ドラゴニュートの強襲
五重のシールドを展開したクロだったが槍はヴァルのランスが一閃し弾かれた槍は地面に転がり、エルフェリーンとロザリアは天魔の杖とレイピアを構え、クロはアルーの近くにシールドを新たに展開し妖精たちとラライを避難させる。
「ゆっくりと降りてくるが、アレは宣戦布告でよいのじゃな?」
ギラリと光るレイピアは先日ルビーが新たに制作したアイアンアントの爪と魔鉄の合金で、内部にはミスリルを使い魔力伝導を高め、更にはエルフェリーンがエンチャントし切れ味と耐久性を強化した一品である。
もしこれがダンジョンから産出されれば国が買い取り国宝になるか、冒険者が一躍ランクを上げ英雄へと祭り上げられるだろう。
「冗談で槍を投げてくる方が問題だぜ~ナナイから預かっている大切な娘に槍を向けたんだ……僕は竜王国を敵に回しても戦っちゃうぜ~」
天魔の杖を構えるエルフェリーンが発した言葉に、キャロットの故郷が無くなると思ったクロは二人の前に出て口を開く。
「ヴァルストップ! 師匠、まずは話してみましょうよ。竜王国がなくなったらドランさんやキャロットが困るでしょうし……何か理由があるのかもしれませんし……ダメですか?」
真っ先に飛び出して行こうとしたヴァルと止め、シールドを前面に展開したまま振り返ったクロに納得がいかないのか頬を膨らませるエルフェリーン。ロザリアも目を細めクロを見据える。
「売られた喧嘩は買う主義なのじゃが……クロがいうのなら仕方がないのじゃ……」
渋々といった表情へ変わり降りてくるドラゴニュートへ眉を吊り上げるロザリア。
やっぱり女性を怒らせたら怖いな、と思いながらシールドを維持しながら降りてきたドラゴニュートの三名へ視線を向けるクロ。
ドラゴニュートは男性と女性二人でキャロットよりも若いのかやや幼さの残った顔をしており、エルフェリーンが先に行ったように角に枝分かれなどがなく若いのだろう。
「ここに白亜さまがいると聞いている! 差し出せば命は取らないでおいてやろう!」
地面に降り立つことなく叫ぶドラゴニュートの男にやっぱりその件だろうなと思うクロ。ドラゴニュートに取って白亜は七大竜王の白夜という神に等しい存在の娘であり、その世話をするのは巫女の役割と決まっている。
巫女もまた神格化されドラゴニュートに取っては誰もが成りたい職のひとつであり、ここへ来たばかりのキャロットが白亜に懐いた姿を目に入れた時はクロを敵視したほどである。
「クロ、もうやっちゃっていいよね?」
「うむ、白亜を見ておれば付いて行きたいと言わぬと思うのじゃが?」
「主さま、ラライさまに槍を向けた蜥蜴の討伐をお許し下さい」
向けられた乙女たちからの言葉にクロが首を横に振り、大きく深呼吸すると声を上げ叫ぶようにドラゴニュートとの対話を試みる。
「白亜は自分が白夜さんに任され、」
「白亜さまといわぬかっ!」
出鼻を挫くように叫びを被せるドラゴニュートの女性。自身たちの神に対して呼び捨てなことに怒りに震え尻尾も警戒と怒りを表しピンと立てる。
「えっと、白亜さまは自分が白夜さんに、」
「白夜さまといわぬかっ!」
話が進まないなあ、と思いながら後頭部を掻きながら訂正して声を上げるクロ。
「白亜さまは自分が白夜さまから任され大切に育てています。それにドランさまやキャロライナさまからそちらへ、この事は伝えていると思うのですが」
「その通りだな。確かに前竜王さま方からその通達は受けている。が、我々、急進派は白亜さまを保護し、竜王国の新たなる栄光へ導くため――――」
新たな槍をアイテムボックスから取り出しながら演説のように喋り出すドラゴニュートの男にエルフェリーンとロザリアはクロへ視線を向け、その瞳はやっちゃっていいよね? というものであった。
「これって反乱?」
「反乱はダメだね~」
「反乱は逮捕だ~」
「下~剋~上~」
ラライと共に妖精たちが好き勝手に声を上げ、それが気に入らなかったのかドラゴニュートの後ろに控えていた女が槍を構え急降下し、クロは新たにシールドを増やすし展開する。
「新たな王の言葉を黙って聞けぬ無礼者には、キャッ!?」
槍を構え急降下したドラゴニュートの女だったが、地面から突如現れた多くの棘付きの蔓に驚き急上昇を試みるが捕縛されそのまま地面へと叩きつけられ、更には顔だけ残し地面に埋められ妖艶な笑みを浮かべるアルー。
「アルーすごい!」
「反乱分子を逮捕~」
「逮捕~人質~」
「命が惜しくば飴を寄こせ~」
キャッキャする妖精たちにクロは思う。一瞬でこちらが悪役になる様な叫びを上げないでくれと……
「なっ!? アルラウネだと!? エリクサーの材料といわれる幻の亜人種がいるとは驚きだが、ドラゴニュートに手を出すという意味を理解しているのか?」
眉を吊り上げるドラゴニュートの男。後ろの女も同じように怒りを露わにして槍を構える。
「ドラゴニュートに手を出しちゃダメな理由? 僕からしたら二度も襲ってきた君たちが、新たな竜王国の国王になるには力不足だと思うけどなぁ~」
「うむ、最低でもドラン殿クラスの戦闘力を保持していなければ国として纏まらんのじゃ。それこそキャロットが……キャロットに任せるのも心配なのじゃが……」
そう言いながら振り返りクロへと視線を向けるロザリア。
「あの、こっちに話を振られても……って、こら! 顔だけ出しているドラゴニュートさんの顔に落書きをするな! ラライもシールドの中に戻る!」
顔だけ埋まっているドラゴニュートの女の顔に落書きを始めた妖精たち。以前、クロが水性のマジックをプレゼントし、それを使い顔に落書きをし始めた妖精たち。ラライも興味があるのか近くで見ながら肩を揺らしているが、クロに注意させ慌ててシールドを展開してあるアルーの近くへと下がり妖精たちもそれに続く。
「私の妹に何て事を! こ、このような屈辱……殿下! 今すぐこの者たちに鉄槌を!」
「ああ、ドラゴニュートの恐ろしさを味合わせるべきだろうな……」
ドラゴニュートの男がクロたちへ視線を向けると空気が一変し、その姿が変化し始める。
魔化である。魔化とは特定の種族が本来の力を開放する手段であり、メリリなどのラミア族なら下半身が蛇へと変わり魔力量も増加し、シャロンやキュアーゼのようなサキュバスならコウモリのような翼と黒い尻尾が生え、アイリーンのようなアラクネは下半身を蜘蛛に変える。
ドラゴニュートの魔化した姿は竜そのものであり、最強種といわれる由縁である。
「この姿になったからには手加減できないからな!」
ドラゴニュートが魔化した姿に戦慄が走る。
「師匠、小さくないですか?」
違った意味での戦慄が走り、空に浮かんだドラゴニュートが魔化した姿に驚くクロ。
「小さい? ああ、ドラゴニュートが魔化した姿は本来あのぐらいだよ~自身を纏う鱗が増えて筋力や魔力が竜と似たものになるからね~ドランやキャロットが魔化した姿は別格で、あれは本来持つ魔力量の高さと血統によるものだね~」
「サイズが小さいというだけで凄味がなくなるのじゃな……」
「キャロットちゃんの背中に乗ったことあるけど、アレだと小さくて乗るの怖いかも……」
ドラゴニュートの男の魔化した姿は確かに竜の姿ではあるのだが、全身に鱗が生え爪と牙が伸びただけでその大きさはひと回りほど大きくなった程度であった。ドランやキャロットが魔化した姿は恐怖を与えるのに十分なほど大きく、それを知っているクロもまた恐怖よりも拍子抜けであり安堵しながらヴァルに声を掛ける。
「できるだけ傷付けないように無力化できるか?」
「主さま、生きてさえいればエクスヒールで回復させることが可能です!」
ラライに向けられた槍の件をまだ怒っているのだろうと理解しつつも、クロはヴァルにエルフェリーンやロザリアが手加減なしで討伐する前に、あくまでも穏便に事態の収拾をして欲しいと思うのであった。
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