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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十六章 真夏の過ごし方
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クロの吸引力とアイリーンの気遣い



 頭上に黒いシールドを使っているがそれでも気温は上がり体感温度が急上昇する現在、クロはアイテムボックスの機能を使い砂と砂利の間ほどの大きさをアイテムボックスに入れていた。

 スコップを使い入れるよりは遥かに楽なのだが、砂の量は多くまだしばらく時間が掛かるだろう。


「ふぅ……流石に汗が止まらないな……」


 額から流れる汗を拭い視線を向けた先では妖精たちと一緒に水を掛け合うビスチェとエルフェリーンの姿があり涼しそうな姿に微笑みを浮かべながらスポーツドリンクを口に入れる。


「水に入ると涼しいぜ~」


「ふふ、こうやって水に入るのは久しぶりね!」


 普段着ている服はしっかりとした布製な事もあり下着が透けるような事はなく見ていても怒られないだろうと安心しながらスポーツドリンクを口にしていると、屋敷からこちらへと向かって来る一団が目に入る。


「クーロー! 見て! 見て!」


 クロの名を叫びながら全力で走って来るラライと、宙に糸を飛ばしてこちらへ向かって来るアイリーンの姿が目に入り軽く手を振る。


「とおっ! って、砂風呂でも始めたのですか!?」


 クロの横に着地したアイリーンはその暑さに驚き陽炎が立ち上っているのではないかと思うほど岩の上は暑く手で扇ぎ、クロは冷たいスポーツドリンクをアイテムボックスから二つ取り出し手渡す。


「ここにいると熱中症になりかねないから飲んどけよ」


「それは有難いのですが、この暑さじゃクロ先輩が熱中症になりますよ」


「ああ、そこは気を付けているから大丈夫だよ。ほら、タオルに保冷剤を包んでいるからな」


 首のまわりに巻いたタオルの中には凍った保冷剤が入っておりそれを見せるクロ。下ではラライが到着したのか妖精たちに挨拶をし、挨拶のお返しに水を掛けられキャッキャしている。


「それにしても暑いですね。ここだけ以上に暑いというか……」


「それは師匠が頑張ったからな。この岩をくり抜くために魔剣を使って内側を切り裂き、内側だけを斬るためにシールドを張ったからだな。ブロック状になる予定だったが内部の熱と中に多少含まれている硬化岩が変な反応を起こして砕けたらしい。ほら、この硬化岩とかは砂よりも大きいだろ」


 親指のサイズほどの硬化岩を手にしたクロはアイリーンに見せる。


「硬化岩は魔力と反応して色を変えるといいますが金色ですね……」


「魔力の強さによって色を変えるらしいからな。虹色をしたものもあったが、色が変わってきているな」


 砂の中に混じった硬化岩はエルフェリーンの魔力を受け虹色に変わっていたが時間が経過した事もありその色が変化している。硬化岩はその名の通りに硬く屋敷の建材として使われており、この辺りには多くの硬化岩が地中に埋まっている。


「私が魔力を込めたら色が変わりますかね?」


「師匠並みの魔力があれば変わるだろうが……ビスチェでも金色を出せるかどうからしいぞ」


「うぅぅぅ、込めましたが金色から変化ないですね……改めてエルフェリーンさまの魔力の凄さが理解できます……暑っつい! では、私は水浴びに~」


 立っているだけで汗が滲み出る岩の上から飛び去ったアイリーンは下の岩をくり抜いたプールへと向かい、残されたクロは手を翳して砂の回収を進める。

 掃除機のように収納されていく砂を見ながら、まだまだ終わりが遠いなぁと思っていると妖精たちが現れ手には木製のカップを持ちクロの頭上を飛び去っては水を掛け、少しだけイラっとしたがその冷たさに「ありがとな」とお礼を口にする。


「クーロー! 行くよ~」


 下から聞こえた声に振り向くと桶を構えるラライの姿があり、アイリーンがラライの為に作った白いスクール水着を着た姿に思わず吹き出しそうになるが、目の前に迫る水飛沫に思わす腕を上げ防御態勢を取るクロ。


「痛っ!? こら、威力を考えろ!!」


 オーガの力強い腕力から放たれた水は消防車の放水を思わせる一撃であり、防御したクロは後ろにひっくり返りそうになるのを堪えバランスを取ろうとするが、足場が砂で力が入らず尻もちを付く。


「あはははは、ラライは力持ちだね~クロがひっくり返ったよ~」


「でも、涼しくはなったわね!」


 キャッキャと笑うエルフェリーンとビスチェにラライも笑い出し、ラライをそそのかしたアイリーンも肩を揺らす。

 顔を振り水気を飛ばし立ち上がると風が駆け抜け、キラキラとした光を纏った風の精霊が見え心地の良い涼しさを感じながら砂の回収を再開するクロ。


「仲間外れはずるいのだ!」


「キュウキュウ!」


「わふぅ!」


 大きな声を上げながら駆けてくるキャロットと白亜に小雪の姿に微笑みを浮かべ、夏の日差しを遮るシールドを増やしたクロは夕暮れまで砂を回収するのであった。







「だから無理するなといったのにっ! 夕食はどうするのよ!」


 オレンジ色に輝く夕日が差し込む屋敷の中でクロは頭に濡らしたタオルと脇にタイルに巻いた保冷剤をセットされ項垂れていた。


「大丈夫でしょうか?」


 今にも泣きそうな表情を浮かべるシャロンにクロは軽く腕を上げ振りながら「少し休めば大丈夫だ……」と力ない声を漏らす。


「早くアイリーンかヴァルにエクスヒールを……ん?」


 早々に回復させようと提案したビスチェだがキッチンで作業するアイリーンとヴァルの姿に首を捻る。


「こうやってすり鉢に炒った胡桃を入れて棒で確り潰します」


「魔法を使ってはダメなのですか?」


「そこは魔法で楽をしないで自分の手でゴリゴリと潰した方が愛情……手作り感が出ますからね~」


「なるほど……」


 アイリーンが指揮を執りヴァルがすり鉢で炒った胡桃をすり潰し、メリリは竈で米を炊いている。アイリーンはまな板の前でキュウリをスライサーにかけ、大葉とミョウガを刻んでいる。


「クロが倒れているのに料理?」


 キッチンカウンターへ到着したビスチェが料理をするアイリーンたちへ疑問を投げ掛ける。

 いつもならアイリーンがエクスヒールを掛けすぐに全快させるだろうが、今日は倒れているクロを放置してまで料理をしているのだ。ヴァルも同じエクスヒールが使えるのだがすり鉢を不器用ながら使い胡桃を潰している。


「クロ先輩には悪いと思いますが自業自得です! それに、ああやって倒れないと休まないクロ先輩ですからね~休ませるためにも寝かせておけばいいのです!」


 高速でキュウリをスライサーでカットするアイリーンの言葉に、ビスチェは腕組みをしながら首を捻り、エルフェリーンはビスチェの裾をクイクイと引き小声で話し掛ける。


「あれはアイリーンなりの心配と気遣いの仕方だぜ~それにヴァルもクロのために料理をしたいと手伝いを申し出たんだ。いいねぇ~誰かの為に何かをしたいと思うのは」


 エルフェリーンの言葉に、それなら体力回復ポーションをクロにぶっかけるのはやめようとアイテムボックスから取り出していた物をそっとポケットに入れる。


「クロはいつも限界まで頑張るからね~ちゃんと休む事やサボる事も覚えないとだね~」


「私は得意! この前も草むしりをやった風にしたよ!」


 得意げな表情を見せるラライにエルフェリーンは声を出して笑い、ビスチェは呆れた顔をしながらも体を休め冷やすクロへと視線を向ける。


「確かにクロを休ませるのも必要かもしれないわね……でも、白亜と小雪にフィロフィロが心配しているわ……」


 クロを寝かせているソファーの近くでは白亜がクロを心配しオロオロと動き回り、小雪はお座りのままクロの近くから動こうとはせず、フィロフィロはシャロンに抱かれながら何度も心配そうな鳴き声を上げる。


「そうだね~早く良くなってもらわないと他の子たちの心が疲れちゃうね~心配させたクロが元気になったらお返しをしてもらうね~」


 微笑みながら話すエルフェリーンに、ビスチェの脳内では白ワインとスモークしたチーズが浮かぶのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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