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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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落書き



「では、主さまのお気持ちを汲み、できるだけ穏便に始末して参ります」


 空気に溶けるように姿を消すヴァルにクロは大きなため息を吐いて空を見上げ、天魔の杖を構えたエルフェリーンとレイピアに魔力を通すロザリアを止めるべく声を掛けようと口を開くが、「ぬぁ~~~~~~ん」という珍しい叫びと共に落下するドラゴニュートの男と、絹を切り裂くような悲鳴を上げ落下するもう一人のドラゴニュートの女。


「こっちも地面に拘束した方がいいわね」


 後ろから聞こえたアルーの声に振り返り止めようとするが、地面に落下したと同時にスブスブと音を立てて頭以外地面に埋まるドラゴニュートたち。


「ちぇっ、僕の出番がなかったよ……」


「我もなのじゃ……」


 意識を失い地面から生えている三つのドラゴニュートの頭を見つめぼやくエルフェリーンとロザリア。怪我なく撃退できてよかったと思いながらも、目の前に急に現れ片膝を付くヴァルの姿に驚くクロ。


「討伐完了です。多少力を入れましたが魔化したドラゴニュートは強固な鱗に覆われておりますので問題ないかと」


 そう口にしながらも顔を上げるヴァルは褒めて欲しいのか、撫でて欲しい小雪と同じような表情で本来ない尻尾を左右に振る幻影が見えるクロは「助かったよ」と口にしヴァルの翼が大きく開き喜びを表す。


「完全に気を失っておるが……どうするのじゃ?」


「僕がバインドでグルグル巻きにして竜王国に捨てて来てもいいけど、ここはドランとキャロライナに任せるのはどうかな? あの二人なら何か知っているかもしれないし、急進派だっけ? 何かしらの悪巧みをしているのならキャロライナが知るべきだろうしさ」


 意識を失ったドラゴニュートを前にエルフェリーンが解決策を話し、それに頷く一同。妖精たちはマジックを持ってドラゴニュートの顔に落書きをはじめ、この世界でも顔に落書きする時は額に文字を書き入れるのかと思うクロ。


「何かありましたか?」


 グリフォンに乗り空を駆けていたメルフェルンとキュアーゼにシャロンが異変に気が付いたのか降り立ち晒し首になったドラゴニュートを前に絶句する。が、落書きに肩を揺らしはじめ、意識はなくとも呼吸があり時折動く表情に生きている事を確信する。


「角からしてドラゴニュートのようだけど……ぷぷっ、埋められるような事をしたのかしら?」


 キュアーゼの疑問にエルフェリーンが簡単に説明しニヤリと口角を上げる。


「ふふ、おいたをした悪い子にはお仕置きをしないとねぇ~」


「もう十分にお仕置きはしましたから、てか、実行中ですよ!?」


「あら、私はこいつらを踏みながら優越感に浸りたいわ」


 妖艶な笑みを浮かべるキュアーゼに、クロはシャロンへと視線を送り助けてくれと目で訴え、それに気が付いたシャロンはキュアーゼへ口を開く。


「それよりもキャロットさんたちを呼んできた方が……もしかしたら友人かもしれませんし、頭を踏むのは……」


 引いているシャロンの言葉にハッとするキュアーゼは慌てながら「じょじょじょ、冗談よ~冗談だからね!」と動揺しながら弁明し、瞬時に魔化すると逃げるように結界内へと入りキャロットを探しに行く。


「ふぅ……流石はシャロンさまです。サキュバニア帝国の恥を晒さずに済みました……」


「ああ、うん……クロさんに頼まれた気がしたからね……」


 微笑みシャロンはクロへと視線を向けホッとしている事に気が付きメルフェルンへと視線を戻す。視線を戻されたメルフェルンは一瞬で微笑みを浮かべ数秒ほどクロへと向けていた氷の視線などしていないと誤魔化すように口を開く。


「曇っているとはいえ、この者たちをこのまま放置しては熱中症になる危険があります。ドランさま方を呼びに行くのであれば私とシャロンさまでグリフォンに乗り、」


「そこは僕が転移魔法を使うから問題ないよ。じゃあ、行ってくるね~」


 メルフェルンの提案を遮り天魔の杖を掲げ転移の門を出現させたエルフェリーンは素早く中へと入り消え、シャロンとの空のデートを提案したメルフェルンはその場に膝を折り失敗した事を悔い、ゆっくりと拳を固め行き場のない怒りをぶつけるべく妖精たちが落書きを終えたドラゴニュートの頭部に視線を定め、吹き出す。


「ぶふぅ!? こ、この落書きは酷いですね。ふふ、ふふふふふふふ、あははははは、ダメです。ドラゴニュートなのにチョビ髭や眉毛を太くくふふふふふふ、瞼の上に瞳を書き入れるのも、あははははは」


 妖精たちの悪戯のお陰で怒りは収まったがしゃがみこんだままお腹を抱えるメルフェルン。他の二人のドラゴニュートには額にドラゴニュートの頭文字を書き込まれ頬には喧嘩上等やチンピラなどの文字が入り、もう片方のドラゴニュートには風景画が描かれ瞼や鼻の穴を器用に使い浮かぶ雲や木々に花々として使われている。ぱっと見は顔だと気が付かないレベルである。


「落書きというよりも芸術なのじゃ……」


「この画力を落書きに使うのはもったいないですね……」


「鼻の穴を木の洞と影に使っているのも凄いな……」


 一般的な落書きの方はメルフェルンが抱腹絶倒で評価し、風景画の方を見つめ感嘆の声を漏らす一同。そこへ転移の門が再度現れ戻って来るエルフェリーン。ドランにキャロライナも姿を現し、地面から顔を出し落書きされた姿に肩を揺らすドランと大きなため息を吐くキャロライナ。


「ガハハハハ、これは見事な敗者だのう。これほどの屈辱を受ければこやつらも反省せざるを得ないじゃろう」


 大声で笑うドランに対してキャロライナは顔を確かめ、ちょっとだけ吹き出すが冷静に誰かを判別する。


「急進派と口にしていたそうですが……名乗りを上げましたか?」


 クロへと視線を向けるキャロライナ。


「いえ、殿下と妹と呼ばれていた以外は……」


「ドラゴニュートの中で殿下と呼ばれるような存在はそこのドランと数名……この落書きでは誰の息子か判断が……」


「ヴァルにお願いして浄化魔法を掛けましょうか?」


 その言葉に首を横に振るキャロライナ。


「面白いのでそのままにして下さい。彼らの反省できるでしょうし、その風景画はとても良く描けています」


 冷静な口調で褒めるキャロライナにエルフェリーンが吹き出すのは仕方のない事だろう。


「恐らくじゃが、この姉妹はグワラの娘だのう。落書きをされておるから断言はできぬがまだ幼い時に肩車をした事があるのう」


 昔を懐かしむように優しい笑みで顔だけ出すドラゴニュートの女性を見つめるが、落書きのインパクトが勝り吹き出すドラン。


「あら、グワラの家には以前にも頻繁に通い浮気を攻められたのに、まだ通っているのですか?」


 微笑んでいるが目が笑っていないキャロライナからの質問にドランは首を横に振る。


「前も言ったがグワラが目的ではなくドーガルと釣りの話をしていただけだ。あの頃は釣りに凝って、竿の種類や餌に疑似餌なる糸で作った針を作っておっただけ。やましい気持ちなど一切なかった!」


 早口でまくし立てるドラン。ドランの会話からこの世界にも疑似餌があるのかと感心するクロは今度リールを使った魚釣りをしようかと思案する。


「呼ばれたから来たのだ!」


「きゅう……」


 白亜を抱きながら大声を上げこちらへ全力で走るキャロット。その後ろにはキュアーゼが低空で飛びながら追いかけ一団を見つけると急停止し、視界に入った落書きされたドラゴニュートを見つけ爆笑するキャロット。白亜も眠そうではあったがキャロットの笑い声と落書きのインパクトに目を覚まし、一緒になって笑い声を上げるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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