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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第三章 ダンジョン採取
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宝箱と真実



「いや~アイリーンの糸は捕縛するのに便利だね! あのアイアンゴーレムさえも動けなくするとは恐れ入ったよ」


≪照れる! 初代アラクネとして恥ずかしくない戦闘を心掛けます≫


「それにしても十三階層の中央にはいっぱい居たわね」


「ああ、それは宝箱を守っているんだよ。中身は開ける度に変わるけど、今回はどうかな?」


 十三階層を徘徊する多くのゴーレム数種を倒した一行は戦利品をクロに預けると、死角になり易い岩場の窪んだ陰へとまわり込む。


「ほらあった。ここの宝箱は低層の割には良いアイテムが出ると取り合いだったのに、今の冒険者たちは狙いに来ないのかねぇ。罠はなさそうだし、ここ最近、運が上がって来ている気がする者は挙手!」


 エルフェリーンの言葉に一瞬目が点になる一同。


「こういった宝箱は開ける者の持つ運が重要だからね。必ず同じ物が入っている宝箱なら運は関係ないけど、毎回ランダムに変わる宝箱は運に左右されるんだ。運が悪く連続でハズレアイテムを引くと、お前は宝箱を開けるな~とか言われちゃうんだぜ。実際にいくつも宝箱を開けていると自分の運の良さや悪さを体感するものだよ。うんうん」


 腕組みをして力説するエルフェリーンに最近の自分を当て嵌めるパーティーメンバーたち。


「私は女神さまにも会ったから運がいいのかな?」


「それはルビー以外のみんなで会っただろ」


≪はいはい! 私は世界初のアラクネ種に進化しました!≫


「私はお世話になっているおじさんに褒められましたけど……あのスープは美味しくなかったなぁ……」


「僕は古い友人に会って酒を酌み交わしたぜ~」


「それこそここにいる全員そうですよ……いや酒を飲んだだけで、古い友人と会うのは運が良いからなのか?」


 各々が意見を出し合い自身の最近の運の良さを口にする。


「解ったわ! この中で運が良いのはクロよ!」


 何かが思い付いたのか、ハッとした表情から凛々しい顔に変わったビスチェがクロを指差しポーズを決める。


「へ、俺?」


「そうクロよ! 私たちがお風呂に入った残り湯を、きっと鱈腹飲んだはずだわ! この変態!」


≪キャークロさんのえっち!≫


「うわぁ……それは引きます……」


 ビスチェが罵倒し、アイリーンが魔力で生み出した糸で宙に文字を描き、ルビーが数歩後ろへ下がる。


「お前らなぁ……俺はラルフさんと一緒にお風呂に入ったが、残り湯を飲むほど変態じゃねーよ! 残ったお湯もあの場に捨てて来たし、何よりラルフさんが証人だ。今度会ったら聞いてみろよ。ったく……俺は女神ベステルさまから指輪を貰ったな……ああ、でも、教会で変な騎士に喧嘩を売られたっけ……他は……女冒険者のお風呂を妄想したとか疑われて……」


「やった! ミスリルの短剣だよ!」


 クロが一人自身の運に関して口に出しているとエルフェリーンの喜ぶ声が響き一斉に視線を向けると、その手には銀の短剣が握られており柄の部分には宝石などで装飾された豪華な物が視界に入る。


「何だかゴテゴテしていて実戦で使いづらそう」


≪ミスリルは魔力伝導率が高く、固い殻でも簡単に斬る事ができますね≫


 眉を顰め短剣を見るビスチェにエアリンゴの皮むきをするアイリーン。ただ、ルビーは目をキラキラさせエルフェリーンの手元へと近づき凝視する。クロは自身の運について考えながらもビスチェに冤罪ばかり被せられているなぁと少し落ち込んでいた。


「キュウキュウ」


「ん? どうした?」


 リュックから白亜の声が上がりクロは辺りを警戒すると、ビスチェとアイリーンもすぐに臨戦態勢に頭を切り替える。


「あれは魔方陣……魔物が湧きでるところね!」


 先ほど戦闘していた場所の岩場に魔方陣が浮かび上がり、その中からゆっくりと姿を現すアイアンゴーレム。


「よし! 試し切りするから離れて!」


 エルフェリーンがミスリルの短剣を構え魔力を通すと紫に輝きはじめ、走り出すと紫の光が更に発光し、動き始めたアイアンゴーレムがエルフェリーンに向け両手を上げた所で交差し、斜めに崩れ落ちる上半身。


「す、凄いです! 魔力を通したミスリルの斬撃です!」


≪まるで熱したナイフでバターを斬ったみたい……≫


「あれも魔法に分類される身体強化の応用ね。魔力を武器に通せば誰にだってできるわよ。ただ、込めた魔力が多ければ多いほど威力も射程も上がるから、少しやり過ぎね」


 ビスチェが呆れたように解説する通りにアイアンゴーレム以外にも亀裂が入り、岩場の地面には深い一筋の線が長く引かれていた。


「恐ろしい威力だな……それにナイフが赤くなっている……」


「熱ちち、ふぅふぅふぅふぅ、少し魔力を込め過ぎたね。こんな風にミスリルを使った武器は魔力を込めて攻撃すると破壊力が上がるから注意だよ。魔力を込め過ぎれば武器にも負担が掛かり融解する事もあるからね」


 オレンジに変色したミスリルナイフを息を吹きかけ冷ますエルフェリーン。次第に元の銀色に変化して行くが、刀身には小さなヒビが入り若干の刃こぼれが見て取れる。


「ああっ!? ナイフが! ミスリルのナイフにヒビが!」


「これは打ち直せばまた使えるよ」


「打ち直せばって、いくら掛かると思っているのですか! ミスリルの武器が高価なのはその性能と希少価値に打てる人材が少ないからです! ドワーフでもごく一部の者しか扱った事がいないのに、簡単に直せるとでも思っているのですか!」


 ルビーが声を荒げミスリルの貴重性を語り、苦笑いをするエルフェリーン。


「僕は一時期だけど鍛冶にはまってね。ミスリルやオリハルコンを使った武器や防具を作った事があるよ。もちろんこれも直せるし、なんならエンチェントを入れて耐久性を上げる事もできるよ」


「え、エンチャント……それはもう鍛冶屋の域を超えて……」


 目を見開き小声で呟くルビー。ビスチェはその事を知っていたのか驚く事はなかったが、クロとアイリーンは驚きの表情を浮かべている。


≪それなら私に日本刀を一本打って欲しいです!≫


「ニホントウ? それは一体どういう武器なのかな?」


「日本刀は玉鋼だかを使って何度も叩いて作る剣だっけ? 作り方はよく解らないけど斬るのに特化した武器ですね」


≪これでも私は歴女です! 作り方も覚えています! えっへん!≫


 胸を張るアイリーンにエルフェリーンは頬笑みながら「暇な時に一緒に作ろうか」と口にすると、その場で喜びジャンプするアイリーン。


「な、何なんですか……エルフェリーンさまもアイリーンさんも……ミスリルやオリハルコンまで扱った事があったり、未知の武器を知っていたり……」


 驚き続けるルビーにビスチェが口を開く。


「世の中にはまだまだ知らない事が多くあるのよ。師匠が大昔に打った剣や槍は聖剣やら神器とか呼ばれて教会で大事にされていたり、この国にも飾られていたりするわね。先日会った聖女が持っていた魔剣アノヨロシも師匠の作品よ」


「せ、聖剣……それって神から賜ったと……」


「あははは、神じゃなくて友人の失敗作を僕が手直しした物だよ。魔力が通り過ぎるからある程度の魔力を持つ者にしか使えなくして、切れ味と空気中に漂う魔力を運用できる様に改造した魔剣だね。聖剣と言い張っているのは教会が力を誇示したいからじゃないかな」


 笑いながら話すエルフェリーンに目を見開き顎が外れるほど口を開くルビー。折角なのでアイテムボックスから出した十円チョコを開封し口に入れるビスチェ。


「あむあむ……甘いです……美味しいです……って! 何を口に入れてるんですか! 美味しいですけど、今は聖剣の作者に出会えた感動が……あむあむ……」


「キュウキュウ」

 

 チョコの匂いに誘われリュックから顔を出す白亜は口を大きく開けチョコを待ち、ビスチェは新たに包装を剥がすとその口に放り込み「キュウキュウ」喜ぶ白亜。


「取り敢えず先に進みませんか? 鉄のインゴットも二十本以上集まりましたし、また不意にゴーレムが現れるかもしれませんから」


 クロの言葉に十四階層へと足を向ける一行。


 ルビーは「あ、ありえない……」と呟きながら後を追うのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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