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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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昭和の飛行機と水鉄砲



 朝食のパンケーキにはカリカリのベーコンとスクランブルエッグがトッピングされ、レバーパテやメイプルシロップの各種ソースや、トマトベースのスープに葉野菜のサラダが彩りよくテーブルを飾る。


「アイリーンお姉ちゃんの料理も美味しかった! 甘くてしょっぱくて、美味しかった!」


「甘いだけじゃないパンケーキも美味しいわね!」


「でも肉が薄かったのだ……」


「キュウキュウ……」


 キャロットと白亜以外には大満足だったようで満足げな表情を浮かべる乙女たち。キャロットと白亜も甘いものが好きなのだが食事というよりもおやつ感覚が強いのか、がっつりしたサンドイッチやライスの方が好みのだろう。


「それなら昼食はガッツリした食事にしないとだな」


「それがいいのだ!」


「キュウキュウ~」


 多少しょげていたキャロットと白亜は笑みを取り戻して尻尾を仲良く揺らす。


「それでは俺たちは村に戻りナナイに伝えるぞ」


「うん、僕が許したとちゃんと伝えてよね~今日の午後か明日にでも僕が行くからその時にナナイから許可を貰おうぜ~」


 ラライと一緒に来ていたオーガたちに伝言を頼み、ラライとエルフェリーンにクロは見送りに外へ向かう。ロザリアやキャロットたちもぞろぞろと外へ向かい手を振りオーガたちを送り出すと、クロは昨日の作業の続きをしようと結界の外へ向け歩き出すが肩を掴まれ制止し振り返る。


「また倒れたらエルファーレさまの所へ行く日が遠のくわ! 今日もゆっくり休みなさい!」


「砂をかき出す作業はラライや僕がするからね~」


「ね~」


 肩を掴んだビスチェから止められ、エルフェリーンとラライは結託しているのか笑顔で声を上げ、昨日迷惑を掛け本日は家事禁止を言い渡されていたクロは「では、お願いします」と言葉を残して屋敷へと足を向ける。


「もう回復しておりそうじゃが、ゆっくりと休ませるのも必要なのじゃ」


「クロはやり切るまで作業をやめないからね~朝食だってアイリーンが作らなかったらきっとクロが作っていたぜ~」


 本日の朝食はアイリーンが担当してパンケーキをメリリと共に制作したのだ。昼食もアイリーンが作る事になっているが、キャロットと白亜が満足できるようなガッツリとした料理でなければクロが何かしら手を出す可能性もあるのだろう。


「ゴリゴリ係の時もそう……あれは手を抜かれると困るけど……」


 口を尖らせながら村へ戻るゴブリンを見送るビスチェ。


「ふぅ~ん、でも、だから料理が美味しいのかな?」


「そうかもしれないね~晴れた日と雨の日で味の濃さが違ったり、熱々の料理は出さなかったり、出しても最初に熱いと教えてくれるぜ~」


「ピザを初めて食べた時は熱さに驚いたがクロが言っていたのじゃ。火傷するほど美味しいから注意するようにとな」


「初めてアイスを食べた時も冷たいから驚くなよ~とか言われたわね」


「アイス!」


 ビスチェから出たアイスという単語に元気いっぱいで反応するラライ。


「ラライはアイスが気に入っておるのじゃな」


「うん! クロのアイスは凄いんだよ! 飴も人気だけどアイスはお母さんも大好きなの! 人数分出せないからってこっそり食べさせてくれたけど、本当に美味しかったの! 冷たくて、口の中で溶けて、甘くて……大好き~」


「じゃあ、今日はクロにお願いしてアイスを出してもらおうぜ~その為にも砂を全部出しちゃおうぜ~」


「うん! 頑張る!」


 両手を上げひとりで走り出すラライ。それを追い掛けるエルフェリーンとロザリア。ビスチェはひとり残されたが菜園へと向かい、毎日のように芽を出し農家を困らせる草むしりに汗するのであった。






「キュキュウ~」


「わふっ!」


「行くのだ~」


 白亜と小雪にキャロットが見つめるなかゴムを引いてグライダーを構えるクロ。最近、キャロットと白亜がはまっているグライダーを飛ばして追い掛ける遊びにクロも参加し、クロが飛ばす番になりそれを見つめ、いつでも走り出せる構えで声を掛ける。


 今クロが手にしているグライダーはゴム飛ばしグライダーと呼ばれる昭和から縁日や駄菓子屋で売り出されていた物で、手軽に買える飛行機ということもあり子供に人気の玩具である。飛行機自体は同じ形をしているが色合いが違いキャロットと白亜も自分の物を持っているが飛んでいるそれを追い掛けることが好きなようで、クロが構えると獲物を追い掛ける狩人の目に変わり早く発射して欲しいのか、うずうずとしながら翼をピクピクと動かす姿に微笑みを浮かべる。


「行くぞ!」


 グライダーから手を放しゴムの力で空へ舞い上がると一気に走り出すキャロット。白亜と小雪は大地を蹴るように勢いをつけスピードに乗り、キャロットの翼が開き空へ舞い上がり白亜もそれに続く。小雪は遠近感を無視するように巨大化するが空を飛ぶ事はなく不利に見えるが一歩一歩が大きく飛び上がった小雪の鼻先を掠めるグライダー。


「ありゃ、風の精霊か?」


 不自然に急上昇したグライダーにはキラキラと光の粒子が舞い、クロは目に魔力を集め見つめる。


「黒猫に翼があるが……」


 魔力で強化したクロの視界にはグライダーに寄り添う黒猫が空を走る姿が映り、精霊特融の光の粒子も見え契約していない野良精霊なのだろうと思いながらも精霊の契約者であるビスチェへと視線を移す。


「ふぅ……何よ……」


 草むしりをしながら汗を拭っていたビスチェからの言葉にグライダーを指差すクロ。


「ああ、風の精霊ね。見かけたことがあるわ。猫の姿をした精霊は好奇心が強いのよ」


「それでか……楽しそうに並走しているなと……おお、宙返りした!」


「風の精霊が楽しんでいるわね。あれをやられたらキャロットたちには捕まえられないわね」


 空を追い掛けるキャロットと白亜だったがもう少しの所で宙返りを披露するグライダー。空という事もあり急停止する事は出来ず後ろを振り返り旋回する一人と一匹。小雪は空高く舞うグライダーを見つめ諦めたのか、クロの元に戻りサイズも小さく変化して優しく頭を撫でられ尻尾を揺らす。


「小雪にはあの高さは無理だよな……今度は小雪が気に入る玩具を考えないとだな……」


「それなら水の精霊と土の精霊が楽しめる玩具も出して欲しいわ」


「精霊が楽しめる玩具とか……水鉄砲とかか?」


 魔力創造で拳銃型の水鉄砲を創造するクロ。それを見て目を輝かせるビスチェ。


「水鉄砲という名前から察するに水が関係しているのよね?」


「ああ、ほら、ここから水を入れて引き金を引くと水が出るからな」


 アイテムボックスから水の入ったペットボトルを取り出すと蓋を開けて水を入れるクロ。それを奪うように手にして引き金を引くビスチェ。


「凄い! 水が出たわ! 水魔法みたいだわ!」


 子供のようにはしゃぐビスチェと青い鳥の姿をした水精霊。光の粒子がビスチェと水鉄砲を包み込み思わず見惚れるクロだったが、グライダーが胸元へと帰還しそこへ飛び込むキャロットと白亜。大柄のキャロットと白亜の突進力をまともに受けたクロは勢いそのままにゴロゴロと一緒になって転がり土まみれになるが、土の精霊が気を使ってくれたのか地面は柔らかく手を付いた近くから顔を出す半透明のモグラの姿に痛みを堪えて礼を口にするクロ。


「止まれなかったのだ!」


「キュウキュウ!」


 クロのお腹の上に馬乗りになっているキャロットと、クロの足にしがみ付き鳴き声を上げる白亜。


「それよりも早く逃げた方がいいぞ。ビスチェが銃を構えて鬼の表情だ……」


 恐る恐る振り返ったキャロットと白亜の顔面に水流が直撃し、「わぷっ!?」とリアクションを取ると急いで立ち上がり逃げるキャロットと白亜。


「ごめんなさいなのだ~」


「キュウキュ~」


 両手を上げて逃げる一人と一匹を追い掛けるビスチェ。怪我無いよう土の精霊が地面を軟らかくした事で菜園の一部が崩れたこともあり眉を吊り上げて追い掛けるビスチェ。さらに小雪がそれを追い、どことなく楽しそうに見える風景に暑さも忘れ笑い声を上げるクロであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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