」


 強襲してきたドラゴニュートの男の名はレルゲンといい、レルゲンについて来た姉妹はフレシアとプレシア。その姉妹の母グワラは竜の巫女長として巫女たちのまとめ役であったが、白亜が突然に消え喪失感から心を痛め家から出ることが無くなり、それ姉妹から相談されレルゲンは事を起こしたのである。


「白亜さまはあのように笑うのですね……」


「姉さまの顔を見て先ほども笑っておられましたよ……」


「…………………………」


 フレシアとプレシアは互いに視線を合わせ落書きに吹き出し、レルゲンもまた吹き出す。


「敗北し、このような落書きをされたのに、どうしてだか心が晴れやかだ……白亜さまがあのように笑顔を浮かべている所が見られたからかもしれんな……」


 小さく呟くレルゲンだったが、お腹を抱え未だに爆笑を続けるナナイにラライは少し心配になるのであった。







「で、海に行ってもいい?」


 場所を風通しの良い木陰に移したクロたちはラライが海へ行く許可をナナイに許してもらうべくお茶をしながら話し合っていた。

 ちなみにエルフェリーンとドランにキャロライナは落書きされた三名を連れ竜王国へ転移し、残ったのはクロとビスチェにロザリアとキュアーゼに小雪である。


「エルフェリーンさまが付いているのなら危険はないと思うが……」


「あのね、あのね、海って大きくて、しょっぱくて、お魚がたくさんだって!」


 海という未知の場所へ行くことが楽しみなのかテンションが上がり捲し立てるように話すラライ。ナナイはそんな娘がクロたちに迷惑を掛けないかと心配しているのである。


「小雪の家族もいっぱいいるんだって! アイリーンお姉ちゃんがモフモフ天国だっていってた!」


「わふっ」


 小さく鳴き尻尾を揺らし肯定する小雪。そんな小雪を優しく撫でるキュアーゼ。更にオーガの男たちは遠目にキュアーゼを見つめ、妻のオーガは額に青筋を浮かべている。


「向かう所はエルフェリーンさまの姉妹でエルファーレさまが治める島ですね。フェンリルを多く保護していて小雪もそこの出身です」


「そうなるとハイエルフさまだろ……う~ん、ラライが失礼な事をしなければいいが……」


「そこは大丈夫だと思うわ。エルファーレさまはとても寛大な御方だし、一緒になって遊ぶと思うわよ」


 顎に手を当て興味があれば走り出すラライの性格を心配するナナイに、ビスチェがエルファーレのざっくりした性格と子供っぽさがあることを説明する。


「バブリーンさまもいるだろうし、海で溺れても問題ないですね」


「バブリーン?」


「海竜のバブリーンさんです。以前に行った時に親しくなった商船の船長が釣り上げまして……凄く面倒見がい方でエルファーレさまが起こした津波も被害なく治めてくれたそうです」


「海竜にも知り合いがいるのかい……津波を治めたとか……壮大な話だね……」


 顔を引くつかせるナナイ。竜種は信仰の対象でもあるが元冒険者のナナイからしたら恐怖の対象でもある。白亜や白夜といった古龍種とは違い、一定の知能はあるが人を襲い怒りに任せ暴れ回る存在が殆どであるのだ。そんな竜の討伐は軍か冒険者に任されナナイも一度だが参加し、多くの犠牲を出しながらも生還した一人である。


「海竜の怒りを買うようなことはないだろうね……」


「釣られても怒らなかったですね。人化というスキルを持っているからか話もできますし、魚を取るのも手伝ってくれましたよ」


「海のお魚は美味しいんだって! クロにお願いしていっぱい持って帰って来るからね!」


 既に海へ行く気になっているラライの言葉に大きなため息を吐くナナイだが、娘のキラキラした瞳にクロへと深く頭を下げる。


「どうかラライを頼む。エルフェリーンさまやメリリが一緒に行くのなら危険はないと思うが、どうかハイエルフ様や海竜様に失礼がないようフォローを頼む」


 真剣な声で話すナナイにクロは頷き、ラライも許可が出たとその場で跳ねて喜び、小雪もそのテンションにつられラライのまわりを走り出す。


「はい、大丈夫だとは思いますが面倒はしっかりと見る心算です。あとお土産も持って帰りますので楽しみにして下さいね」


「ああ、それは楽しみだよ。昔、キュロットと依頼を受け海の魚を食べたがどれも美味かった。焼いた貝の味は今でも覚えているよ」


「ママとの冒険の話ね! 是非、聞かせて欲しいわ!」


 ビスチェも自身の母の冒険者時代を知りたいのか目を輝かせ、テンションを上げていたラライもビスチェの隣へと移動し身を乗り出して目を輝かせる。


「あの時は右巻きか左巻きか、どっちの貝が美味しかったかと口論になってね」


「へ?」


「三日月型の貝はスープで食べたが、今でも思い出せる最高味だった……きっと、味噌との相性もいいだろうね。他にも岩のような貝には真珠と呼ばれる玉が入っていてね、」


「お母さん、違う! そうじゃない! 貝の味じゃなくて、ビスチェママの活躍を聞きたいんだよ!」


 呆気に取られ固まっていたビスチェの気持ちを代弁するラライ。ロザリアやクロもうんうんと頷き、鼻の頭をかくナナイ。


「いや、キュロットの活躍は本人に聞いてくれ……酔った勢いで船着き場を破壊した事や泊めてもらった村長の家が半壊した事とか……私の口からはとても……」


 断片的にだが語ったナナイはオーガの子供たちと戯れるキャロットと白小雪へと視線を向けるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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