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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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アイリーンの作る朝食風景



「久しぶりに二度寝したな……ふわぁ~」


 自室で大きな欠伸をしたクロはベッドから降りると体を大きく伸ばし、カーテンを開けもう明るくなった空から中庭を眺める。視線の先ではビスチェが精霊魔法を使い両手から水を放出し薬草畑に水やりをし、ラライとロザリアは如雨露じょうろで花壇に水をやっている。

 他にも自主練習なのかシャロンとメルフェルンにキュアーゼがグリフォンたちを連れ屋敷の外へジョギングしながら散歩する姿が見え、クロは大きな欠伸を再度しながらも普段着に着替える。


「フィロフィロのアレは散歩に入るのかな」


 走るシャロンの頭の上に乗っていたフィロフィロの姿を思い出し微笑みを浮かべ着替えを終わらせると自室と後にし階段を降りる。降りるのだが、エルフェリーンと契約をしている地脈の蛇と呼ばれる白い大蛇と目が合い悲鳴を上げそうになるが、クロから視線を外しいつもの様に天井へとその長い胴を持ち上げ視界から消え、大きく息を吐く。


「精霊だとわかっていてもあのサイズの蛇には毎回ビビるな……ん? 甘い香り……」


 吹き抜けという事もありキッチンから香る匂いに足を進め、リビングへと辿り着くとアイリーンとメリリが仲良く料理する姿が見え声を掛ける。


「おはよう、何か手伝うか?」


 その声に振り向いたメリリは挨拶を返し竈に視線を戻し料理に集中し、アイリーンは「タイミングばっちりです! 熱いうちにクロ先輩のアイテムボックスに収納して下さい!」と声を上げながらも視線はフライパンを見つめ器用にひっくり返す。


「焼けているものは全ていいのか?」


「はい、クロ先輩なら収納しても温かいまま保存できますからね~このチート持ちめ!」


「チートいうなよ……」


 アイリーンの指示通りに焼けていた数枚をアイテムボックスに入れると、キッチンの隅に移動して次が焼けるのを待ちながらもナイフとフォークを用意するクロ。


「うふふ、クロさまに後ろから監視されていると思うとゾクゾクしますね~」


「はっ!? 料理に集中している隙に私たちのお尻を舐めるように見ているとか、クロ先輩はド変態ですね!」


 クロが今見つめていたのは食器棚に入れられている銀食器の黒ずみなのだが、振り返ることなく話す二人の言葉に反論もせずその皿を取り出し後でヴァルに強化魔法を掛けて貰おうとシンク近くへ積み上げる。


「ん? ノリが悪いですね~それとも本当に傷ついて……こっちすら見ていないだと……」


 振り返ったアイリーンが目にしたのは銀食器の黒ずみを見つめるクロの姿であり、女子としてのプライドが多少なり傷付いていたのはアイリーンの方であった。


「ほら、最近はあまり銀食器を使っていなかったから硫化してるだろ」


「本当ですね~銀食器が変色する事は知っていましたが、こんな感じになるのですか~」


「普段から使っているとこうはならないがな。今浄化魔法を掛けて貰っても大丈夫か?」


「そのぐらいなら構いませんよ~浄化の光よ~」


 光の粒子が降り注ぎ浄化魔法の効果で輝きを取り戻した銀の皿を確認したクロは食器棚に戻し、メリリが焼いたパンケーキをアイテムボックスに収納する。


「うっ……クロ先輩のせいで少し焦げて……これはクロ先輩分として、次を焼かないと」


 アイリーンも多少色がダークブラウン程度に焦げたパンケーキを皿に移し振り返り、クロはこれぐらいならセーフだろと思いながら収納し、すべてのパンケーキが焼き上がるまで待ちながら適当に手伝いを続ける。


「甘い香りがする!」


「うむ、良き香りじゃな」


 先ほどまで花壇に水をやっていたラライとロザリアが帰宅し、ラライは走ってキッチンカウンターから身を乗り出して様子を窺い、ロザリアは「これ、帰ったら手洗いなのじゃ」と注意し慌ててロザリアに続き洗面所へと移動するラライ。


「ロザリアさんは意外と面倒見がいいよな」


「自然とラライちゃんを注意していましたね~あの話し方もそうですがお婆ちゃんみたいです」


「うふふ、ロザリアさまはヴァンパイア族ですから長寿ですし、国には妹や弟がいるらしいですよ」


「ふわぁ~おはようございます……」


 ロザリアの話をするキッチン内に挨拶と大きな欠伸をしたのはルビー。まだ眠いのか目を擦りながら洗面所へと移動し、ラライからテンションの高い挨拶を受けて目をぱちくりさせ挨拶を交わしてすれ違う。


「ラライは朝から元気なのじゃ」


「私は朝弱いので……ふわぁ~顔を洗ってきます……」


 ラライがキッチンカウンターに腰を下ろし隣にはロザリアも腰を下ろすと、クロから温かい緑茶が差し入れられそれを手にする二人。


「朝は少し冷えたから暖かいのは嬉しいのじゃ」


「うん、緑色したこのお茶は美味しい! 薬草茶よりも飲みやすくて好き~」


 ふうふうしながら緑茶を飲む二人の話し方もあってか、孫と祖母の会話に聞こえ肩を揺らすアイリーンとメリリ。


「これで最後ですね~後はトッピングとサラダを出して、スープを温めはメリリさんお願いします」


「うふふ、お任せ下さい」


 パンケーキが焼き終わり最後をアイテムボックスに入れたクロは食器をリビングへと運びランチョンマットをセットする。


「甘い香りがするわね……アイリーンが朝食を作ると張り切ってたけど……」


 屋敷へと戻ったビスチェ。その後ろにはランニングをしてきたシャロンたちもおり汗を拭きながらキュアーゼとメルフェルンはお風呂へと直行し、シャロンはフィロフィロを頭に乗せたままクロと朝の挨拶交わす。


「なあ、それってフィロフィロの散歩になるのか?」


「ピィー」


 尻尾を揺らし鳴き声を上げるフィロフィロにシャロンは頭を水平に保ちながら笑い、ラライやロザリアも肩を揺らす。


「クロ先輩! シャロンくんとイチャイチャしたいのは大いに結構ですが、パンケーキを盗んだまま居なくならないで下さいよ~」


「盗むとかいうなよ……はぁ……」


 アイリーンに呼ばれキッチンへと向かうクロに頬を目見送ったシャロンはフィロフィロを頭から下ろし目を輝かせるラライに手渡す。


「フィロフィロ~今日も可愛い~」


「フィロロロロロロロ~」


 ラライに優しくだから喉を撫でると目を細め鳴き声を上げるフィロフィロ。シャロンはキュアーゼとメルフェルンがお風呂から出るまで待ちながら汗を拭き、ロザリアはルビーと共にアイアンアントの甲殻を使った防具を話し合っていると階段を降りるエルフェリーンの姿がありキッチンへ直行するとクロへと話し掛ける。


「クロ! 元気そうで良かったよ~昨日は心配してお酒をあまり飲めなかったから、今日はいっぱい飲もうぜ~」


「朝からお酒の話とか……でも、ご心配かけてすみませんでした」


 頭を下げるクロにエルフェリーンは笑みを浮かべる。


「僕が失敗した後処理をしてくれたのに謝らないでよ~クロはちゃんとサボることを覚えないとダメだよ! 一生懸命なのはいい事だけど、一生懸命だと疲れちゃうぜ~手を抜いていい時はちゃんと手を抜くこと!」


 人差し指をクロに向け説教モードのエルフェリーン。クロはそんな優しいエルフェリーンの言葉を受けながらも自然と笑みを浮かべ、説教していたエルフェリーンも同じように笑みを浮かべる。


≪クロ先輩、パンケーキを出しながら怒られてくれません?≫


 目の前に浮かんだ文字にクロはアイテムボックスを立ち上げるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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