ご褒美と……
「やった! これで最後!」
箒と塵取りを使い綺麗に掃き上げた岩の内部は鏡のように美しく、最後の砂を樽に入れたラライは汗を拭いながら達成感を味わい、その横ではエルフェリーンが魔術を使い底に穴を開け始める。
「こうして水と回収した砂と混ぜて外側から圧力をかけ、穴を開けたいところに向かって一点集中し放出!」
凄まじい威力で放出した水と砂はウオーターカッターと同じような威力を持ち三十秒ほどでそこに貫通する。ゆっくりと丸を描くように穴を広げ、終える頃には底から地面が見えるほどの穴が開き満足気に頷くエルフェリーン。
「おおおお、やっぱりエルフェリーンさますごい! 綺麗な穴が開い!」
「うんうん、僕は凄いね~理想の穴の完成だよ!」
キラキラした瞳でエルフェリーンを見つめるラライに、腕組みをして穴を覗き込むエルフェリーン。二人は互いに笑い出して炎天下の作業を終わらせると妖精たちがキャッキャしはじめ、開けたばかりの穴から顔を出したりラライの頭の上にツノに掴まったり水を掛け合ったりと作業の終了を祝う。
「こっちに溜めた水はアルーが好きに使うといいよ。妖精たちは下のため池で遊ぶんだぜ~」
大岩を半分にカットし、片方には雨水が溜めアルーが自身で水浴びができる貯水槽にし、もう片方は妖精たちが水遊びできる程度の深さの浅い貯水層になっている。そこに穴を開けたのは貯水槽が汚れた際に掃除がしやすいよう排水する為の穴である。
「本当に助かるわ。この地に連れてこられた時は危機感を覚えたけど、大切にしてくれて……妖精やキラービーたちも虫を排除してくれてありがとう」
アルーからのお礼にエルフェリーンは笑顔で応えラライも「えへへ~」と表情を崩し、妖精たちは飛び回って喜びを表現する。
「最後にこの筒とこれを使って穴を固定すれば完成だぜ~」
塩ビ管とシリコン接着剤を手にしたエルフェリーンが開けた穴に塩ビ管を通して接着剤を隙間に流し込む。塩ビ管にはボールバルブと呼ばれ取手が付いており、それを捻れば水が流れる仕組みになっている。
「接着剤が乾くまで一日ぐらい掛かるから、明日には水を満杯まで入れようぜ~」
「それは楽しみね。この暑い季節さえ乗り越えれば実りの季節が来るもの」
「その時は甘いお芋を分けてくれよ~」
「もちろんよ。クロのガツンとくる肥料のお陰でいっぱい大きく育ったわ。あれは本当に素晴らしいものよ~」
上半身を左右に揺らしながら話すアルー。肩や蔓に掴まっていた妖精たちはキャッキャと喜び遊具と化している。
「そろそろ休憩にしませんか?」
白亜たちと遊んでいたクロが小雪を連れ現れ妖精たちが一気に飛来しクロのまわりを旋回し、ラライも汗だくの姿で走り笑みを向ける。
「クロ! 頑張ったよ!」
「おお、偉いな。頑張った子にはご褒美をあげないとな。ヴァル」
ご褒美という単語に笑みを浮かべるラライ。妖精たちもキャッキャしながらご褒美という単語に興味が湧いたのか尋ね、召喚の宝珠を手にはしていないがヴァルの名を呼ぶと姿を現し妖精たちが驚くも、膝を付く姿に首を傾げる。
「みんなに浄化魔法をお願いしてもいいか」
「主さま、お任せ下さい!」
顔を上げたヴァルは素早く立ち上がり浄化魔法を使うとラライを中心に光が降り注ぎ土や砂だらけだった者たちが輝き、一瞬にして砂や土の汚れが消え失せる。
「まずは水分補給だな」
そう言ってアイテムボックスからスポーツ飲料を取り出すと配り、エルフェリーンやロザリアも受け取ると喉を潤し、テーブルとまな板を取り出すクロ。
「ぷはぁ~生き返るよ~」
「うむ、甘さの中にある塩味が心地よく感じるのじゃ」
「これ美味しいよね! 汗をかいた後に飲むと元気になる!」
スポーツドリンクを口にしたラライたちが喉を潤しているとアルーのまわりにいた妖精たちがクロへと突撃し、目の前でホバリングしながら一斉に口を開く。
「クロ~クロ~アルーもアレが欲しいって~」
「ガツンと来るアレが欲しいって~」
「お芋を大きくするアレが欲しいって~」
「渡してもいいが、使い過ぎるなよ~使い過ぎると根にダメージが入り枯れる原因になるからな~」
妖精たちからの頼みにクロは土に差し入れるアンプルタイプの肥料をアイテムボックスから取り出し妖精に渡すと、アルーの元へと飛びクロに向かって手を振りお礼を口にする。
「クロ、クロ、あれも美味しいの?」
「さあな、植物用の肥料だし、口に入れるのは禁止されているから美味しいとは思わないが、ラライは飲みたいか?」
クロはアイテムボックスから色々と取り出しながら話し、勢い良く首を横に振るラライ。
「代わりに今から果物を切るからそれを食べろよ~」
「わぁ~マンゴーにパイナップルに梨もあるぜ~どれも甘くて疲れが吹っ飛ぶ美味しいやつだぜ~」
「うむ、マンゴーじゃ別格なのじゃ」
「梨以外は見たことないよ! どれも美味しいそう!」
ナイフを使い器用に皮を剥くクロをキラキラした瞳を向けるラライ。妖精たちもラライと同じように興味深げな瞳を向け、アルーはアンプルタイプの肥料を根元に刺しガクガクと震えながらも恍惚とした表情を浮かべる。
「あんまり食べ過ぎるとアイリーンが作る昼食が食べられませんから注意して下さいね」
そう言いながらガラスの器に三種類の果物を用意する。食べ過ぎ防止の為に三名には小皿に盛り、妖精たちには大きな皿に小さく切った果実を盛りテーブルに置くと一斉に群がる妖精たち。
ラライたちもよく冷えた果肉を口に入れ表情を溶かし、クロはパイナップルの芯を小雪の口元に向けると齧り付き甘さと硬さのある食感が嬉しいのかガジガジしながら尻尾を揺らす。
「ううう、美味しくて一瞬でなくなっちゃった……」
空になった器を見つめるラライに、クロは自分用の皿からマンゴーとパイナップルの果肉を分けると目を見開き、顔を上げて満面の笑みを浮かべる。
「いいの!?」
「ああ、ラライが一生懸命に汗して頑張ってくれたからな。もちろん師匠たちもですが」
「そうだぜ~暑かったけど頑張ったぜ~穴もちゃんとしたし、クロが指示したようにパイプを入れて接着したぜ~」
「我はそれほど手伝わなかったが、それなりに手伝いもしたのじゃ」
ラライと違い一気に食べずに味わっている二人にクロは残りの果肉を分けると微笑みを浮かべお礼をいうと口に運ぶ。妖精たちも自身の拳大にカットされた果肉に齧り付き夢中で食べる姿に微笑みを浮かべるクロ。
「ん? 魔力が三つ……」
マンゴーを口に入れ飲み込んだエルフェリーンは薄く曇っている空へと視線を向け、釣られてクロたちも空を見上げると雲の隙間から三体の人型が視界に入り魔力を込めて見つめるクロ。
「あれはドラゴニュート?」
「槍を持っておるのじゃが……」
「角の艶や肌の張りからすると成人に成り立てなのかな?」
空から降りてくるドラゴニュートの姿に手を大きく振るラライ。
次の瞬間、手にしていた槍を構え投げる仕草に気が付きクロはシールドを展開するのであった。
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