昼食と今後の方針
「へぇーそんな面白いことがあったのですか~私も落書きは見てみたいですね~で、味はどうですか?」
屋敷へと戻ったクロたちはアイリーンと七味たちが作った昼食を口にしている。メインは大根おろしが添えられた大量のカラアゲには甘みのあるポン酢が付き、ポテトサラダとライスとみそ汁に浅漬けの付いた定食形式である。
「これならカラアゲもサッパリ食べられて美味いな」
「うむ、大根おろしとポン酢が冷たく暑い日にも食欲が出るのじゃ」
「おかわりなのだ!」
「キュウキュウ~」
日中は三十度を軽く超える日々が続き午後には猛暑になり昼食は冷たい麺料理が多かったが、アイリーンが作ったカラアゲはサッパリと食べられ好評で食が進む一同。ドランとキャロライナの両名も昼食に加わり表情を溶かしている。
「それにしても急進派とは厄介な……」
「私が確りとしていれば……エルフェリーンさま、ラライ、本当に申し訳ありません」
食事の手を止めて頭を下げるキャロライナに、エルフェリーンは聞いていない風で唐揚げを口に運びラライは首を横に振って謝罪に恐縮する。
あの後、意識を取り戻したドラゴニュートの姉妹がドランとキャロライナを見て悲鳴を上げ再度意識を失い、その悲鳴で起きた男は顔を青くしながら事情を説明したのである。その結果、急進派は白亜を連れ戻し今までのような白夜を崇める生活がしたかっただけだと判明したのだ。したのだが、話を聞いていた白亜が首を左右に何度も振りクロに抱きつき激怒する男。
「白亜さまに馴れ馴れしくするな!」
そう声を上げる男。ドラゴニュートに取って白夜の娘である白亜もまた神に等しい存在でありそれに抱きつかれるという意味は大きい。白亜の面倒を見る役職を竜の巫女と呼び竜王国の王が任命しなければ合う事すらもかなわない存在なのである。それが、連れ帰ろうとし拒否され、更にはドラゴニュートではなく只の人族に抱きつき拒否したのだ。
この世界で最強種としてのプライドのあるドラゴニュートからしたら声を荒げるのも仕方のない事なのだろうが、その荒げた声に白亜が怖がるのもまた仕方のない事であり、白亜はクロから離れようとせず今も隣に座りカラアゲを口に運んでいる。
「私とドランで連れ帰り一族を説得しようかと思います」
「説得とは殴る事ではないと思うがのう……」
「一番早く理解できる方法だと思うわ……それに白夜さまが託したのです。違いないですね?」
白夜が錬金工房『草原の若葉』へ来たのは白夜が白亜の面倒を見るように会わせた当時を思い出し深く頷くクロ。
「はい、遅くても五年で戻ると言われ……」
「キュウキュウ~」
「そうですね。白亜さまは後四年ここで暮らせます。白亜さまの意思ももちろん皆に伝えて参ります」
「キュウキュウ~」
「はい、唐揚げのおかわりですね。お持ち致します」
笑顔で白亜の声を訳しカラアゲと大根おろしを添え皿に盛るキャロライナ。彼女もまた竜の巫女であった過去があり愛娘のように可愛がったひとりなのである。
「そしたら、僕が送って行くぜ~ついでにラライも一度送って行くからね~帰りはクロとビスチェに任せるからね~」
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「やった! 私は絶対に海に行く! クロもお母さんの説得手伝って!」
キャロライナは丁寧に頭を下げ、ラライはクロに笑顔を向ける。
「ナナイさんが許可してくれたな。オーガの村でも今の時期は夏野菜の収穫と草むしりで忙しいだろ」
「この時期はどこも畑が忙しいものね」
「それに比べたら田んぼは楽だのう。水を張っているお陰か畑ほど雑草があまり生えんからのう。池から水を引き込むからか小魚やエビが取れ、食卓が豪華になったぞ」
朝と夕方の涼しい時間に草むしりに汗するビスチェ。ドランも田んぼの管理に汗を流してはいるがゴブリンたちと楽しみながらしている事もあり苦にはならないのだろう。
「クロ先輩、この暑さだと地面に埋まって動けないと熱中症とかになりません?」
「それは大丈夫だと思うぞ。頭以外は土の中だし日が出ても大丈夫なように日除けも設置したからな。スポーツドリンクもストローを付けて置いてきたし、何かあったら妖精たちが知らせてくれるからな」
「クロは心配性だからね~ドラゴニュートは丈夫だから魔術の数発ぐらい耐えられるのに、気配を消して近づくヴァルに任せたんだぜ~」
「うむ、我も戦いたかったのじゃ……」
エルフェリーンからは笑顔でロザリアからはジト目でクレームを入れられたクロだがアレが最善だったと今でも思っている。魔化し体が強靭な鱗で覆われたドラゴニュートは確かに打たれ強いが、それを楽々貫通するだろうエルフェリーンの魔術とロザリアの剣技。奇襲で落下させ地面に落としたのはドラゴニュートたちへの配慮なのである。
「師匠とロザリアさんが戦えば確実に勝つでしょうが、大怪我させると思ったからです。ヴァルなら大怪我させてもすぐにエクスヒールで回復できますから任せたのであった、師匠たちが負けるとは微塵も思っていませんから」
その言葉に気を良くした二人は笑みを浮かべ、ビスチェは口を尖らせながら口を開く。
「私も戦いたかったわ……」
それに同意するように頭を立てに振るキュアーゼとアイリーン。
「うちの女性たちは戦闘狂ばっかりかよ……」
ポツリと漏らしたクロの言葉に頷くドラン。
「あら、戦えば戦うだけ強くなれるのよ。クロだって最近はナイフの使い方が上手くなってきたし、体術だって前よりも上手くなっているわ」
「体術は確実に伸びています。この前は巴投げという技を初めて受けて驚きました」
「実戦で使えるとは思えませんが、驚きはしましたね」
いざという時の為に戦闘訓練を欠かさない『草原の若葉』たち。クロの相手はビスチェかシャロンがしているのだがその際に柔道の技である巴投げを披露し驚かれたのだ。ただ、一番喜んだのはアイリーンで鼻息荒く「寝技に持ち込め~」と叫び、クロのやる気が一気に削がれたのは仕方のない事だろう。
「対人戦としてなら使えるかもしれないわよ。エナジードレインと組み合わせてフラフラになった所を投げてもいいわね」
妖艶な笑みを浮かべながら食事を終えたキュアーゼは冷たいお茶を口にする。
「サキュバスが使う分には有効的な技かもしれませんね。今度僕に教えて下さい」
微笑みを浮かべるシャロンだが、その横からは殺意の籠った瞳と、更に前方からは鼻息を荒くする腐ったアイリーンからの視線を受け、苦笑いするクロ。
「私もやってみたい!」
「キュウキュウ~」
「白亜さまもやってみたいと言っているのだ!」
ラライと白亜も柔道を覚えたいと口にしキラキラした瞳を向ける。が、クロは別に柔道の有段者という事もなく鼻息を荒くしていたアイリーンへ視線を向ける。
「柔道の本を貸すからアイリーンに教わるといい。何なら柔道着とかも魔力創造で創れるからな~」
そう口にしながら食事を終えたクロは食器を片付けリビングを後にし、「柔道とは――――」とアイリーンが精神論を語り始め興味深く耳を傾ける一同。
「普段の組手でも気を使うのに柔道とか……俺が穴に埋められる未来視か見えないな……」
体の接触が多い柔道で起こるだろうハプニングを想像し、頭だけ地面から生やしたドラゴニュートたちと同じ運命を辿ると思案するクロなのであった。
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